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第十七話 始動する翼(フリューゲ)


冒頭に少し過去編が入っていますが、すぐに現代に戻ります。


ちょっとした補足が行われるだけです。





「あ、そうだ、ルート、フラッシュ、言い忘れた事があったんだ」


ルートとフラッシュが狂喜乱舞し、それに強烈な拳骨を食らわせた後、悶える2人をしり目に思い出したように人差し指を立てた。

因みに、ツンデレ発言したレイはあの後強烈な回し蹴りを食らった。


「な、なに?」

「まあ、これはフェイナにも言えることなんだが……」

「あたし?」


突然名前を呼ばれ動揺するフェイナ。自分もあの拳骨を食らうのかとつい後ずさってしまう。


「今日で、俺はルートとフラッシュの、レイはフェイナの保護者じゃなくなる」

「「「……え?」」」


3人が茫然とした表情でいるので、呆れた表情でマックは3人に向けて言った。


「当たり前だろう。これが実の親子だったら話は別だが、俺たちは違う。お前たちが独り立ちした時点で、俺たちは保護責任者じゃなくなる。これからは、ただのマック、ただのレイ、だ」

「父さん、て呼んじゃだめなのか?」

「そうだ。これから俺たちは上官、部下の関係になる。まあ、仲間には変わりない。だが、今までのように気安い関係でなくなることは確かだ。上官として示しをつけんといけないからな。お前たちもそのつもりでいてくれよ?」

「いいさ、父さ、マックと同じ世界にいられるんだ。大したことじゃない」


ルートがニヤリと笑う。それを聞いてマックはホッとため息をついた。さすがに戦闘時まで「父さん」などと呼ばれたらその場の全員がずっこける気がしてならない。


「レイ、そういうわけだから……」

「分かっている。今日中に荷物をまとめておく」

「え、どうして?」


フェイナが首をかしげる。


「保護者でもない男が一緒ではお前も窮屈だろう。これからは広々と部屋を使うと良い。まあ、隣くらいにはなると思うが」

「そう……」


残念そうにフェイナが俯く。その様子にミフネがおやっと首をかしげ、何かを察したのか表情を変えずに何度か頷いている。


「では、3人とも」


一通り終わった後に、ミフネが立ち上がって机に3枚の部隊章を並べた。


「これからは本当の意味で我々の仲間だ。頑張ってくれたまえ」


「「「はい!!!」」」












「旅団長、どうしたんですか?」


不意に背後から声をかけられ、マックは振り返った。そこにはヘリの整備を手伝っていたレイが工具箱片手に立っていた。

見れば後部甲板から見える日が傾いている。

存外長い時間ここにいてしまったようだ。


「レイか、いやな、久々に昔のことを思い出していてな」

「というと、『ブラン・コーリア』の……?」

「そこから今に至るまで、のだな」

「随分と懐かしいことですね」


レイが工具箱を脇に置いてマックの隣に座った。


「レイが実はルートたちよりも年下だと言った時の3人の顔を思い出すと、今でも吹き返す」

「フェイナの驚きようが印象的でしたね。『まだ可能性はある』とか意味の分からない言葉を呟いていたのが気になりますが」

「……そういうのは忘れて良いと思うぞ」


未だに、レイはフェイナを育てた娘のように見ているのだろう。傍から見てればこれほど鈍感な男はいないだろう。恋愛とは無縁の種族なのだから仕方のないことなのだろうが。


「もう、5年ですか、3人が入隊してから」

「速いものだな。あっという間にレイを追い抜いて部下に従えてしまった」


わずか5年だった。

ルートとフラッシュが部隊長までのし上がるのにかかったのは。

フェイナが情報部隊のエースとしてマックの片腕のようになったのにかかった時間は。


「あれだけ優秀な隊長に連れ添えるのは、いい気分だ」

「語尾が昔に戻ってるぞ」

「おっと、機械人らしくないと思っただろう?」


わざとらしく口元を隠すレイ。

男がやっても面白くもなんともないぞ、とマックは心の中で思うが、口には出さない。存外レイは手が出やすい男だ。回し蹴りを食らわした時も、その後やり返されたのを今でも覚えている。部屋を出ようとしたところを背後から強烈なものをやられて、半日腰痛で動けなくなった。よくよく考えてみれば、機械人に蹴りなど効かないと、どうしてあの時気が付かなかったのだろう、とマックは悩んだ。


「2日後には偵察機を飛ばす。敵勢力を把握次第、状況を開始するぞ」

「分かっている。俺たちのあまり良くない思い出だが、踏みにじることは許さん」


マックたちにとってすべてが始まった場所だ。

内容の良し悪し関係なく、思い出の場所を心無い者たちの居城にされるのは良い気がしない。


「しかし、どうやって接近するつもりだ? 視界良好すぎて危険だと聞いているが」

「なあに、ちょっと巣穴を突けば蟻のように飛び出してくるさ。たとえそれが軍隊蟻であろうと、戦力を分断すれば恐れるに足らん」


まだ正式な作戦は練りあがっていない。おおざっぱなアウトラインは出来上がっているが、要所要所の詰めが終わっていないのだ。敵勢力の不明瞭さもあって、正面から行くか、搦め手で行くかで意見が割れているのも事実だ。


「俺たちの出番のようだな」

「もちろんだ。先陣切って行ってもらう。それに今回は俺たちも戦うからな、この艦で」


甲板を拳で軽く叩く。


「随分と長い間、眠らせてしまったからな。たまには、な」

「ふっ、楽しみだ」


ニヤリと笑うとレイは立ち上がり、工具箱を持ち上げた。


「ではな。この後403部隊の集まりがある」

「そうか、頑張れよ」

「お前もな」


そう言うと、レイは手をヒラヒラと振りながら格納庫の中に消えていった。

マックはそれを見送ると立ち上がり、腰に手をやって軽く体をそらす。腰が曲がっていたためか若干痛みが伴った。















翌日、マックの部屋に大勢が集められた。


「傾注!」


マックの副官である女性が、その細い体のどこから出しているのかも分からないほどの大声で言った。

偵察機の出動を前に、概ねの作戦を伝えるために、戦闘部隊である全ての隊の長がマックの執務室に集められている。

402部隊から410部隊の隊長と、ヘリ部隊、戦車部隊、輸送部隊、航空部隊、等の隊長が思い思いに雑談をしていたが、彼女の凛とした声に全員が口を閉じ、前を向く。

そこにはマックが立っている。その手には何かのリモコンらしきものが握られており、マックは副官に合図を送ると、副官の女性が部屋の隅へ行って部屋のライトを2つほど残して全て消した。執務机の上のライトは点いており、マックはその下で何かの装置を操作している。


「まずはこれを見てくれ」


マックが何かのボタンを押すと同時に、部屋の天井から薄い垂れ幕のようなものがスルスルと降りてくる。そして、その幕に向けて映像が映し出された。

円形の地図がそこに浮かび上がる。


「これが、今回の目標『血の盟約』が潜伏している廃都市『ブラン・コーリア』の戦前の見取り図だ。現在はかなり崩落しているが、俺が覚えている範囲で補足は行う。細かい状況は明日の偵察機の画像を待つしかないから、我慢してくれ」


そう言うと、マックは手元のコンピュータを操作して、地図のいくつかの場所に赤いバツマークをつけ始める。


「まずは南門、ここは15年前の戦争で吹き飛んで跡形もないから使用不可。西門は俺の記憶では無事だが通りのビルが倒壊していたように思えるからまず入っても進めないだろう。北門も無事だが、ここは中央まで大きな通りで結ばれている。しかもところどころに開けた場所があるから敵が陣取るならここだろう。東に門はないため、確実に入れると思われるのは、ここだ」


都市の外壁の一部、そこに赤い丸を書きこむ。


「ここには俺が昔いた軍が撤退するときに爆破して作った爆破口がある。大型の戦車が十分通れるだけの幅がある」

「敵も気が付いているのでは?」


聞いたのは戦車部隊の隊長だ。突撃に際して一番槍を務めるだけに、待ち伏せを受けてしまっては話にならない。

マックもそう言われることは分かっていたようで、頷きながらさらに赤い線を引き始める。


「実はな、ここは真正面に巨大なビルがあるのが分かるな? ここの1階に穴を開けて地下駐車場に降りられる戦車橋が架けられているんだ。地下に車両を隠す時に使っていたんだが、上部のビルも頑丈だから、十中八九まだ残っていると思われる。しかも、ここは北から中央にかけての場所からかなり離れている上に、本来の地下駐車場の出入り口は撤退時に爆破封鎖したから、爆破口側の入り口を見つけない限りまず見つかることはない。1個戦車部隊と401部隊をここから潜入させ、内部から攻撃する」


1個戦車隊、つまり3台の戦車と共に突入するということだ。


「先制攻撃はおそらく『血の盟約』から行われるものと思われる。近づいた時点でデカい的であるこの艦が集中攻撃されることは目に見えている。この艦は主砲の射程に入り次第攻撃を開始、とにかく派手に撃ち続ける。その間にヘリと戦闘機の援護を受けて残りの部隊が北から攻撃を行う」

「旅団長、401部隊って、存在したんですか」


聞いたのは407部隊長のフラッシュだ。とはいえ、今の質問はこの場にいた全員の総意のようなものだった。全員がマックの方を見る。

そこでマックは目を皆の方に移し、口を開いた。


「401部隊とは、旅団長権限により全部隊から選出された選抜部隊の事だ。俺が旅団長になってからは1度も召集していないが、先代の時は何度か召集されていた。既存の部隊では対応が困難な任務を行う部隊だ」

「つまり、遊撃部隊みたいなものですか?」

「まあ、似たようなもんだな。人員は明日の偵察の情報も含めた上で作戦開始前に発表する。隊長が選ばれた場合は、副隊長が代理を務めて部隊をまとめる旨を伝えておいてくれ」


そう言うと、マックはコンピュータを閉じ、ライトをつけるよう指示する。

ライトが点灯して、視界が明るくなる。


「実を言うとだな、こんなものがあるんだ」


マックは机の引き出しから1枚の紙を取り出して、近くにいた男の1人に手渡した。男がそれに目を通して、しかめっ面をした。


「契約書、ですか」


それは契約書だった。外部の雇い主が旅団を雇う時に使用する正式なものだ。


「これはある意味弔い合戦であり、私闘でもある。だが、我々は傭兵だ。雇用主もいないのに動けば百害あって一利なしだ。よって俺が旅団を雇う」

「……いや、旅団長がトップですし、問題ないと思いますが」

「俺のけじめだ」


マックは今回の戦闘にかかる全ての費用を自分で払うと言っているのだ。

旅団長として、もちろんマックは給料を受け取っているし、指揮官としてそれなりの金額を受け取っているだろう。だが、それでも全旅団を動かすとなれば冗談抜きで天文学的数字になりかねない。特に主砲の弾は量産されていないため、特注で作らせている物だ。しかも、雇い主は修理費や治療費も負担しなければならない。人数に比例してその金額も跳ね上がる恐れがある。


「安心しろ、伊達に節制してきたわけじゃない。1回旅団全部を雇っても大丈夫なくらいの金は貯めてる」


ニヤリと笑うマックに、誰も何も言えない。

思えばマックは旅団長にしては私物が恐ろしいほど少ないし、趣味で集めている本にしても何にしても金をかけたと聞いたことはない。


「とにかく、そういうわけだ。雇い主である俺を満足させるだけの戦果を頼むぞ」




いよいよ、旅団が始動します。


401部隊とは選抜された特殊な部隊でした。

そりゃあ、幽霊部隊と呼ばれてもおかしくないですよね~。


雇い主はマックということになります。

まあ、傭兵だからタダで動くことはないのですが、身内関係では動くこともあります。ですが、それでは利益が出ない。そこでマックが自腹を切るわけです。


マックは旅団長になってからの5年間分の給料を使って旅団を動かすわけです。






誤字脱字でもかまいません。

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