第十五話 <過去Ⅴ> それぞれの覚悟
だああああああああああ、過去編が終わらない!!!!
出来れば次回から戻りたかったのに…………(TAT)
ですが、終わりは見えました。あと少しだけお待ちください。
フルボッコまであと少し…………これってネタバレ?
「俺も旅団に入る!!」
時間が止まったかのように、いや、事実マックの時間は止まったのかもしれない。隣にいるレイも目を閉じて黙って腕組みをしている。
なぜ、こんなことになってしまったのか、マックはそのことばかり考えていた。
時間は少し遡る。
「なに、話がある?」
食堂でマックが夕食を取っていると、ルートとフラッシュがやって来た。それにフェイナもいる。
あれからもう、10年も経った。
今ではマックは旅団の戦闘部隊としては最強を冠する401部隊の隊長を務めている。仲間からの絶大な支持もあり、次期旅団長最有力と目されている。本人は遠慮しているが、ミフネすらマックの支持に回っているようで、ほぼ確実視されている。
とはいえ、相変わらずハードなのは変わらない。むしろ、高度な戦闘を要求されるような任務を引き受けることが増え、いつの間にか大きくなっていたルートとフラッシュとこうやってゆっくりと話すのも久しぶりだ。2人はそんなマックでも育ての親として見てくれている。
普段笑顔の絶えない2人が妙に神妙な顔をしてマックの前に座るので、マックも食べるのを止めて皿を横にどかして2人を見つめる。
「で、話とは?」
「あ、待って、これはフェイナも話したいことだから、レイさんと連絡とれる?」
「ああ、少し待ってくれ」
マックはそう言って端末を取り出すと、レイに繋げて食堂に来られるか聞いた。レイからはすぐに行くという返事が返ってきて、通信を切った。
「今から来るそうだ。しかし、3人が揃いも揃って真面目な面してると、調子が狂うな」
「父さん、俺たちは真面目な話をしに来たんだ」
「うん?」
マックが顔をしかめる。妙なイントネーションがあった。
保護責任者を引き受けてから、今に至るまでルートもフラッシュもマックのことは「父さん」と呼んでいる。最初はレイ同様に何とも言えないむず痒さがあったが、今となっては慣れ、日常化していた。
「その、なんていうか、俺たちの将来のことなんだ」
「あ~、そういうことか、確かにレイもいた方がいいな」
マックは来るべきものがようやく来たか、という思い半分、来て欲しくなかったという思い半分が頭の中で錯綜した。
マックはルートとフラッシュの、レイはフェイナの保護責任者ではあるが、本当の親ではない。自分の事が自分で決められる年、15歳前後で、本人たちが望めば艦を降りて自立することができる。
「そうか、お前たちももう15歳か……。あっという間な感じがするな」
「父さん、仕事で忙しかったじゃないか。レイさんが僕たちの面倒まで見てくれてたんだよ?」
フラッシュが少し不満そうに言う。マックは苦笑するしかない。
「そうだったのか。レイには世話になりっぱなしだな。それはそうと、フェイナ、調子はどうだ?」
そうマックが聞くと、フェイナが右腕を持ち上げて手を開いたり閉じたりさせる。機械的な音がわずかに聞こえる。
「悪くないわ。ルートたち相手に組手ができるくらいだから」
ニッとフェイナが白い歯を見せる。
フェイナの義手義足は、ここ数年で大きく改良されている。これは本人の意向でもあったのだが、神経と電子回路を繋ぐジョイント手術を受け、それまでとは比較にならないほど細かい動きができるようになった。手術後は神経が常に異物に接触するという激しい痛みに襲われ、1週間まともに寝られなかったらしく、レイがつきっきりで看護していたのをマックも覚えている。
それよりも、若干気になる単語にマックは目を細めた。
「組手?」
「「「あ……」」」
3人が物凄くばつの悪そうな顔をする。
「すまん、待たせた」
「レイか」
その時、食堂にレイが現れ、マックの視線がそちらに向く。それを3人が安堵のため息をついて見ていたが、それにはマックは気づかない。レイは逆に気づいていたが、話が分からないのであえて何も言わなかった。
「なんでも3人が今後の事について話し合いたいそうなんだ」
「今後? そうか、もうそんな歳になったのか」
レイは物思いに耽るかのような仕草を見せ、マックの隣に座った。
そして、フェイナを正面に見据える。
「で、今後どうしたいんだ?」
マックが聞くと、ルートが立ち上がって宣言した。
「俺たちは旅団に入りたい!!」
そして、話は冒頭に戻る。
「ほお、レイはともかくとして俺は2人を戦争屋にするために引き取ったんじゃないんだが?」
マックが感情のこもっていない冷たい声がフェイナを含めて3人を委縮させる。
「俺たちは父さんの仕事を見て育ってきた。この旅団がただ金を稼ぐために人殺しをやってるわけじゃないってことは身を以て知ってるつもりだ。だからこそ、父さんのような強い人間になって、俺と同じような境遇の子供たちを助けたいんだ」
「俺の人生の半分も生きていない若造が知ったような口を利くもんじゃないぞ。いいか、この仕事は子供を救うためにやっている、これは確かに事実だ。だが、だからと言って人殺しが正当化されているわけではない。都市によっては傭兵を禁止している場所だってあるし、何より俺が2人が人殺しになることを望んでいない」
マックは静かに言う。
するとレイが身を乗り出してフェイナに向かい合う。
「フェイナも、同じなのか?」
「う、うん。あたしはこんな体だし、今の世の中がこんな体のあたしに温情じゃないことも知ってる。出来る事が限られてるなら、あたしはこの体を最も有効活用できることをしたい。ここなら、いつも皆といられるし、父さんとマックさんの役にも立てると思う」
レイはそれを聞いて何度か頷く。
確かに、戦後、今では『大崩落』と呼ばれる戦争後、確かに人間は機械人と和解した。だが、戦後10年、あの戦争を小さい頃に経験し、両親を戦争で失った人たちが大人になり、社会を牽引する力となった最近は、機械人や体の一部が機械の人間はあまり良い目で見られていない。
そういう風潮になるのも分かるし、理解もできるが、やはり、やりきれない思いになる。
だが、
「この際だからはっきり言うが、フェイナ、お前の身体は中途半端だ。四肢は機械だが、身体は生身だ。前線に出すにはあまりにお粗末な身体なんだ。全身機械の俺と違い、お前は頭、心臓に1発貰えば即死だ。だが、通常の任務ではお前は満足しないだろう? それではその四肢が機械である意味がないからな。つまり、何が言いたいかというと、ここにお前の働く場所は無いってことだ」
最後の言葉をやや強く言うと、フェイナがビクッと震えた。これまでになく、レイも厳しい目をしている。血は繋がらなくとも、自分が育ててきた子が戦争屋になると言い出して、はいそうですか、と言う訳がない。
「レイさん! そんな風に言わなくたっていいじゃないですか! 俺たちはちゃんと考えた上でここにいるんだ。小さい頃から父さんたちの仕事を見てきて、俺たちに出来ることなんて、これぐらいしかないって思ったんだ!」
ルートが食い下がる。
「ほう、いろいろ考えた、か。それは人を殺すこと、人に殺されることも考えたんだな?」
「あ、ああ!」
「では、目の前で助けられたかもしれない人が死んでいくのを見る覚悟は?」
「……え?」
「仲間を見捨てて子供を助ける覚悟は? 逆に子供を見捨てて仲間を助ける覚悟は? 1を捨てて10を助ける覚悟はあるのか、と聞いているのだ」
「そ、それは……」
レイは畳み掛ける。15歳程度の覚悟など、たかが知れている。そんな覚悟で、この世界に入っていいものではない。
「レイ、下手にいって上面だけの覚悟をされても困るんだが」
「それもそうだな、すまん」
マックはそう言うと、大きくため息をついた。
「だが、レイは良いことを言った。覚悟は大事だ。生死の狭間で生きる覚悟があるのなら、俺はもう何も言わんし、言っても聞かんだろう? だが、生半可な覚悟で俺たちの世界に入ろうと言うのなら、敵に殺される前に俺がお前らを半殺しにしてここからたたき出してやる」
3人がビクッとして、縮み上がる。
それだけ言うと、マックは立ち上がり、まだ残っている皿をそのまま返却口に持って行った。食堂の人が若干不満そうな顔をして、マックは詫びを入れる。
そして戻ってきたマックは3人を見下ろして言い放った。
「もう1度考え直せ。お前らは若い。これからいくらでも生き方を選べるんだ。今からこんな生き方に進まなくてもいいんだ」
先ほどとは違い、悲しそうな顔をするマックに3人がハッとなる。
マックは心配でならないのだ。我が子同然のルートとフラッシュに死んでほしくないのだ。レイも同じ気持ちだろう。
レイも立ち上がり、マックの言葉を継いだ。
「明日、10時に俺たちは用事で旅団長の所へ行く。覚悟があるのなら、そこに来ると良い」
2人は子供3人を食堂に残して食堂を去った。
後に残された3人はその後ろ姿を見つめるしかなかった。
部屋に戻ったルートは2段ベッドの下のベッドに飛び込んだ。うつ伏せのまま、先ほどマックが言った言葉を反芻する。
「覚悟、か」
「ルートはある?」
後から入ってきたフラッシュがベッド横の椅子に座り、机に頭を押し付ける。
「分からない。傭兵だから、殺すこととか死ぬことだけが覚悟だと思ってた。でも、父さんたちはもっと過酷な世界を生きてたんだな」
身体を捻って仰向けになると、真正面の上のベッドの下部に貼ってある写真を眺める。
何時だったか、マックが部隊の仲間と共に撮った写真だ。
皆泥だらけでボロボロだったが、皆笑っている。
ルートはそんなマックに憧れていた。
強くて、優しくて、時には厳しくて、そんなマックが羨ましかった。そしてルートはそんなマックを目標にして、今まで頑張ってきたのだ。マックがいない時でも若い隊員に声をかけてはマックの仕事の話をしてもらったり、組手の相手をしてもらったりしていた。レイが来たときは、さらに詳しい話を聞くことができたし、それを積み重ねるうちに、旅団に入ろうと志していた。
「僕たちには、それができるかな?」
フラッシュも同じだ。
あんな、最強で、正義の味方みたいなのが保護者では、憧れるなという方が無茶である。フラッシュの机にも、写真立てに入った1枚の写真が飾られている。そこには、レイと2人で写るマックの姿がる。レイと肩を組んで、顔にも迷彩を施して表情は分かりにくいが、白い歯が妙に強調されて笑っていることは分かる。
「それを決めるのも、俺たち自身だ。だけど、俺は父さんのようになりたい。それがどんなに厳しく、苦しい道だとしても、俺はその道を行く。父さんは1を捨てて10を助ける覚悟、と言っていたけど、逆に10を捨てて1を助けたことだって、父さんたちはあるんだ。命に格差はない、なんて言う人はいるけど、どんな時でも命の取捨選択はされているんだ。俺は、そんな時迷いたくない。自分が信じることができるようになりたい」
「それが、覚悟なんだろうね」
「ああ」
「それじゃあ、話は決まったね」
「そうだな、確か10時って言ってたな?」
「それじゃ、8時に起きよう。お休み」
フラッシュは立ち上がると、電気を消してベッドの上に上がっていった。
「お休み」
ルートもそう言うと、自分の目覚まし時計の設定を8時にして眠りについた。
覚悟をする覚悟など、とうの昔に済ませたさ、とルートは心の中で思った。
「ただいま」
「お帰り」
夜遅く、艦内をぶらぶらしていたフェイナは自室へと帰ってきた。
部屋にはいつもと変わらないレイの姿があった。
フェイナはルートたちと違い、レイと共に暮らしている。フェイナの身体の事もあるし、2人部屋なら何とか都合がついたのだ。3人部屋は1人がハンモックで寝ることになるので却下になった。
フェイナはあの後部屋にレイがいると思うとなかなか帰れずにいた。
しかし、何とか勇気を振り絞って帰ってきて、ただいまと言うと、いつも通りの返事が返ってきた。
「何も、言わないの?」
「何にだ」
「入隊のこと」
声を振り絞る。
レイはそれを聞くと、読んでいた本を置いてフェイナに向き合った。
「確かに、言いたいことは山ほどあるし、力づくでもお前を止めたい気持ちもある。だがな、覚悟のできた人間に何を言っても無駄なんだ。それは、覚悟を決めようとする人間も同じだ。だから、俺はお前の覚悟を見守ることしかできない。そして、答えを聞くことしかできない。俺は今からルートの所へ行くから、一晩1人で考えてみると良い」
レイは立ち上がると、上着を取って部屋を出ようとする。それをフェイナは呼び止める。
「反対しないの?」
「しないさ。だが、生半可な覚悟で来る奴は追い返す。たとえそれがお前でもな」
それだけ言うと、レイは部屋を後にした。
後には棒立ちのフェイナが残された。
フェイナは机の上に先ほどレイが置いていった本に視線が行った。
その本は『機械化』と書かれている。
その本を手に取り、パラパラとめくると、何か所にも付箋が挟まれており、所によっては書き込みもされている。
機械化手術のリスク。手術後のリハビリについて。手術にかかる費用、など、様々なことについて書かれている。
そして、フェイナは思った。
レイは、常にすべての選択肢をフェイナに提示しているのだ、と。
フェイナには、都市に降りて生きる選択も、ここで生きる選択も示されている。
しかし、ここで生きていくためには今のフェイナの身体では役不足である、とも言っている。だから、それをなくす選択肢も提示した。
何をどうするのも、全てフェイナの意志になるが、レイは可能な限りの選択をフェイナに与えているのだ。
本を眺めていると、フェイナが笑みを浮かべた。
「もう、遅いよ、父さん。あたしは、父さんのいる世界で生きるって決めたんだから」
それだけ呟くとフェイナは部屋の照明を消して眠りについた。
それぞれが入隊の覚悟を決めました。
次回、ルートとフラッシュがマックと直接口論する、予定。
それが終わったら現代に戻ります。
書きたかったネタを幾つか飛ばしてしまった……。
1:レイの年齢ネタ
2:マックの苦悩(主に金銭的な)過去編において
3:マックの苦悩(主に体型的な)現代において
マックは弄る箇所が多いので、そのうちやろうと思いますが、やらないかもしれません。期待はしないでください。
ユーモア欠乏症の作者に出来るかわかりませんので。
頑張って過去編を終わらせます。次回、悪くても次々回には……。
ふと思い出して、何も言っていなかったことに気が付いたので補足しておきます。
レイとフェイナは一時的ではありますが親子の関係にありました。それがどうして恋愛の関係(一方的)になってしまったのか、ということですが、年齢的なこともあった、ということにしておいてください。そのうちこれに関しては書きたいと思っていますので。
誤字脱字でも構いません。
感想お待ちしております。