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第十一話 出て来た答え 『故郷』


拷問シーンがあります。


拙い表現ではありますが、苦手な方は前半読み飛ばしてください。





人間にはいくら鍛えようとしても鍛えられない部位が多数あります。

そこを突く、というのが拷問の一種の方法なのです。



なお、拷問は国際条約で禁止されています。国内でもです。

なので絶対にやっちゃダメです。


誰もやらんと思いますが……。



男が目を覚ました。



その報告を受け、ルートたちはマックと共に医務室に向かった。

医務室の扉を開けると、ベッドでどうにか逃げ出そうともがく男の哀れな姿が目に入ってきた。


「おはよう、反乱軍のリーダー」

「ひいっ?!」


マックに話しかけられて男が情けない声を上げて震えだした。そして恐る恐る視線をこちらに向けてきた。誰が見ても、彼を一部隊の指揮官とは認識できないほどに狼狽している。本当に軍人なのか、と疑いたくなる。


「君にする質問は至って単純だ。『血の盟約』に根拠地を教えてもらえれば良いのだ。そうすれば、適当な場所で逃がしてやろうじゃないか」

「い、嫌だ! 教えれば俺は殺される! あいつらは裏切り者に容赦しないんだ!!」


案の定と言おうか、男は口止めされていた。

マックは「仕方ないな」と言って、端にいた医師に向かって目配せした。


「……はあ、ほどほどにお願いしますね。医務室の床が汚れますから」


医師はマックの意図を察したのか、部屋を出ていった。残されたのはルートたち三人、マック、捕虜の情けない男だけだ。医師が出ていったのを見て、男があからさまに動揺している。何はどうあれ、自分に良いことが起こるとは思っていないようだ。


「幸いなことに、この医務室は防音対策万全だ。……フェイナ、やれ」

「了解」

「ひいっ?!」


男がフェイナを見た途端、悲鳴を上げた。彼にとってフェイナはトラウマなのだろう。突然襲われて袋に詰め込まれて投げられたり落とされたりされたのだから。


「ルート、耳栓なんてしてどうしたんだ?」

「……、なんか言ったのか?」


ルートは耳栓をしている。

これから始まる阿鼻叫喚から鼓膜を守るためである。レイが訝しんでマックの方を向くと、マックもまた耳栓を取り付けている最中だった。並々ならぬ様子に、レイも音声感度を下げておくことにした。


そして、拘束されている男の前でフェイナがにやりと笑った。


「だから言ったでしょ? 『面倒見てあげる』って」

「や、やめてくれ! あ、あんたたち、黙ってないでこの女を止めろ!! こいつは俺を殺す気だぞ!?」

「安心しろ。死にゃあしないよ、死には」


男の手がベッド脇に固定される。必死になって抵抗するが、サイボーグであるフェイナの腕が抵抗する男の手をがっしりと掴み、まったく抵抗できなくする。男はベッドに大の字に固定され、手を開いた状態にされる。


「それじゃ、最後に聞くわね? 『血の盟約』の居場所は?」


フェイナがポケットから薄く、細長い金属板のようなものを取り出した。幅5ミリ程度の細い金属板を男の目の前でちらつかせながらフェイナはにこやかに聞いた。


「い、言いたくない。言えば俺は殺され、ぎっ! ぎゃあああああああああああ!??」


あまりにも唐突な出来事に、男は喉を潰さんばかりに悲鳴を上げた。

見れば薄い金属板が男の親指の爪と肉の間に押し込まれている。肉から爪が剥がれて、血が滲み出している。しかし、フェイナは構わず奥へ奥へと押し込んでいく。


「ぐあああああああっ!!!?」

「手の指が終わったら足ね。速く言った方がいいよ?」


そう言いながらも、2枚目の金属板を人差し指に差し込み始める。男はただ一言、「言う」と言えばこの苦痛から解放されるだろう。だが、死の恐怖からか、はたまた完全に痛みに耐えられないのか、口から洩れるのは聞くに堪えない悲鳴だけ。


「……こういうことだったのか」


レイが呟くが、男の悲鳴にかき消される。

すでに、男は言語を発してはいない。男の口から洩れる悲鳴も、人間じみたものではなく、生き物が発するとは思えない、耳を塞ぎたくなるような悲鳴だ。耳栓をしているにも関わらず、ルートとマックの顔面は蒼白、機械人であるレイも人工知能が反応に戸惑っている。


「う~ん、これじゃ大したダメージにならないかな」


右手の指すべてに金属板を差し込み、すでに手の下の床には血だまりが形成されつつある。だが、その量は決して多くなく、失血死などにはなりそうにない量だ。フェイナは最大の痛みを与えるが、死にはしない臨界を見極めたうえで、行っているのだ。

男は悲鳴を上げることもできずにただ痛みに耐えようとしているようで、目をつぶって口を噤んでいる。


「はあ、手っ取り早く終わらせます」

「な、何をっ!?」


フェイナは大の字に固定されている男に馬乗りになった。そして両手を男の側頭部に当てた。


「もう分かってると思うけど、あたしはサイボーグ。自分で言うのもなんだけど、力には自信があるの。そんなあたしに頭を両方から思いっきり押されたら、どうなるかしらね?」


ギシッ


ベッドが軋んだのでも、レイかフェイナの関節系が軋んだのでもなく、軋んだのは男の頭蓋骨だ。


「うごおおおっ!?」


押しつぶされる、という感覚に襲われるのは、男にとって初めての経験だろう。しかも、男は見てしまった。フェイナの目を、直視してしまった。


何の感情も込められていない、そこの見えない目を見てしまったのだ。その間にも、男の頭蓋が悲鳴を上げる。いつ、卵の殻のように割れるかも分からない、本当にそうなってしまう気に、男は襲われた。


そして、悲鳴の中から、1つの言葉を紡ぎだした。


「うがあああっ、い、言う、教えるからやめて、うぎあああ!!」

「何、ごめん聞こえない」


それでもフェイナは締め付けをやめない。いや、むしろ強さを増したのかもしれない。


「い、言うから、奴らは、ぐあああああっ! 『ブラン・コーリア』にいる! そう教えられた!!」

「『ブラン・コーリア』、そこに奴らがいるのね?」


一層手に力が入る。

男の目は焦点が合わないほどに目まぐるしく動き回り、口から呻きとも悲鳴とも分からない音が漏れ続けている。


「そ、そうだ! 『血の盟約』に合流したい者は、そこへ行けと教えられた!!」

「旅団長?」


手を頭に当てたまま、フェイナがマックに視線を送る。マックが小さく頷く。


「そんなところだろう、フェイナ、もういいぞ」

「了解」


フェイナが男の頭から手を離し、男の上から降りる。その瞬間、男は力尽きたのか口から泡を吹きながら気絶した。


マックはそれを確認して全員を外へと促した。全員で医務室を出ると、顔面蒼白で突っ立っている医師に鉢合わせして、マックが肩を叩いた。防音のはずなのだが、音が漏れていたのだろうか。


「『ブラン・コーリア』……、あまり聞きたくない名前だ」


マックの執務室へ向かう途中、ルートが呟く。それにフェイナとレイが同意する。


「あの都市から、全てが始まったようなものだものね、あたしたちの」

「逆に言えば、あの都市が無ければ、俺たちは出会ってもいなかっただろうが」















「『ブラン・コーリア』? それはまた……よりにもよってそこなんだ……」


マックが執務室に向かい、情報を整理したらまた呼ぶ、と言って一旦解散した3人は朝食を取るべく食堂へ向かった。朝もまだ早いため、食堂はガラガラであったが、そんな中で1人ポツンと朝食を取っているフラッシュを見つけた。


そして、昨夜から今朝にかけて起こったことをルートは説明して、今の台詞が返ってきた。


「あいつら、あそこで何やってるんだ……」

「ルート、顔が怖いんだけど……」

「フラッシュは、何とも思わないの?」


何か深刻そうな顔をするルートにフラッシュが恐る恐る聞くと、フェイナが答えた。

その顔もどこかいつもと違う。拷問時とはまた違う、怖さを感じさせる。


「何も思わない、って言ったら嘘になるけど、今があるのも事実。あの都市が崩壊したからこそ、僕たちは出会えた。別れも多かったけど、唯一無二の仲間に出会えたと、割り切ってるだけだよ」

「「…………」」

「レイは、どうかな?」


フラッシュが黙りこくっていたレイに聞く。


「……、俺はあの時はまだ今ほどに感情があったわけじゃない。記憶ではなくデータとして残っている当時のことを語るのは、あまり気分がいい話じゃないんだが、俺はあれがあって今の俺があると思っている」


レイが自らの胸に手を当てる。

人間であれば心臓があるべき所だが、レイのそこには小型の永久電池が埋め込まれている。外部からエネルギーを取り入れることで、半永久的に活動することができる。戦争前、機械人が作り出した最新テクノロジーの1つである。


再び静寂が場を支配する。

食堂が広いだけに、静けさが増大して無言の空間が構築される。


沈黙を破ったのは、ルートの通信機の音だった。


その場の空気を切り裂いた音に全員が引き戻されたかのように音源に目を向け、そこにマックの名が出ていてルートはすぐさま通信を開いた。


「ルートです」

『来てくれ、話し合いを始める』

「了解」


マックの声は若干低かった。彼自身も思うところがあるのだろうか。


「僕も行くよ」


フラッシュが立ち上がる。


「分かっている。もとよりそのつもりだ」

「どうも」
















執務室に入ると、マックは執務机に向かって座っていた。机には大きな地図が広げられており、大陸の中心、薄い茶色で表記されている部分の中央に赤い丸が書きこまれている。

そこを確認するまでもなく、ルートはそれが指し示す場所の名が頭に浮かんでいた。それはその場の全員が同じであった。


「『ブラン・コーリア』はここ。今では広大な砂漠のど真ん中にポツンとある廃都市か。15年前は緑が生い茂っていたのにな」


マックがペンのキャップを閉めながら、何とも言えない複雑な表情をする。


「ここからだと、丸3日走ればたどり着ける距離だな。接近すれば丸見えだが」


あの反乱軍が無補給で行ける範囲、ギリギリといったところだろうか。砂漠の行軍は時間がかかる上に、戦車などは砂をかぶって動かなくなることもある。何の対策もなしには行けない場所だ。それは旅団にとっても同じだ。


「…………」

「懐かしい、とは言わんが、何かしらの反応があってもいいんじゃないか?」


マックが4人を見つめる。


「ルートとフェイナ、フラッシュの故郷、そして、俺たちが出会った都市なんだ」















今は亡き、森の都市『ブラン・コーリア』。


全周囲を森に囲まれ、材木を輸出することで利益を得ていた、中規模の都市。


そして、『大崩落』最大の激戦地の1つ……。


ルートたちがマックに出会い、旅団に拾われた場所……。


実は、拷問のシーンはもっと苛烈な表現を入れようと思っていました。

腐っても兵士、これぐらいやらないと吐かないだろう、程度のを予定していました。

ですが、知識のない作者には使用用途を詳しく知らない拷問具とか使う気にはなれませんでした。そこでこのような結果になりました。


前書きで書いた通り、人間には鍛えようのない部位があります。

目とか、鼓膜とか、いろいろあります。

爪の下の肉も、爪が剥がれでもしない限り露出しませんので相当痛いです。

作者も一度足の指の爪が剥がれたことがあるのですが、爪が肉に食い込んで痛いのなんの……。




それはともかくとして、はい、故郷のお話が出てきました。

次回からは少し時代を遡り、『大崩落』時のお話が出てきます。

それを挟んで、ボヘミアンとの戦闘、を予定しております。




誤字脱字でも構いません、感想お待ちしております。

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