第十話 帰還
はい、フェイナ編は今回で終わり。
といってもフェイナは継続して話の主要人物として出続けますけど。
気づけば早くも十話目です。
これからもがんばります。
サブタイトル付けたら急に読んでくれる方が増えたのは気のせいだろうか……
「うおっ、火柱上がったぞ」
ルートに言われるまでもなく、レイの目にも廃都市で火柱が上がったのを確認していた。何かが爆発したらしく、都市が真っ赤に浮かび上がっている。状況から見るに戦車砲かそれに準ずる兵器によるものだろう。
「時間が無いな。飛ばすぞ」
「おう、俺も後ろにいる」
『こちらエイジス1。こちらからも確認した。そちらの到着までもうしばらくあるが、攻撃を開始する』
「了解エイジス隊」
闇夜を6つの排気炎が高高度から急降下を開始し始めた。
レイは無線でフェイナを呼び出そうとするが、雑音が酷くてフェイナの声を聞き取れない。近くで何かが崩れるような音が響いて、事態がかなり逼迫していることがこれ以上にないほどわかってしまう。
『……八方塞がり、ね』
聞き取れたのはそれだけだった。だが、状況を理解するには十分すぎる一言だった。
だから、レイは言ってやった。諦めかけている馬鹿な仲間に。
「八方塞がりなら、上を見てくれ」
瞬間、都市に新たな火柱が生まれる。
轟音に次ぐ轟音。
フェイナが確認できたのは、火を後方から吐く何かが一直線に戦車に吸い込まれていく光景だけだった。戦車は吹き飛び、弾薬に誘爆して巨大な火球と化し、周囲を巻き込んで大火災を起こしている。フェイナを狙っていた兵士たちも突然のことに混乱し、自らの命を守るだけで精一杯の状況になっている。
さらに、フェイナの背後では断続的な爆発音と振動が響き渡っている。
「……遅いわよ」
ようやく、フェイナ自身も事態を理解した。時刻は2時40分ほど、急げば丁度来れる時間だろうか。
『開口一それかい……。門を吹き飛ばすから巻き込まれるなよ』
「頼むわ」
瓦礫と化した操作室の陰に蹲り、耳を塞ぐ。
刹那、飛翔音がして外に向かって開きかけていた門が内側に向けて吹き飛ばされる。激しい爆風がフェイナを襲うが、フェイナはしっかりと地面に張り付いて微動だにしない。むしろ、遠くにいる兵士たちのほうが爆風にあおられて転倒している。
フェイナは立ち上がって門の外へと駆け出す。
地雷原はすでにない。上空を飛ぶ旅団の戦闘機が爆撃したため、巨大なクレーターが無数に開いている。その中に1機のヘリが接地ギリギリのところでホバリングしている。風にあおられないようにしながらフェイナはヘリに駆け寄る。
後部ハッチが開いてルートが姿を現す。すぐに指揮官を詰め込んだ袋を投げ渡し、自分もヘリに飛び乗る。
「「お帰り」」
「……ただいま」
ルートとレイに言われてそう言い返す。
「こちら『フィッシャー』、お姫様は回収した。撤退するぞ、って対ショック防御!!」
レイが報告しようとした時、突然そうレイが叫んだ。即座にヘリの床にルートとフェイナが蹲ると、外から物凄い爆音が鼓膜を揺るがし、振動で機体がビリビリと振動した。
「戦車だ! フェイナ、オートモービルの単装砲で応射!!」
「ああもう、まだ助かってなかったのね!!」
破壊された門の瓦礫を乗り越え、戦車がこちらにその砲塔を向けている。横を向いているヘリでは応戦できない。かといって正面を向いていては次の1発を先にもらってしまう。
フェイナはヘリの隅に安全ベルトで縛られていたオートモービルを起動、単装砲を『自動モード』から『手動モード』に切り替える。車体に固定されていた単装砲が取り外され、フェイナはそれを担いで後部ハッチを蹴り開けた。そしてスコープを覗き込んで戦車をその十字の中心に捉える。
「ルート、耳塞いで!」
「合点!」
返事を聞くのとどちらが先だったかというタイミングでフェイナは引き金を引いた。放たれた砲弾は寸分の狂いもなく戦車の砲口に入り、内部で戦車の砲弾と衝突、フェイナが放った砲弾が爆発し、それに誘爆して砲身が吹き飛ぶ。もちろん、内部も文字通り鉄の棺桶と化しているだろう。
「エイジス隊、掩護を!!」
『分かっている! さっさと逃げろ!!』
そこに上空の戦闘機から爆弾が投下され、大破した戦車が宙を舞う。歩兵などあって無きが如しで、荒れ狂う炎に巻かれるか、爆発に巻き込まれるかして少なくとも3人の視界にはいない。
レイが機体を浮かせ、高度を上げる。上げると都市内の惨状が視界に入ってきた。
南の門から続く通りは文字通り火の海になっていた。弾薬に誘爆して激しい爆発を繰り返している。火達磨になった兵士がもがいているが、それを助ける仲間の姿はない。地獄絵図とはこのことを言うのだろう。
「……フェイナ、怪我はないか?」
ルートが後部ハッチを閉じてフェイナに向き合う。
「大丈夫よ。それよりも……」
フェイナが先ほど放り込んだ袋を顎でしゃくる。ルートの視線がそちらに移り、フェイナにまた戻る。
「……生きてる、よな?」
「多分……」
「大丈夫だ。かろうじて生命反応を確認できている」
「かろうじて!?」
レイがさらっと言ったことに慌ててルートが袋を開け、中で椅子に縛り付けられて完全に気を失っている男を袋から引きずり出した。
「生きて、いるな。喋れるかどうかは別にして……」
「まあ、蹴ったり投げたり落としたりぶつけたりしたから、ねえ?」
若干フェイナが気まずそうに言う。ルートがそんなフェイナを呆れた表情で見る。
「旅団の医療班を待機させておくよう連絡を入れておいてくれ、レイ」
「わかった」
「幸い、命に別状はない。後10分もすれば目を覚ますだろう。死んだ方がましだったかもしれんがな」
旅団に帰り着いたヘリから医務室に即座に運ばれた捕虜の男は、白いベッドの上で包帯でグルグル巻きにされた状態で拘束されている。それを診断していた旅団の医者は医者とは思えないような台詞を言った。
「気が付いたら旅団長に知らせてくれ。俺たちは旅団長のところにいる」
「おう、分かった」
医師がヒラヒラと手を振った。
マックには作戦終了後に召集をかけられていた。捕虜の男があまりに不憫だったので医務室までは連れてきたが、後は医師に任せられるのでルート、レイ、フェイナは医務室を後にして、マックの執務室へと向かった。
「あの男、居場所を言うと思うか?」
レイがふとそう呟いた。
「言わなきゃここに置いておく必要はないじゃない」
「フェイナ、もう少し過激な発言は控えてくれないか?」
「ルート、この旅団で過激じゃない人間なんて、いないと思うけど?」
「お前はその中でも、って意味だ」
「どうしてよ……」
フェイナが心底訳が分からないという顔をする。
「それはともかくとして、どういう意味だ、レイ?」
「フェイナの話を聞くに、男は居場所に関しては必死になって否定しようとした、ということになっている。おそらく口止めでもされているのだろうな、当たり前だが。そんな奴がそう簡単に口を割るとは思えんのだが」
レイの考えはごもっともだ。
あの男も兵士の端くれ、口は堅いだろう。交換条件なんて用意もしていないし、第一ルートたちは男の名前すら知らなかった。知ったのは運んでいる途中で見た認識票を確認したからだ。
「と、いう、ことは……」
「ふふふ、久々に腕が鳴るわね……」
「レイ、当分医務室には近寄るな」
「なぜだ?」
「……フェイナのワンサイドな拷問を見たいのか?」
「拷問とは元来ワンサイドだと思うのだが……」
「トラウマになるぞ……?」
「俺は夢は見ない」
「……なら良いんだが、フェイナに対する考えを改める必要はないぞ? あいつはいつもあんな感じだからな」
「ちょっと、さっきから男2人がこそこそ何話してるのよ」
いつの間にか、ルートとレイは自分たちがフェイナのだいぶ後ろを歩いていた。慌ててごまかしてフェイナに追いつく。
「……で、フェイナ、何をするつもり?」
「う~ん、お楽しみで」
「それが1番胃にくるんだよ……」
「……まったく、人の部屋の前で一体何を話しているのかな?」
「「「旅団長!!!」」」
今度はいつの間にかマックが背後にいた。どう反応していいのか分からない、複雑な表情といった様子だ。
「まあ、いいが。それじゃ、話を聞こう、入ってくれ」
マックが自分の執務室の部屋の扉を開け、3人を招き入れる。相変わらず整理整頓のできている部屋だが、こちらも相変わらず机の上が書類で溢れかえっている。
マックはそのまま自分の椅子にドカッと沈み込み、数秒天を仰いでから3人に向き直った。
「で、捕虜の様子は?」
「現在医務室にて治療中です。間もなく目を覚ますとのことです」
「話すと思うか?」
「話さなくてはならないようにします」
フェイナのその返事を聞いてマックはため息をついた。ルートは案の定と言った顔をしている。
「……フェイナ、君の『仕事』であることは確かなのだが、加減と言うものはできないのかな?」
「失礼ですが、加減すれば敵に余裕を与えます。全身全霊をかけて口を割らせる必要があるかと。それに今回はあまり時間的余裕もないと考えますが」
「そこに関しては、フェイナに同意します」
ルートが言う。レイも同感だ、と首を縦に振る。
「まあ、致し方ないことだな。出来るだけ善処してくれ。あれは俺でも胃に来る」
「旅団長……」
「ルート……」
2人が涙目になって良き理解者を持ったと喜んでいるのをしり目にレイがため息をつく。
「フェイナ、君の拷問はそれほどに過激なのか?」
「うっ、直球ね……。確かに普通とは思ってないわ。代わりにほぼ確実に口を割るけど……」
2人から目を離してレイがフェイナに聞いた。気まずそうにフェイナが顔を俯ける。
「奴らは俺たちの仲間を殺した。そんな奴らに組する奴らだ、遠慮はいらん。殺さない程度に痛めつけてやれ」
「レイ……。うん、了解したわ」
レイがそういうと、なぜかフェイナは嬉しそうに笑った。レイ自身は自信を持ったから気分がよくなったのだろうと考えていたが、残りの2人は違った。
「……レイに自分を認められたから、うれしいんでしょうね」
「十中八九そうだろうなあ……」
2人の世界に入り込まれてしまったようで弾かれた男2人はその様子を遠巻きに見ているしかなかった。レイはそんな世界に巻き込まれているという自覚すらないだろうが。
「なあ、ルート」
「はい?」
「あれは成就するだろうか……」
「……俺に聞かんといてください」
はい、なんか最後変な終わり方になってしまいました。
フェイナは情報部隊の隊員です。
なのでそういう技術にも長けています。
次回、そういう描写になります。
拙い上に酷いですが、頑張ってそう言う描写を頑張りたいです。
次々回、ルートたちの過去話になると思います。
誤字脱字報告、感想お待ちしております。