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2 緑の町


 旅人は緩やかな煙漂う、柔らかな緑の町へたどり着いた。

 そこは穏やかな死に包まれていた。

 町の中心では常に火を焚き、数種の草木を燃やして煙を立てている。まさにその煙こそが緩慢に、しかし確実に死を町の住人たちへともたらす原因であった。国の中でも寿命が短い緑の町の住人たちは、それでもその現状に満足していたし幸せだと感じていた。

 煙を焚いているのは、四方を深い森に囲まれた街を獣から守るためだったが、それが昔からの伝統であり、今では望む者はこの町を自由に出ていく事が出来た。それにも関わらず彼らが緑の町に住む事を決めたのは、自らの選択。彼らは害を含んだ緑の町が好きだったのだ。

 穏やかで緩やかな死に現実味を感じなかった旅人は町で暮らし始める。旅人の隣を歩いていた牡鹿は、煙を嫌い町を囲む森へと飛び込んで行った。

 旅人が町の暮らしに慣れた頃、政府はある種の草木の栽培を禁止した。その草木には緑の町を守る煙を生み出す物も多く含まれていた。

 当然緑の町の住人は反対の声を上げる。しかし“死”を忌み嫌う政府は強引に政策を推し進めた。結局政府は、町の住民を獣から守るため町の周囲に高い塀を築きあげ高らかに宣言する。

「これで彼らは死に怯える必要もなくなった」

 空から雲を引き下ろしたような柔らかな緑の街は、高い塀の内で鮮やかな色を取り戻していった。柔らかく人々を包んでいた煙は吹き去り、町の中心で人々の安心を生んでいた炎も消えた。

 しばらくして緑の町は犯罪へと染まっていく事となる。高い塀と獣の棲む欝蒼とした森が、犯罪を隠す。穏やかだった緑の町の住人達は犯罪者になるか、無気力に路地裏に座り込んでしまう。

 そのさまを旅人は悲しい目で見つめていた。

 町の周りで、昔彼らを守っていた草木が美しい花をつけ風に揺れている、その間から顔を出した牡鹿とともに旅人は、今や穏やかな雰囲気のかき消えた緑の町を去って行った。


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