メルト-溶けて死埋葬
一定の距離を保ちつつ、男の攻撃を躱わす神とマリク。
その度に木の葉が舞い、枝が落ち、木自体が溶け倒れたりしていく。
「無茶苦茶しやがるな」
「神」
アイコンタクトをした二人は、男を挟むように左右に広がり一気に近づく。
その様子を見た男は一瞬迷ったが、よりスピードの速い神の対応を優先した。
男は神に対し一発二発と、溶解液の玉を投げていく。
しかしそれを難なくかわした神は、足を止めることなく男に接近し、勢いのままに飛び蹴りをしようとした。
が、男の足の甲に溶解液の玉が乗っているのに気づき、地面にかろうじて残っていた足に力を入れ、自ら体勢を崩し男の横に転がった。
すると男の蹴り抜いた玉が、近くの木に勢いよく命中した。
「おしいっ」
神とやり合っている間に、今度は接近したマリクがミドルキックを男に入れる。
男はそれをガードし笑う。
「軽いな」
「俺はインドア派だからな」
「ふ……い、いってえええ!」
マリクは自分を囮に使い、フユを男の右脹脛に噛みつかせていた。
「俺の闇Biteは、闇や影の中なら何処へでも這わせられる」
「離しやがれ!」
男は両手に玉を生み出し、フユに投げつける。
しかしフユは地面に潜り、難なく躱した。
「おい」
声の方に振り向いた男の顎を、神のつま先が蹴り上げる。
「ぐっ」
男の体は宙を少し舞い、近くにあった太い木の幹に後頭部からぶつかった。
「つぅ」
男は後頭部を腕でさすりながら、神を睨みつける。
「お前に休む暇はねぇよ」
マリクがそう言うと、男が背中を預けていた木からフユが現れ、首を狙って牙を剥いてきた。
気配を感じた男は咄嗟にガードするが、右手の前腕に牙を深く向かい入れてしまう。
「ぐわあああ!」
慌てた男は左手に溶解液を纏い、フユの首目掛け手刀を入れる。
が、これまた影に逃げ込まれてしまう。
ザ、ザ、ザ、ザ。
男が足音に目線をやると、拳が目前に迫っていた。
そして当然のように、男は神の勢いと体重の乗ったパンチを横っ面にくらい、大きく吹っ飛んだ。
男はそのまま傾斜を転がるように落ちていき、下の方で倒れたままピクリとも動かない。
「やったか?」
「いや、手応えはあったが。まだ仕留めれてない」
二人は斜面に足を取られないように、男に近づいていく。
するとその時、男はむくっと起き上がると、全速力で逃走を開始した。
「マジかよ!」
二人はすぐに追いかける。
男の身体能力は人間の三倍ほど。
二倍ほどもない、マリクだけなら振り切れただろう。
しかし神は四倍から五倍。
少しずつ差は縮まっていく。
「逃がすかよ」
「俺が逃げる?違うな!」
「うっ」
男の狙いはこれだった。
追いかけていた神は小さな穴に、脛あたりまでハマってしまい、前のめりに地面に手をつく。
「ハハ、掛かったッ!もうお前の足は溶けたッッ!」
神が足を取られたのは男が防衛のため、事前に作っていたトラップだった。
穴には溶解液がたんまりと入っていた。
男は足を止め、クルッと振り返ると、走りながらお腹の前で生成していた大きな玉を、神目掛けて放り投げた。
直撃。
「ハハ、ざまあ……あ?な、何だとッ」
神は穴から足を抜き、スッと立ち上がり男を見据える。
溶解液は確かに神に命中したが、彼の表面を伝うようにして、地面に垂れていく。
「な、なんで効かないッ?」
「ショコラ」
「は、はあ?」
「つっても分かんねぇよな」
神の言う通り、愛里寿のバリアが彼を守っていた。
「ガキの頃から変わった特技があってさ。俺は、感覚で方角が分かるんだ」
「なん、だからなんだ!」
「今俺が向いてんのはちょうど東だ」
「だからなんだよおッッ!」
会話の最中に気づかれないよう、足の上に作っていた玉を男は蹴り飛ばす。
「この方角が、ちょうどいい」
神の体が青い光に包まれる。
そして男の蹴った玉は、神の目の前で大きな葉が盾のようになり、彼には届かなかった。
「てめぇ、なんだよッ、それッ!?」
男の目には龍をモチーフにした、青の鎧を纏った神が映っていた。
「これが俺のRitual、The・Dream」
神はゆっくりと男に近づく。
「くそッ」
「もう遅い」
男は踵を返そうとしたが、いつの間にか足首に絡まっていた太い蔦に、足を取られ尻餅をついてしまう。
神は男のそばまで来て見下ろす。
「ぐわあ。ま、待て!わかった!降参だ、異世界に帰る。俺はまだ死にたくないんだ!」
「十中八九死刑だぞ?」
「それでも100パーじゃない。生き残る可能性のある方に俺はかけるさッ。だから許してくれッ、頼むッ!」
男は顔の前で手を合わせ、目をギューっとつむり許しをこう。
「……分かった」
神の意思に反応し、男の足は蔦から解放された。
「ありがとう、ありがとうございますッ」
頭を下げる男の顔には、ゲスい笑みが張り付いていた。
「ついてこい」
背中を向ける神に、男はゆっくりと立ち上がると、溶解液を全身に静かに纏い襲いかかった。
「俺がそんなに甘い奴に見えたか?」
振り向かずに神は言う。
その瞬間、男の体を複数の太い蔦が襲う。
「無駄だ!」
男の言う通り、男に触れた蔦は溶けて地面に落ちていく。
しかし次から次に蔦が鞭のように襲いかかる。
「無駄だっつってんだろおッッ!」
男が手で切り払い続けるも、だんだん激しくなる攻撃に男の対処は遅れだす。
そして体の溶解液の鎧に一発、二発と攻撃が通りだす。
「お、おい、待てッ、無駄だって―」
休む間のない蔦の猛攻に、溶解液の鎧はみるみる剥がされ、男は先ほどまでの姿が、露わになっていく。
「待て、ぐッ、ちょ、ま、うあ、あッ」
ついに体の溶解液は全て剥がされ、手でガードする男は少しづつ後退する。
しかしガードを気にせず鞭のように襲う蔦に、次第にガード崩れていく。
「ぐ、ぐあ、ぐ、べ、ば、ぼ、べ、べ、ば、ば、ぼ、ぼ」
今まで男に背を向けたまま立っていた神が、ゆっくりと体を振り返らす。
「命への感謝がない。それがお前の敗因だ」
それから数秒の間、蔦で手足を大の字に拘束され宙に浮いた男は、神の変身が解除されるまで無防備に蔦の鞭を受け続けた。
そして神の変身が解除されると蔦は動きを止め、男は力無く地面に落下しうつ伏せに倒れた。
「あ……ああれ、メルト-溶けて死埋葬……ぁ……うあ……なんぁぃ…………」
神は男の様子を確認する。
すると、男の指先が消失を始めているのが目に入った。
「終わったな」
そう言ったのはマリクだった。
「遅くねぇか?」
今更の到着に神は言う。
「途中で穴にハマって萎えた」
「おい!」
「あんな奴になら、勝てると思ってたよ」
そう言ってマリクは笑顔で拳を突き出す。
「俺の変身は三分だぞ?三分以上経過してからくんじゃねぇ、よッ」
そう言った神は、勢いよく拳を突き返した。
「いったあ!」
「ふふ」
二人は男の消失を最後まで確認し、帰路につくのだった。




