三度目の13人
愛里寿の運転するコンパクトカーの中、後部座席で神は愛に、肩の治療を受けていた。
「足は家に着いてからにしましょう。見なければ分かりませんが、血は止まっているように思います。損傷は激しそうですけど……」
「ちっ、久しぶりの実践でしくった」
彼にとっては三ヶ月ぶりぐらいの実戦だった。
「あんまり一人で突っ走られても迷惑ですし、今度からスマホ持ってもらっていいですか?」
「スマホねえ」
「GPSのアプリ入れとけば、神さんの位置把握できますし、今回ももっと速く見つけれてましたよ」
愛里寿は再三、神にスマホを持つように言ってきていた。
しかし、こちらに戸籍が無く、自分たちの活動や存在の足がつくのを嫌う彼は、ずっと拒否してきている。
愛里寿にも仕事に関する情報は全て、自分たちが作ったアプリ内以外での、やり取りを禁止している。
こないだのPCの事件の情報はもちろん、スマホの通話やメールのやり取りなども、マリクと言うチームメンバーが作ったアプリを介して行っている。
「でもなぁ、情報漏洩は避けたいしな」
「だから自作のアプリ使ってるじゃないですか?」
愛里寿はバックミラー越しに、神を確認しながら言う。
「違う。GPSの情報だって抜き取られてるかもしれないだろ?それに、音声の盗聴や、カメラが勝手に遠隔で操作される可能性だってある。自作のアプリを使っても、最低限の予防にしかなってない。スマホ自体が俺は好かん」
「でもそばにいる私が使ってますよ。この会話も盗聴されてたりして」
からかい混じりに彼女は言う。
「じゃあスマホ窓から投げ捨てろ」
「え、パワハラ。私はあなたと違って人間界で生活してるんです。スマホは必要不可欠なんです」
「マリクもスマホ持ってないぞ」
「でもパソコン持ってますよ?神さんパソコンも持ってないじゃないですか」
「……」
窓の外を眺める神。
「連絡取れないの不便すぎです。今回人間界来るのだって、マリクさんから連絡来たし。かと思ったら、2日留守にするって置き手紙置いていなくなったりするし」
「急にボスに呼ばれたんだよ」
彼はめんどくさそうに、ぼそっと言う。
「……異世界にはないんですか?スマホみたいなもの」
「なくはない。でも漂っている魔力が必要だ。ようはこっちで言う電波だな。それがこっちには無いから使えない」
「じゃあマリクさんに作ってもらいましょう」
「アイツはアプリとかシステムとか、そう言うモノを作ることはできるが、スマホだとかPC、そう言った類の機械を作れるわけじゃない」
「じゃあ愛ちゃんの体を作ってくれてる、オキド博士に頼んだらいんじゃないですか?」
オキド博士とは、組織の開発部のトップだ。
「うちの組織はそんなに金持ちじゃない」
「否定ばっかする大人って最低ですね」
「……ああ、足の痛みで、意識が」
「そんなやわじゃないでしょ」
そんな二人の掛け合いを聞いていた愛は、申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんなさい。私の義体が高いばっかりに」
「愛ちゃんは悪くないわよ」
少し焦り気味に愛里寿は言う。
そしてそれをカバーするように神は続ける。
「そうだぞ。お前が優秀だから、ボスもお前の新しい義体を作ったんだ。しかし、こう見ると、人間にしか見えんな」
金髪のショートカット、ギャルっぽいメイクと服を着た彼女の姿を、改めてまじまじと見た彼は感嘆の息を漏らす。
「しかもこれで、形状を変えられると。そりゃ高いわ」
「ごめんなさい」
「いや、そういう意味で言ってないぞ今のは」
「愛ちゃんかわいそ」
「俺もかわいそ。足ぐちゃぐちゃ」
「自業自得でしょ。スマホ持ちなさいよ」
「やべぇ、ループしそう」
二人の肩を借り、愛里寿の部屋兼事務所に帰ってきた神は、そのまま玄関に下ろされる。
「じゃあ、治療薬取ってくるから、愛ちゃんは靴脱がせといて」
「了解です」
愛里寿は靴を脱ぎ廊下を曲がり、リビングの方に消えていった。
「神さん」
「ん?」
「車では色々言ってましたけど、愛里寿ちゃん、神さんを追跡してる時、すごい心配してましたよ」
「……ああ、分かってるよ。今度飯でも奢るさ」
「神さん……」
愛が彼の靴を脱がしにかかる。
「痛い痛い痛い!とりあえず優しく脱がしてくれええ!」
「わああ、ごめんなさい」
結局靴を脱がすのに十分ぐらいかかった。
最終的にはハサミで切り込みなど入れて、神は自分の腕力で靴を割いていった。
途中血で靴と足がベッタリとくっついていて、ゆっくり剥がせないことを知った彼の絶望の顔を、愛はこっそり撮影していて、後日愛里寿に送っていた。
このことは二人だけの秘密である。
7月17日。土曜日。朝。
神と愛里寿は電車を乗り継ぎ、熊本県に向かっていた。
彼の足は歩けるまでには回復していた。
異世界で調合された薬を飲み、塗り、事務所に備え付けてある日サロのようなカプセルで、ほぼ丸一日寝た結果である。
「それにしても、すごい回復力ですね」
「まぁ、俺だからな」
「ヒィヒィ言ってたくせに」
「まぁ、俺だからな」
「これ、見てください」
愛里寿はノートPCの画面を彼に見せる。
神は誰かに覗かれてないか、キョロキョロした後、画面を見る。
「昨日、早朝秋田県で六人。宮崎県で六人。そして21時頃に、熊本県で一人」
「俺熊本の話は聞いてないぞ」
「どうやら、私達の移動中にニュースがあったみたいです。そこからマリクさんが情報を更新していってくれてます」
彼は資料に目を通していく。
「これ、熊本駅に放置された、くまんモンの着ぐるみの中に、全身が酷く溶けた遺体が入れられているのが発見されたってあるが、くまんモンてなんだ?」
「熊本県のゆるキャラですね。ゆるキャラの中では一、二を争う人気者ですね」
「ふーん」
「興味なさそー」
「まぁ、中身どうせオッサンだろ?」
彼女は、またこの人はといった顔をする。
「それより、今までと違って夜にこの事件だけ起きた」
「はい、そうですね」
「奴ら、よほど13に拘ってるな」
「金曜日に13。まさかとは思ってましたけど、あの映画が関係してるのかな?」
「映画?」
「でも、あれは13日だしな。そもそも13日の金曜日は欧米では不吉な日とされて―」
彼女はブツブツと独り言を言い、考え込んでしまった。
彼はまぁ、いいかと言った表情で、考えがまとまってから聞くことにし、窓の外の流れる景色を眺める。
そして、先回りをするつもりで向かった熊本が、後手に回る結果になってしまったことを悔やみつつ、大きなあくびをつくのだった。




