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第006話 国家魔術師に、お前はなれない

アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。

ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族(ニョルーマン)。上官の猪人族(ウリマン)に同胞を食べられた。

チッチ……無表情の国家魔術師。

マイマフィン・クーパー……アナコンダの母。常識人。魔物に殺され死亡。

ログロッド・クーパー……アナコンダの父。熱血漢。魔物に殺され死亡。


 ある春の昼下がり。

 森の中で熊と遭遇したアナコンダは、


「こいつで魔術の修業しーよおっと」


 杖を振り、


噴炎(オレオム)!」


 火炎を熊の鼻先めがけて放った。

 ただし、火力は抑え目であり、火が熊に触れることはなかった。

 下腹部からニョルモルモが、


『そんなんじゃ殺せんど』

「殺すつもりなんてないんだ。ビビらせるだけビビらせて逃がそうと思う」

『なんでや。猿人族(ヒューマン)は肉を食わんのか』

「食うけどさ……家族を失う悲しみを誰にも味わわせたくないんだよ」

『家族ぅ?』


 一瞬、ニョルモルモはアナコンダの発言の意図をくみとれなかったが、共有している視界の中に、


『子熊がおる!』


 ことに気づいて納得した。

 熊がアナコンダに対し殺気だっているのは、自分の子供を守りたいからだ。

 それがわかっているからこそ、アナコンダはどうしても熊を殺すわけにいかなかった。

 それで何度も火を放射したのだが、


「上手くいかない……」


 狙いが外れた。

 親熊は子供を守ろうとするからこそ、引くに引けないらしい。

 とは言え、アナコンダが背中を見せて走り去ろうものなら、必ず、


「熊は俺を追いかけて来るだろうな」

『なら噴炎(オレオム)以外を使えばええやんけ』

「うおおお! ニョルモルモ、天才か! すげえこと思いつくなあ」

『お前がアホすぎるだけちゃうか』

「でも俺、噴炎(オレオム)以外の呪文なんて知らないんだよな」

『ほんまにアホやん』


 そこで、ニョルモルモに色々と教わりつつ、アナコンダは熊を去らせようとした。

 例えば、


撒煙(エルメク)


 と唱えれば、煙を発生させることができ、


酷暑(ウクスタ)


 という魔術は指定範囲の気温を上げられる。

 火の玉を作って操るなら、


火玉(アマディー)


 これらの魔術を、熊に当てないように、もしくは熊を殺さないように気をつけながら使用したのだが、やはり子を想う親の心が強いせいなのか、まったくこの場から動かない。

 アナコンダはげんなり。

 これはもう自分の負けだと思い、じわじわ後退しつつ家へ帰ることに決めた。

 ところが、一連の魔術は熊を恐怖させることに成功していた。

 アナコンダの狙いでは、


「俺にビビって逃げるはず」


 だったのが、実際には、殺すか殺されるかのところまで親熊を追いこんでしまった。

 子を守るため、親熊はアナコンダに向かって走り出した。

 その血走った目に殺意があることは、アナコンダにも見抜けた。


「仕方ない。怪我してもらうぜ……!」


 アナコンダが覚悟を決めた時だった。

 どこからともなく――

 何本もの蔓が落ちてきた。

 かと思うと、まるで蔓は意思を持っているかのように動いて、熊に絡みつき、木の枝で首吊りさせてしまった。

 呆気にとられるアナコンダ。


「何だ、これ……魔術か!? いったい誰が……」


 あわてるアナコンダの背後から、


「おい」


 振り向くと、そこには迷彩柄の服を着た金髪の女性が立っていた。

 手には長い杖が握られている。

 見かけたことのない人物だ

 アナコンダには彼女が接近する気配など、まるで感じられなかった。

 アナコンダが、


「誰だ?」


 たずねようと口を開いたところで、

 パシン――

 金髪の女性に頬をたたかれた。

 アナコンダは驚いて、ものも言えない。

 女性は淡々とした口調で、


「未熟者」


 吐き捨てるように言った。


「こんな田舎に魔術を使える子供がいるのには驚いたが、実力は大したことがないのだな」

「……」

「私の魔術に驚いて声も出ないか? 覚えておけ。これがプロの力だ。厳しい現実を生き抜くには、これだけの力が必要だ。少し魔術が使えるからといって調子に乗るな」

「……プロ?」

「私は国家魔術師だ」

「国家……魔術師……うおおおぉおおぉ!!」

「うるさい」

「弟子にしてくれ!」


 女性は無表情のまま、もう一度アナコンダをたたくそぶりを見せた。

 アナコンダは、ささっと距離を取り、


「俺も国家魔術師になりたいんだ!」


 しつこく主張した。


「なぜなりたいのだ? 国家魔術師になれば、貴族のように放蕩な暮らしができると思っているのか?」

「違う!」

「では、なぜだ?」

「熱血なんだ!」

「……私はチッチ・アルージャン。この名に覚えはないか?」

「俺はアナコンダ・クーパー。師匠。よろしく!」

「……お前を弟子にはしない」


 会話の成立しない少年に背を向け、チッチは歩き出した。

 アナコンダは彼女を追いかけ、頭を下げたり、お世辞を言ったり、どうにか弟子にしてもらおうとした。

 だが、チッチはつれない。


「お前に才能はない」


 冷たくあしらう。


「国家魔術師になれるはずがない。よしんばなれたとしても、力のない国家魔術師がどんな任務をこなせると言うのだ」

「熱血があるぜ」

「お前が死ぬだけならいい。最悪の場合、守るべき民を守れず、危険にさらすことだってあるのだ」

「だからこそじゃん!」


 アナコンダは声の限りに叫ぶ。


「俺はみんなを守るために強くなりたいんだよ!」

「……本心か?」

「おう!」


 チッチは溜め息をつくと、


「どうしても弟子入りしたければ、命懸けの試練を乗り越えてもらうしかない」

「余裕だぜ!」


 しかし、下腹部でニョルモルモが反対する。


『危険なら、やめとけ。わしまで巻き添えで死んでしまいかねん。どうしてもならお前一人で行け』


 アナコンダはニョルモルモを無視して、


「今すぐ試練を受けさせてくれ」


 とチッチを急かす。

 チッチは仕方なく応じることにした。

 だが、試練の内容は意外にも、


「あの山に登る」


 彼女が指差したのは活火山。

 傾斜がきつく、道は険しい。

 獣もほとんどおらず、金脈が眠っているわけでもないので、当然のことながら、村の誰も近づかない。

 そんな山だった。

 それくらいアナコンダでも知っていることなのだが、


「よっしゃ。行こうぜ」


 タンクトップに半ズボンという軽装備のまま登ろうとする。

 浮き足立っているからか?

 違う。


(一刻も早く。ここから離れねえと)


 アナコンダの狙いは、この場からチッチを遠ざけることにあった。

 いまだ茂みに隠れている子熊。

 もしチッチがこれを発見したら、即座に魔術で絞め殺すだろう。

 アナコンダはチッチを山に急がせつつ、そっと子熊を振り返った。

 少年の悲しげな瞳にも真の実力にも、チッチは気づいていない。


     *     *


 チッチがわざわざ山の頂上まで行くという七面倒なことを言い出したのは、なにもアナコンダの根性を試そうというつもりではなく、むしろ弟子入りをあきらめさせるためだった。

 彼女は最初から、


(こいつは国家魔術師になれる器ではない)


 と決めつけている。

 一応、もっともらしく、


「国家魔術師たる者、魔術のみならず体力にも優れていなければ、魔物と対峙できない」


 などと言ってみたものの、まさか子供が登頂できるとは思っていない。

 ゆえに、軽装備のままアナコンダが山へ入ることを許した。

 どうせ途中で音をあげるだろう、と。

 そう、チッチはアナコンダを見くびっていたわけだ。


「無理するな。いつでもあきらめていいのだから」


 ところが、アナコンダの体力は底無しだった。

 ただでさえ田舎育ちだ。

 娯楽も何もない田舎では、体を使って遊ぶしかない。

 子供たちは毎日、山野を駆けずり回って遊んでいる。

 その上、アナコンダは、


「国家魔術師になるための修業!」


 と称して、棒切れを振り回したり、滝に打たれたり、筋トレに励んだりしていたのだが、そうした無意味な努力が今になって実を結ぶ形になった。

 都会生まれ都会育ちであるチッチには想定できないことだった。

 山の中腹まで来た頃には、彼女の方が息を切らせている。


「うちの子とは大違いだ」


 思わず、チッチの口から嘆きが漏れる。


「師匠。子供がいるのか?」

「師匠と呼ぶな。まだ弟子入りを認めていない。……そうだ。私には息子が一人いる」

「ふーん。そいつ強ぇーのか?」

「弱い。とんでもない軟弱者だ」

「師匠みたいに魔術は使えないのかあ」

「いや、魔術は使えるのだが……」


 アナコンダが歩みを止めて、


「親子そろって魔術が使えるのか!? すげー!!」


 対してチッチはいぶかしげに少年を見つめる。


「普通だ」


 基本的に、魔術の才能は遺伝による。

 つまり、親が魔術を使えるのであれば、その血を引く子供は魔力を秘めている可能性が高い。

 アナコンダのケースが例外的なのだ。


「お前の親には魔力がなかった。お前は珍しい突然変異なのだ」

「ん? 師匠、俺の親を知ってるのか?」

「……師匠と呼ぶな」


 登山を開始して数時間。

 とうとう二人は頂上へ達した。

 頂上と言っても、草一本もない不毛で平たい地面が広々と続いているだけ。

 厳密にどこが頂上なのかはわからない。

 それにしても、ここは、


「暑いぜ」


 原因は、地面のあちこちから噴き出る溶岩。


「ふ。熱血に相応しい舞台だ」


 にやにやするアナコンダを、チッチはじっと見つめる。

 正直、ただの子供が、


(ここまで来れるとは……)


 思ってもいなかった。

 考えが甘かったのだ。

 しかし次の一手がないわけではない。

 ただし……


(私は心を鬼にしなければならない)


 その内容は残酷を極める。

 常識をわきまえた大人であれば、決して選択しないほどに。

 だが、少年の熱血をしずめる方法はこれしかない。


「アナコンダ」

「師匠! 試練か!?」

「命懸けの、な」

「熱血だ!」

「遊びではない。ここは非常に危険な場所だ。この地で死んだ人もいる。その人の名を知っているか?」

「え? 死んだやつの?」

「ああ」

「さあ……」


 チッチは一呼吸置いてから、


「ログロッド・クーパーだ」


 風が吹く。

 アナコンダは何も言わない。

 いつもは話しかけられなくても大声でわめきちらしている少年が、表情も出さず、黙って立ち尽くす。

 チッチはもはや躊躇しない。


「ここはお前の父親が死んだ場所だ」

「なんで師匠はそんなこと知ってるんだ?」

「私が殺したからだ」


 今度は、さすがにアナコンダの表情が変わった。

 目を大きく見開き、わずかに体を震わせている。

 脈拍の上昇を、尻の中のニョルモルモはしっかり感じ取っていた。


「今日は晴れているな」


 チッチは話を続ける。


「春の風が暖かい。だが、あの日は凍てつくような冬だった。私は魔物出現の報告を受け、ハジャ村を訪れた」


 あの日、何があったのか。

 どうしてアナコンダの父は死ななければならなかったのか。

 国家魔術師チッチ・アルージャンが真相を語り始める。


( ・_・)

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