第004話 鍾乳洞決戦
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。
マイマフィン・クーパー……アナコンダの母。常識人。
ログロッド・クーパー……アナコンダの父。熱血漢。魔物に殺され死亡。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
(どいつもこいつも、みんなアホや……)
猪人族の足をつかんだアナコンダ。
「戦いは始まったばかりだよなあ!」
「ふごおぉお!」
再び、猪人族がアナコンダに襲いかかる。
倒れたままの少年を足で攻撃。
その様子を、岩陰からこっそり見ている者がいる。
全身ドピンクのヘビのような生物。
ニョルモルモだ。
(なんで猪人族のおっさんは魔術を使わんねん。なんでアナコンダのクソガキはあんなヤバイやつに立ち向かってんねん。アホや……ほんまにアホや、あいつら……)
ニョルモルモの体が震えている。
上官である猪人族のことが怖くて仕方ないらしい。
だったら、ここに来ないで逃げていればよかったのだが、
(どうしても気になってしもたんや。ああ。わしもアホやで)
かと言ってアナコンダを助けるわけでもなく、じっとのぞいているだけ。
(あかん。やっぱ引き返そう……)
視線をアナコンダからそらした時、ふと、自分の近くに何かが落ちていることに気づいた。
それは猪人族愛用の杖だった。
「もうやめて!!!」
マイマフィンが叫ぶ。
「殺すなら私を殺しなさい! 豚! 悪魔! ケダモノ!」
「お、おでは人間」
「人間が人間を食べるわけないでしょ! バカ!」
わかりやすい言葉だったため、頭の悪い猪人族にも、それが罵倒だと理解できた。
怒りの矛先をマイマフィンに向けかけたが、しかし――
「お前の相手は俺だ……」
アナコンダが猪人族をつかんで離さない。
単細胞の猪人族は、すぐにマイマフィンのことを忘れ、アナコンダしばきを再開する。
「バカ息子!」
マイマフィンの悲しみがいらだちへ変わる。
「あんたに何ができるって言うんです! そもそも、てんで魔術を使えてないじゃありませんか!」
「ひぐぅ。お袋。信じてくれ。うぐっ。ほんのさっきまで使えてたんだ…。がはっ」
「使えてたとして、何です!? 魔術じゃ人を救えません!」
「ど、どういうこと……がはあ」
「あなたのお父さんを、魔術師は救えなかったでしょ!」
猪人族に暴行されながら、アナコンダは納得した。
数年前のあの日……。
国家魔術師の道案内に出かけた父は帰って来なかった。
だが、魔術師だけは村に帰還したのだ。
「うちの旦那を見殺しにしたんですか!」
以来、マイマフィンは魔術師を軽蔑するようになった。
対して、アナコンダは、
「そ、それでも、俺は魔術師に……がはっ……なりたい。強いから……あ゛っ。強くなれたら……みんなを守れるから……ぐほお」
「子供に守ってもらって助かろうなんて親はいません! 今度だけは私の言うことを聞いてちょうだい! 親の願いはね、子供の幸せだけなんだから」
「やだ」
「どうしてよ!」
「ごっほ……俺は逃げない……う゛っ……大切な人を亡くした悲しみを……ぐはあ……誰にも味わわせたくないんだ……!」
はっとするマイマフィン。
同時に、
(ああ、わしは本当にアホや……)
ニョルモルモもまた少年の叫びに心を打たれた。
彼の体はまたしても震えていた。
ただし、恐怖が原因ではない。
(こんなアホガキに教えられてしまうなんて……)
アナコンダは自分にのしかかる猪人族をにらみ、
「だから俺は負けねえ!」
「ふごっ。殺す。お前、しつこいから、殺す」
「熱血だー!!」
「うるさい」
猪人族が頭上で両手を組んで、少年へ振り下ろそうとする。
命中すれば、間違いなくアナコンダの頭部は砕け散るだろう。
誰もがそれを直感した。
だからマイマフィンは走り出した。
制止する男たちの腕を振り払い、我が子めがけて全力疾走。
「アナコンダ!!」
奇跡的なタイミングだった。
猪人族の両手がアナコンダに直撃する寸前、マイマフィンの体が息子の上に覆いかぶさった。
無論、その結果として、
「あ゛……」
「お袋!」
マイマフィンが重傷を負うことになった。
体の内側から鈍い音が響く。
生暖かい血がアナコンダの額に垂れる。
彼女が激痛に襲われているのは誰の目にも明らかなのに、
「大丈夫?」
あくまで息子を気づかうのだった。
「あれ?」
猪人族が、雑にマイマフィンを触り、
「こいつ、柔らかい。……美味しそう」
唐突に噛みついた。
頑丈な歯がマイマフィンの背に突き刺さる。
アナコンダは母の体の下からはい出て、猪人族の巨大な体をぽかぽか殴ったり蹴ったりするが、効果はない。
それでも、うっとうしくはあったのか、猪人族はアナコンダをつかむと、
「邪魔」
ぽいーと投げ飛ばした。
「ぐっ……」
アナコンダは岩肌にぶつかり、地面をごろごろ転がってから止まった。
すぐにも母の救助に向かわねばならない。
だが……
ここに至るまでにダメージを蓄積しすぎた。
全身が悲鳴をあげている。
(立てねえ!)
思わず涙がこぼれる。
「俺はダメだ……」
「そんなことないで」
「えっ? あっ……ニョルモルモじゃねえか!」
アナコンダの元へ、にょろにょろと走って来た。
小さな脚で、自分より大きな杖を引きずって。
猪人族が使っていたものだ。
アナコンダは満面の笑みで、
「来てくれたのか!? 熱血だな!」
「わしのことはどうでもええ。ほら。これを受け取らんかい」
「杖? ありがたいけど……ダメなんだ。俺、魔術を使えなくなっちまって……」
「あきらめるんか?」
「そういうわけじゃないけど……でも、俺はもう……」
「熱血はどないしたんや!」
「!!」
ニョルモルモの小さな脚がアナコンダの顔をぺちぺちたたく。
「熱血だけが、お前の取り柄やないか! 早よ立て! どつくど!? ぎゃーぎゃーわめきながら必死で戦わんか! わしは……わしは、そんなお前の姿に……」
この時、ニョルモルモは位置的に、病室にいる村人たちから見えなかった。
しかし、あまりに大声で話したため、同じ通路にいる猪人族には気づかれてしまった。
「あ」
「え?」
「美味しい食糧! まだあった!」
「ひっ……ひいいぃぃいいい」
猪人族はかじりかけのマイマフィンを放り捨てると、大好物に向かってどすどす走り出した。
「こいつ……ふざけやがって!」
アナコンダが立ち上がる。
「蛇人族も猿人族も人間だ。夜食じゃない!」
「あわわわわ! えらいこっちゃ」
杖を構えるアナコンダの足元で、蛇人族は慌てふためいていた。
「どこか安全な場所は……せや!」
アナコンダが杖を振りかぶる。
呪文を唱えようと、口を開いた。
ニョルモルモがアナコンダの足をよじ登り、パンツの中へ侵入する。
そして、きゅっと引き締まったケツ穴の中へ!
「オレオ……んぁあ!?」
「いただきまぁす!」
牙をむく猪人族。
「くっ……肝心な時に力がぬけちまう……いや、むしろ、みなぎってきたぞ!?」
改めて、アナコンダは杖を振りかぶる。
「噴炎!!!」
炎の魔術が発動した。
それも、とてつもない火力。
巨大な猪人族を余裕で包みこむほどの大きさだ。
一秒……二秒……三秒……。
止むことなく、いつまでも大量に出続ける。
母を傷つけられた怒りを魔術にこめる。
「熱血だーーー!!!!!」
やがて炎が消え、アナコンダが膝をついた時、猪人族はこんがり焼けていた。
全身の毛がちりぢりになっている。
どおん……と大きな音を立てて倒れた。
「勝っ……た?」
「勝ったんだ!」
「すげえ!」
「うおぉおおぉお」
「お前、やっぱりただの熱血バカじゃねえな!」
アナコンダよりも村人の喜びの方が大きかった。
彼らは病室から出て来て、はしゃぎ回る。
と言っても、ほとんど全員が重傷者なので、せいぜい小躍りする程度だったが。
逆に、魔物を倒した英雄であるアナコンダは静か。
彼が気になるのは、
「お袋……」
のことだ。
痛む体を引きずるようにして、母の元へ行く。
すでに医者がマイマフィンの具合を診ている。
「どうなんだ、お袋は……?」
「息はある」
「死んでないんだな!?」
「奇跡だよ。すぐ病室へ運んで手当てしよう」
「よかった……」
アナコンダがほっとした時、
「こいつ、まだ生きてるぞ!」
村人たちが、どよめいた。
彼らの視線の先には――
黒こげになった猪人族が立ち上がろうとしている。
「死んでなかったなんて……」
「魔物は死なないのか!?」
「今度こそ殺される……」
「おい。逃げようぜ」
「アナコンダ。もう一発、魔術をブッ放してくれよ!」
慌てる村人たち。
しかし、アナコンダは余裕綽々で、
「大丈夫」
その言葉通り、猪人族は立ち上がろうとして失敗し、倒れた。
アナコンダの攻撃は確実に効いていた。
ただし、
「手加減しておいた」
胸を張って、アナコンダが言う。
「殺してしまう直前で魔術を止めたんだ」
「な、なんで……?」
「だって、家に帰れば多分こいつにも家族がいる。大切な人を失う悲しみを誰にも味わわせたくないんだ。たとえこんなやつでも」
「バカ言ってんじゃねえ!」
村人たちは小刀や弓矢を取り出し、
「こいつは敵だぞ!」
徹底的な攻撃を繰り出す。
「こんなやつに情けをかける必要があるかよ」
「どう考えても話が通じるタイプじゃねえだろが!」
「俺たちは殺されかけたんだぞ!? お前も! お前のお袋も!」
「アナコンダ。お前の甘さは、いつか命取りになるぞ」
アナコンダは止めようとするが、さすがに残り少ない体力がそれを許さない。
その上、このタイミングでマイマフィンが痙攣を起こした。
「お袋!」
マイマフィンは息子に顔を向けるが、その目の焦点は合っていない。
口から泡を吹き、震える手をアナコンダの頬にそえ、
「泣いちゃダメ……」
「お袋! しっかりしろ!」
「ね……熱血なんでしょ……? む、向いていいのは前と、う、上だけですからね……」
「おう! 熱血だ! お袋も熱血だよな!?」
「わ、私……は、あなたの……お父さん……と……」
その続きは聞けなかった。
マイマフィンの手がだらりと下がり、口も目も開いたまま、ぴくりとも動かなくなった
医者がうなだれた。
猪人族の胴体から首を切り離した村人たちは、お祭り騒ぎをしていたが、マイマフィンの異変に気づき沈黙する。
「お袋……? おい。返事してくれよ……」
夜の鍾乳洞に、静けさが戻った。
読んでくれてありがとう(σ´∀`)σ




