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第016話 ついに王都へ!

アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。

ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族(ニョルーマン)。上官の猪人族(ウリマン)に同胞を食べられた。

チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。

ネオン・ペドベッド……盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭。元国家魔術師。ショタコン。

 黒い雲が月を覆い隠す。

 何も見えない暗闇の中、雨が水面をたたきつける音と、男たちの嗚咽だけが聞こえている。

 体温は徐々に奪われ、意識が朦朧とし始める中、どこからともなく温かいスープの匂いがただよってくる。

 家でかみさんが作ってくれる、幸せの香り。

 うっとりとした表情で、うっかりすすってしまい、


「あ……」


 あまりの塩辛さに目が覚める。


「なんだ、夢を見てたのか……」


 口に入ったのは海水。

 今、男たちは大海原のど真ん中に浮かんでいるのだ。

 彼らが浮き輪の代わりにしがみついているのは、大破したおんぼろ船の残骸。

 数時間前――

 台風に見舞われ、貨物船が難破した。

 船員に死者は出ず、現時点で全員生存。

 その点は不幸中の幸いだったが、冷たい海水につかり、雨に打たれ続けているわけで、死は時間の問題でしかない。

 この世界で通信と言えば、せいぜいが船の上に旗をあげて救難信号を表示できる程度。

 無線通信などない。

 近くを別の船が通りかかったとしても、この暗さの中では発見してもらえまい。


「俺、眠くなってきたよ」


 誰かが弱音を吐く。


「寝るな。寝たら沈んじまうぞ!」

「そのうち、きっと助けが来る」

「気休めを言うなよ。俺たちはもうここで……」


 空が白んだ。

 もう朝?

 そんなはずはない。

 では、この明かりの正体は……?


「熱血だー!!」


 台風の騒音を吹き消すほどの大声。

 船だ。

 大きな貨物船が荒れ狂う海を進んでいる。

 その甲板から一筋の大きな光……いや、炎。


「いま助けてやるぜ!!」


 叫んでいるのは一人の少年。

 炎は、彼が手に持つ杖から噴き出ている。

 つまり、


「魔術師……!」


 船から、ひものついた浮き輪が投げられる。

 一人、また一人と救助されていく。

 要した時間は30分ほどだろうか。

 大雨に打たれ、強風にあおられながらも、少年は水面を照らし続けた。

 この光がなければ作業ははかどらなかっただろう。

 何人かを見落とし、助け損ねていたかもしれない。

 子供にはつらい作業のはずだが、


「人助けのためなら熱血を惜しまないぜ!」


 熱血で乗りきった。

 さて、救助された人々は体温の低下で体を震わせている。

 これもまた少年が解決した。

 つまり、火の魔術をストーブ代わりにしたのだ。

 その隣では、妙齢の女性が魔術で食糧を出現させ、少年の火を用いて料理をした。


「あ……この匂いは……」


 救助された船乗りの男が鼻をひくつかせ、


「スープだ。うちのかみさんが作ってくれるスープに似てる。夢じゃねえよな……?」


 涙を流しながら、ふるまわれた料理を味わった。

 内からも外からも体を暖めてもらい、人々の苦しみは、ひとまず落ち着いたようだ。


「アナコンダ。無茶をするな」


 チッチが弟子にそっと声をかける。

 王国政府により巨大な船の建造は禁止されており、また、この世界において蒸気船や鉄の船は発明されていない。

 木造のせまい帆船は通常20人程度を定員としている。

 それが今や、


「もうすでに50人近くを救助したんだぞ」

「百人を目指そうぜ!」

「バカ。この船を沈没させる気か。船のことも心配だが、お前、体調はどうだ? 魔力を使いすぎると心身に悪影響が及ぶのだ」

「ふーん。具体的には?」

「例えば、体がだるくなるとか、精神的にまいるとか。最悪の場合は寝たきりや廃人になる」

「でも俺は熱血だぜ?」

「疲れていないというのか?」

「元気がありあまってしょうがないんだ!」


 強がりではなかった。

 捕り物騒ぎの後――

 アナコンダとチッチは、ラトン町の警察官数名と共に、王都への特急便に乗りこんだ。

 鈍行だと2週間ほどかかるところを、


「うちなら1週間で行けるぜ」


 と船長に誘われたので即決した。

 特急便は悪天候でも構わず航行する。

 船に乗るのが初めてのアナコンダにとって、普通の船酔いだけでも十分すぎるほど苦痛のはず。

 事実、同船した警察官たちは吐きまくって放心状態。

 だが、アナコンダは途中で嵐に巻きこまれても音をあげず、それどころか、


「きっとこの嵐にやられて困ってる人が大勢いるはずだ。助けに行こうぜ!」


 と言い出した。

 救助のたびにどでかい炎を噴射している。

 それでも疲れないという底無しの魔力を見せつけられ、むしろチッチの方が、


「めまいがする……」


 気分だった。

 これほどまでにアナコンダが張り切っているのは、教会で手に入れた新しい杖を使いたくてたまらないからだ。

 自分の系統(カラー)に合致している杖なので、とにかく威力がすさまじい。


「試すのが楽しくてしょうがないぜ!」

「人助けのためじゃないのか?」

「もちろん、それもあるよ。だから助けまくってんじゃんか」

「そうか。じゃあ、お姉さんのことも助けてくれないか」


 これはネオン。

 部下の4人もろとも、船内の柱に縛りつけられている。

 前回の反省をいかし、チッチが徹底的に一味の身体検査をしたため、現在はさすがに道具を隠し持っていないようだ。

 こうしてアナコンダにすがることしか、逃走のアイデアが思い浮かばないらしい。


「盗みに入られた人たちも、見逃してほしい、勘弁してほしいって思ってたはずだぜ」

「少年よ。お姉さんは悪いやつからしか盗んでいないんだぞ。しかも、根こそぎ盗むことはしないで、多少は残してやったんだ」

「じゃあ、あの教会も悪いことをしてたのか?」

「もちろんだとも!」

「どんな悪いことを?」

「武器の放棄と不戦の誓いだよ。あんな風潮が広まったら、国の防衛はどうなると思う? きみがなりたがってる国家魔術師という職業だって、なくなりかねないぞ」


 仮にネオンの主張が正しいとしても、


「だからって杖を盗んで何になるんだ? 売れるのか?」

「備蓄だよ」

「備蓄……?」

「将来、杖の製造や販売さえ禁じられるかもしれないだろ!」

「んー。考えすぎじゃないかな……?」


 なんだかよくわからなくなってきたので、アナコンダはチッチに助けを求めた。

 師匠は大人だし国家魔術師だから、物知りだろう、きっと変態泥棒を論破してくれるだろう、と期待したわけだ。


「……汗をかいたな」


 だが、チッチはむしろ、どこか優しささえ感じさせる動きで、ネオンの顔を手ぬぐいで拭いてやった。


「や、やめろ。化粧が落ちてしまうじゃないか」

「もう落ちかけている。メイク道具は? ないのか?」

「よせ……やめろ……お前なんかに同情されたくない……」


 ネオンが顔をそむける。

 その表情はいつになく真剣そのもので、ふざけたところがない。

 アナコンダには、大人たちのやりとりの意味がわからない。

 二人の立場は、追う側と追われる側。

 温情など必要ないはず。

 さらに言えば、ネオンの部下たちはじっと床を見つめている。


(まるでネオンの顔を見ないようにしてるみたいだけど……)


 ネオンの顔に目をやったアナコンダが、はっとする。


(どうなってんだ、これ……!?)


 明らかに異常だった。

 ネオンは教会で捕縛されて以降、風呂にも入れてもらえず、化粧もさせてもらえない。

 分厚く塗り重ねられた白粉(おしろい)は放置され、劣化してヒビが入り、とどめに汗で流されかけていた。

 ちらりと覗くネオンの素肌は、しかし、


(見えない……?)


 肌とその下の肉が透明になっており、骨と血管、そして神経だけが視認できる状態だった。

 病気?

 いや、まさか。

 だとすれば……


「私は……負けない!」


 ネオンがチッチをにらみつける。

 その目には涙があふれている。


「たとえこの世のすべてを敵にまわしても、絶対に私はあきらめない。いつか、絶対に……国を盗るぞ、きみたち!」

「へい、御頭!」


 四人の部下も涙をこぼしていた。


     *     *


 そんな涙も船が港につくまでのことだった。


「余計に酔う~~~~!」


 チッチのお情けで樽の中へ入れられたネオン。

 素肌が見えないように、という配慮だ。

 運搬のために、ごろごろ転がされるものだから、


「う、うう……お゛ぇえ!」


 とうとう吐いてしまった。

 樽から異臭が放たれる。

 その状態で転がされ続けているから、きっと中は悲惨なことに……。


「た。助けてくれ。少年~」

「おお~。揺れないところに立つの久しぶりで変な感じだな~」


 アナコンダはガン無視した。

 ハジャ村を発って、およそ2週間。

 アナコンダ・クーパーは王都の土を踏んだ。

 相変わらず雨は降っており、朝一番の日の光を浴びることはできないけれども、心はずいぶんと明るい。

 無事にたどり着けたことも嬉しいが、それ以上に、


「頑張れよ、坊主!」

「お前はいい国家魔術師になれるぞ」

「悪い大人に騙されるなよ」

「何かあったら、いつでも海に来い。海の男はみんなお前の味方だからよ!」


 同船した人たちからの声援が何よりの喜びだった。


生里芋葉(アホミオタス)


 チッチが魔術ででかい葉っぱを生成。

 師弟で相合傘になる。

 王都に到着したし、すぐ出発。

 ……というわけにはいかない。


「お待ちしておりました」


 港には、いかつい人々が並んでいる。


「国家魔術師のチッチ・アルージャンだ。道中、指名手配犯を捕らえたので引き渡す」

「治安維持へのご貢献、深く感謝します。どうぞ、馬車をご用意しておりますので、お使いください」

「ありがたい」


 チッチは事前に伝書鳩を飛ばして、王都のお偉いさんたちへネオン捕縛の件を伝えていた。

 つまり、今〔ペドベッド一味〕を連行しているのは警察ということになる。


「少年~」


 情けない声が次第に遠くなる。

 一味は馬車の荷台へ、まさに荷物のように乗せられ、運ばれていった。


「では、私たちも出発しよう」

「……」

「おい。アナコンダ。聞いているのか?」

「へ?」

「出発だ」

「おう」


 アナコンダはぼうっとしている。

 初めて見る王都に度肝を抜かれていた。

 でかい。

 港から見えるだけでも、ハジャ村はもちろん、ラトン町とも比べ物にならないくらい、大きくて高くて豪華できらびやかな建物がたくさんある。

 だが、


「空がせまいな」


 アナコンダがぽつり。

 木はどこにもなくて、地面は石畳で舗装され、わずかなすきまから雑草が生えているだけ。

 生まれ育った土地とは、あまりに違いすぎる。

 チッチは、日頃うるさい弟子の、


(意外と繊細な……)


 一面に驚いた。

 が、好きなだけひたらせておこうと考え、言葉はかけなかった。

 御者へ、


「家まで送ってほしいのだが構わないか? 場所は――」

「存じておりますとも」

「よし。頼む」

「ところで……」

「うん?」

「お乗りになるのは……アルージャン様だけですか?」

「いや、この子供も乗らせていただく」


 その言葉が自分の口から出た時、


(これから、こいつと暮らすことになる)


 ことに思いいたり、ふいに感慨深い想いがこみあげた。

 柄にもなく、師匠風を吹かせたくなり、


「わけあって預かることになったのだ。おい。乗るぞ。私の家のある区画なら、自然もそれなりにある。自然も高層建築もあって、全国各地の郷土料理の店があって、田舎者も都会人もいて、肌の色も地位も職業も様々。色々な人や物が集まるのが王都なのだ。今日のところ私は忙しいのだが、明日以降なら観光に連れて行ってやろう」

「あの……アルージャン様」

「何だ?」

「お連れさん、どこかへ行っちゃいましたよ」

「え?」


 御者の指摘した通り。

 振り向けば、そこにいるはずのアナコンダがいなくなっている。


「あのバカガキ! どこへ行った!!」


今日から21時ぴったりではなく

少しずらして投稿してみようと思います。

ちょっと試しに。

また元通り21時ぴったり投稿にするかもしれません。

(^ー^)ノ

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