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第011話 少年よ、結婚しよう!

アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。

ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族(ニョルーマン)。上官の猪人族(ウリマン)に同胞を食べられた。

チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。

ネオン・ペドベッド……盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭。元国家魔術師。

 チッチが(グリーン)の魔術を発動して一味を拘束した。

 仕事柄、人を縛るのには慣れているらしい。

 目にも止まらぬ早わざだった。

 彼女は怒りの矛先を弟子へ向ける。


「アナコンダ。なぜ攻撃しなかった!?」

「いや、あの……」


 アナコンダはとっさに、


「魔術って、人に対して使っていいのか?」


 思いつきの言いわけを口にした。

 チッチは叱りつけようとして、思いとどまる。

 よく考えてみれば、アナコンダの魔術は凄まじい威力であり、盗賊を殺してしまう恐れや、大火事を招く可能性もあった。

 普通の魔術師であれば、威力をおさえて放てばいいだけだが、ズブの素人にどれほどのコントロールができるかは未知数。

 アナコンダの言い分にも、


(一理ある……)


 などと長考していたところ、盗賊の一人が、


「うりゃあ!」

「おほっ!?」


 アナコンダを蹴っ飛ばした。

 アナコンダはごろごろ転がり、ドアを突き破って、どこぞの部屋へ入りこんでしまった。

 このせいで床にも壁にも穴があいた。

 店の人たちが目を覚ましたら、どんな顔をするか。

 それもこれも一味が腕と胴体を縛られただけで、足を自由に使えたからだ。

 チッチは、


出伸蔓(オレドゥルスト)


 盗賊全員の足をぎゅうぎゅうに縛った。

 捕まえたのは四人。

 店へ侵入した泥棒は五人いるはず。

 この面子の中に見知った顔、つまり元国家魔術師にして盗賊団御頭の女は、


(いない)


 と、そこへ――

 数百匹の虫の群れが出現。


「うっ……」


 チッチの全身に鳥肌が立つ。

 蝶や蛾、ゴミ虫や芋虫など、あらゆる種類の虫。

 うごめき、舞い、はいずる。

 それと共に、一人の女が姿を見せる。


「きみたち、何を騒いでるんだ」


 黒いショートボブ。

 左目に眼帯。

 コートらしき上着は白地に藍色のハート模様。

 目にも止まらぬ速さで化粧品を顔に塗ったくっており、背負った風呂敷からもメイク道具がちらっと見えている。

 そう、ここは化粧品問屋。

 彼女は店の奥で商品の在庫を心ゆくまで漁っていたのだ。


「おや……? きみはチッチじゃないか」

「死ね」


 チッチはノータイムで魔術を発動した。

 蔓を伸ばし、種を弾けさせ、ラフレシアに虫を食わせる。

 怒濤の勢いで魔術を連発。

 対する厚化粧の女は、ごてごてに装飾された、先端がハート型の杖を振り、


「遊んであげな」


 虫を操作。

 植物の攻撃をかわしたり、いなしたり、どつき返したり。

 魔術は、自然界に存在する物を操る技術ではない。

 だが自分が生み出した物を操ることならできるのだ。


「どうして機嫌が悪いんだ? せっかく感動の再会を果たしたというのに」


 わざとらしくキョトンとする女泥棒。

 チッチは吐き捨てるように、


「国賊と出会って感動も糞もあるものか!」

「ふ……面白い女だな、きみは」


 不敵に笑うこの女こそ、盗賊団〔ペドベッド一味〕の御頭ネオン・ペドベッドだ。


爆噴虫(アレディーム)、行っておいで」


 ネオンは小さな虫をチッチに向けて飛ばす。

 すると、この虫、尻穴から強烈な高温ガスを噴射。

 もろに浴びたチッチは熱と激臭にやられ、膝をつく。

 ネオンは首を振り、


「面白い女だが、弱い女だ。所詮、植物なんて虫の餌に過ぎないもんな」

「お縄につけ……!」


 チッチは気力を振りしぼって立ち上がった。

 だが、いくら植物の魔術を放とうとも、


「いい子たちだね、私の虫ちゃん……♡」


 ネオンが作り出した虫によって、植物がことごとく食い散らかされる。

 化粧品問屋の夫婦の寝室は、もうめちゃくちゃ。

 布団はめくられ、家具は倒され、部屋中が虫だらけ。

 だが、夫婦はぐっすり眠っている。

 穏やかな寝顔。


「きみたち、情けないぞ。こんな簡単に拘束されてしまうとは」


 ネオンは攻撃と防御をリズミカルに展開しつつ、部下にちくり。

 蔓に縛られた泥棒たちはしょんぼりして、


「ごめんなさい、御頭(おかしら)。だけど、敵は一人じゃないんです」

「うん!? もう一人いるのか?」

「さっき、あたいが蹴っ飛ばしたんだけどさ……」

「そいつはどんなやつ……くっ!」


 会話はここで中断。

 さすがにチッチ・アルージャンという魔術師は、会話を片手間に戦えるほどたやすい相手ではなかった。


     *     *


「熱血な戦いだぜ……!」


 アナコンダは別の部屋で、この戦いを見ていた。

 蹴飛ばされた勢いで転がりこんだ部屋だ。

 痛みが引いたタイミングで戦闘に加わろうと思っていたが、床にへたりこんだまま、ついつい見いってしまった。


(これがプロか!)


 そうしていると、ポケットから太くて長い棒状の物体がポロリと出てきた。

 ニョルモルモだ。

 いつの間にか眠っていたらしく、あくびをしながら、


「やっと宿に着いたんか」

「ちょっと静かに。今それどころじゃないんだ」

「何がそれどころじゃないや。宿でごろごろするんだけが楽しみやっちゅう、わしのけなげな気持ちがわからんのかい」


 それからニョルモルモは部屋を見渡して、


「まあまあ、ええやん」


 満足げにうなずいた。

 それなりに稼いでいる商家の一室なのだから、確かに悪くはない。

 少なくともアナコンダの実家よりは広々としている。

 ニョルモルモは、すっかりここを宿だと思いこんで、くつろぐ。


「飯はないんか? あ、そうや。後で体を洗いながらマッサージしてくれや。ずっとポケットの中でじっとしてて体がバッキバキやで。ほら、触ってみ。かたいやろ? なあ? なあて!」

「あいつ、やっぱ強いな。魔術で師匠とやりあってる」

「シカトすなよ。何がおもろいねん」

「あれだよ。ニョルモルモも見ろよ」

「どれどれ……いや、めっちゃ戦ってるやん。なんで?」

「こうしちゃいられねえ。俺も戦うぜ!」

「なんで!?」


 ズボンとパンツを脱いで、ニョルモルモをケツ穴へあてがう。


「おい! やめっ……やめんかい!」

「盗賊をやっつけなきゃいけないんだ」

「まだ終わってなかったんかい、その話」

「じゃあ、挿れるぜ……」

「嫌や~! ケツ、綺麗にしたか? してないやろ!?」

「暴れるな。大人しくしろ……あ」

「おい。変な声を出すな! 出さんて約束したよなあ!?」


 すべてを無視して、アナコンダは肛門からぬぷぬぷと音を立てる。


     *     *


 この時――

 寝室での戦いは、やはりネオンが優勢だった。

 両者、魔力量や呪文詠唱速度において大きな差はない。

 実力が同格である場合、魔術の相性がものを言う。

 虫と植物。

 虫の方に分があるのは言うまでもない。

 ネオンはチッチを追いつめつつ、同時に部下の体を縛る蔓を虫に食わせ、千切らせることに成功した。


「かたじけない!」

「ありがたいことですよ、御頭」

「俺、縛られるの初めてだったっす」

「畜生め! その糞アマ、とことん痛めつけたりましょ!」


 解放された部下がいきりたつ。

 ところが、ネオンはそれを却下。


「人をいたぶることが目的じゃないぞ。私たちの本分は盗みだ」


 部下一同、神妙にうなずく。

 そして無言で金庫から中身を取り出し、風呂敷に包み始めた。

 殺人(ころし)はしないのが〔ペドベッド一味〕の流儀。

 ネオンは全身に電気が走るのを感じる。

 かつての同僚であるチッチを追いつめるだけ追いつめておいて、


(トドメは刺さずにトンズラこく)


 と想像するのは、とても快感だった。

 ところが……


「……!?」


 言い出しっぺのネオンがその計画をぶち壊した。

 鼻をひくつかせ、なにやら落ち着かない様子。

 そしてなんと……どこかへ走って行った。

 勝負を放棄したということになる。


(ふ。計算通りだ)


 チッチはほくそ笑んだ。

 チッチがほんの数日前に弟子にしたばかりのアナコンダを安全な場所へ待機させず、わざわざ捕り物に連れて来たのは、若い弟子に経験を積ませるためというよりも、


(使える道具だから)


 というのが本音。

 唖然とする四人の部下の方を向き、


「どうした? 私を痛めつけるんじゃなかったのか?」


     *     *


 さて……

 なぜネオンは急に走り出したのか?


「少年の匂い!」


 この家の居間に子供がいるとは知らないはずだが、まっすぐアナコンダのいる方へと向かった。

 扉は壊れている。

 ネオンは不用意に飛びこんだ。


「おお……」


 そこで彼女が見たのは、半裸で尻を触っている少年の姿。


「少年よ!」

「ヤバ……」


 頬を紅潮させる成人女性の異常さに気づかず、アナコンダはただひたすら、


(ニョルモルモを見られたかな?)


 という点にだけ不安を覚えた。

 実のところ、ネオンはニョルモルモなど視界に入っていない。

 興味の的は男子児童にのみ向けられている。

 そうとは知らず、アナコンダはヤケになって、


「くそっ……来るなら来い! 俺が相手だ!」

「少年よ。お姉さんを誘っているのか?」

「……え!?」


 ショタコンだった。

 はあはあはあと息づかいが荒い。

 口から、とめどなくよだれを垂らしている。

 アナコンダは、いまだかつて経験したことのないタイプの恐怖に迫られ、


(こ、怖い……)


 きゅっと縮こまった。


「少年よ、結婚しよう!」

火玉(アマディー)! ……あ」


 本能的に身の危険を感じたアナコンダ。

 ついついうっかり、どでかい火の玉を放ってしまった。

 生身の人間相手に。


(ヤバイ……殺しちゃうかも……)


 後悔は次の瞬間に、更なる恐怖へと変わる。


「ふふ……」


 なんと、ネオンは無傷だった。

 とっさに甲虫を盾にして防御したのだ。


「少年よ。大人を舐めるな。いや、やっぱり舐めてくれないか。むしろ! 私が舐めようか!?」


 ゲスな笑いを浮かべるネオン。

 だが、この時のアナコンダは冷静に、


(そうか。まずは虫をどうにかしなきゃいけないんだ……)


 見極めることができていた。


『わしはアドバイスしてやらんで』


 ぷりぷりしているニョルモルモが、体の中でしゃべった。

 しかし、田舎育ちのアナコンダは虫に慣れている。

 助言は不要。


噴炎(オレオム)!」


 火を噴射。

 炎の量は、家を燃やさない程度に調節。

 ネオンを直撃しないようにコントロール。

 虫だけをこんがり焼くことに成功した。

 ばたばた……と音をたてて、虫が床に落ちる。

 さすがのネオンもあせる。


(この少年、年齢の割にテクいな。私の魔術は(レッド)とは相性が悪いし、いったん引くべきか? いや、しかし体の相性はいいかもしれない。抱きたい。我慢できない)


 煩悩にまどわされていると、突然、


「あっ……」


 なまめかしい声を出して、膝をついた。

 背後から伸びてきた蔓に体を拘束されたのだ。


「しまった! 性欲を利用された!」


 こうなっては杖を振ることもできない。

 チッチが寝室から移動してきた。

 無言でネオンの顔を踏みにじる。

 アナコンダは師匠に駆け寄り、


「師匠! こいつ変なんだ!」

「お前も変だ。どうしてズボンと下着を脱いでいるのだ……ま、まさか!」


 普段は無表情なチッチが、この時ばかりは愕然として、


「まさか……やられたのか!?」

「……? いや、俺は一撃も食らわなかったぜ?」

「本当か? 本当に大丈夫か? 何かされたのなら正直に言え。法など無視して、私がこのゴミを裁いてやる!!」

「いや、本当に無事だけど……」

「そうか。それならよかった……じゃあ、どうしてお前は下を脱いでいるのだ?」

「え? いや、まあ……戦っているうちに自然と……」

「ひもを固く締めておけ。さっさとしまえ」


 チッチは急に冷たくなった。

 アナコンダは素直に従い、


「はいたぜ! それより、師匠。こいつ変なんだ」

「ああ、少年よ。もっとののしってくれ」

「ほら」


 チッチは鼻を鳴らし、


「こいつが国家魔術師だったことは、すでに言った通りだが、ではなぜ泥棒になったのかと言うと、男子児童に手を出したからだ」

「え?」

「そして、逮捕されるのが嫌で王都から逃げた。最低最悪の恥知らず。それがこのゴミクズだ」

「マジかよ……」


「おもしろい!」「続きが気になる!」「まあまあやるじゃん!」

と思ってくれたら、

感想やブクマをよろしくお願いします(´∀`)

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