第010話 盗賊団〔ペドベッド一味〕
アナコンダ・クーパー……ハジャ村出身の熱血少年。魔力はないが国家魔術師になりたい。尻穴の中にニョルモルモを挿れることで魔術を使えるようになる。
ニョルモルモ……ヘビみたいなドピンクの魔物。種族は蛇人族。上官の猪人族に同胞を食べられた。
チッチ・アルージャン……無表情の国家魔術師。アナコンダの弟子入りを認める。
日が落ちて、すっかり暗くなった。
商家が建ち並ぶ区画だが、今は人っ子一人いない。
ハジャ村ほどではないとは言え、このラトン町も田舎の部類に入る。
夜になれば遊ぶところはない。
そもそも、みんな夜になったら寝る。
そういうわけなので街灯などなく、ただ月だけが夜道を照らしている。
(ああ、なんでこんなことになったんや……)
ポケットの中では、伸びをするのも難しい。
窮屈な空間で、ニョルモルモはいらだちをつのらせる。
当初の予定通りであれば今頃、
(どこぞの宿でのんびりしてたはずやで)
宿泊。
これこそ、この旅におけるニョルモルモの唯一の楽しみだった。
彼は村を発ってから、景色を一瞥すらできていない。
不用意にポケットから顔を出そうものなら、人の目にとまり、殺害されるかもしれないからだ。
それが宿の中ではどうだ。
客には個室があたえられるというではないか。
であれば、体を思う存分に伸ばしたり、アナコンダに体を洗わせたり、多少なら猿人族の食事を口にするチャンスもあるかもしれない。
なのに、アナコンダとチッチは道端に留まる選択をしたのだ。
「国家魔術師の仕事は魔物退治だけではない」
盗賊団が跋扈しているという噂を聞いたチッチは、ただちにくまなく町中を歩き始めた。
どこにどんな商家があるのか確認するために。
それと同時にアナコンダに対する授業も忘れない。
「任務の途中、治安に異常があれば、必ず原因を把握し除去すること。相手が魔物であろうと、人間であろうと、はたまた事故や自然災害であろうと関係ない。人々の健康と生命および財産を守ることが我らの仕事だ」
とは言え、魔物以外の異常事態であれば、見て見ぬふりする国家魔術師もいるのが実態だ。
しかし、正義に燃えるチッチに見過ごす選択肢などない。
それはアナコンダにしても同じだ。
「熱血だー!!」
気合いは十分。
ただし知識は不十分。
「で、その〔ペドベッド一味〕ってのは、どんなやつらなんだ?」
国中の誰もが知っていることをアナコンダは知らない。
これは無理のない話で、田舎には泥棒自体がいない。
「だって、盗む物なんてないからな。あははー」
「〔ペドベッド一味〕はここ一、二年、世間を騒がせている盗賊団だ。用意周到。神出鬼没。鮮やかな手口で盗みを働いて、人を殺さない。今まで一味の誰一人お縄にかかっていない」
「すげえ」
「私とお前で引っ捕らえるのだ」
「熱血だな!」
というわけで現在にいたる。
建物と建物の間のわずかなすきまに茂みがある。
その茂みの中で、アナコンダはチッチと共に隠れていた。
実はチッチが魔術で生み出した植物だ。
二人は盗賊団の出現を待っているわけだが、
「なあ、師匠……」
アナコンダには、どうしても解せないことがあった。
声をひそめて問いかける。
「なんで見回りしないんだ?」
「今夜、一味が盗みに入るのはあの商家だ。ここが見張りやすい」
「なんであの店が狙われるってわかるんだ? 店なんて他にいーっぱいあるのに」
「定食屋で聞いただろう? 〔ペドベッド一味〕の御頭を務めるのは元国家魔術師だと」
「うん」
「そいつの名はネオン・ペドベッド。顔見知りだ。やつの考えていることは手に取るようにわかる」
同じ職についている者同士。
手の内を知り抜いていて当然だ。
チッチは、納得するアナコンダを横目で見やり、
「ちょうどお前がいる時に、やつと遭遇できてよかった」
しみじみと言った。
その真意がアナコンダにはわからなかったものの、だんだん眠くなってきて、それどころではない。
ハジャ村にいた頃なら、もう寝ている時間だ。
「起きていろ」
「でも……」
「熱血だろう?」
「熱血だけど……熱血だけど少しだけ寝ようかな……泥棒って夜遅くに動くと思うし」
定石通りに考えれば、盗賊が動くのは人々が寝静まってからだ。
だが、
「おそらく、やつは夜更けを待たずに動くだろう」
とチッチは見ている。
「なんでだ?」
「それはやつが……いや、それをお前に理解してもらうには、魔術の授業をしなければならない」
「魔術の?」
アナコンダの目が輝く。
魔術の授業……。
なんとも楽しそうな響きだ。
眠気は吹っ飛んだ。
「魔術は奥が深く、依然として研究途上だ。だが、一応、ある程度の分類はされている。かつては地水火風の〔四大元素説〕や、木火土金水の〔魔術五行説〕があったが、現在では〔七つの系統説〕が主流だ」
「……なるほど!」
「難しい話ではない。要するに、魔術とは無から何かを発生させる技術だ。だが、何を発生させられるかに関しては個人差がある。それを七つに分類したということだ」
〔七つの系統説〕を簡単に表すと、以下の通り。
赤:火。
橙:土、岩、金属。
黄:雷、電気。
緑:植物。
青:水、氷。
藍:虫。
紫:風。
火の魔術を使うアナコンダは赤の系統に属するわけだ。
(ニョルモルモも俺と同じ赤で、あの猪人族は紫。師匠は緑ってことか)
では、〔ペドベッド一味〕の御頭はどうかと言うと、
「やつは藍。最も気色の悪い系統だ」
「具体的には?」
「うん?」
「どんなふうに気色悪いんだ?」
「……虫を発生させるところだ」
「あぁ……」
チッチは虫が苦手だった。
ところで、この藍が恐ろしいのは、生み出した虫を用いて様々なしかけをほどこせるところだ。
例えば、
「ハエに人を刺させて眠らせたり、蝶のリンプンを煙玉のように用いたり。まさに泥棒にうってつけの魔術だ」
「あーなるほど。魔術で眠らせられるから、あの家の人たちが寝落ちするのを待たなくていいんだ」
「虫のことはさておき、すべての系統の中で最も異質であり、使用可能な魔術の種類が多彩であることは間違いない」
つまり、手強い。
そんな話をしているうち、早くも盗賊はやって来た。
たった一人だ。
商家の扉の鍵穴へ、針金のような物を差しこみ、一分もかけずに解錠。
手招きをする。
闇の中から四人の人影がぬるっと現れた。
彼らは忍び足で店内へと侵入する。
「師匠!」
一部始終を見届けたアナコンダ。
チッチは弟子の頭を押さえつけ、
「まだだ。やつらが仕事に夢中になって、油断しているところを急襲する」
「おお。そりゃいいぜ」
待ちすぎてもいけない。
二分ほど経過したところで、チッチが茂みから出る。
「突入する。準備はいいか?」
「熱血は十分だぜ!」
「私が言っているのは魔術の準備だ。杖を持て」
「ああ、魔術のことか。……あ」
あることに気づいた。
(俺、魔術使えないじゃん……)
なぜなら現在ニョルモルモは尻の中ではなくポケットの中にいるからだ。
この場で魔物を尻に挿入……なんてことをすれば、どうなるか。
師匠にもニョルモルモのことは告げていないのだ。
アナコンダもニョルモルモもただではすまないだろう。
「魔術はちょっと……気分が乗らなくて……」
「気分次第で戦うか逃げるか迷うようなら、お前は国家魔術師になれない」
「う……」
「遊びではないのだ。半端なら帰れ!」
そこまで言われると、腹をくくるしかない。
「熱血だー!!」
玉砕覚悟で店につっこんだ。
* *
その頃、店の中では――
主人から奉公人にいたるまで、ぐっすりと眠りこんでいる。
彼らの首や腕には小さな赤い炎症がある。
床にはハエの死骸が数匹。
これらは眠りの魔術が使用された痕跡だと見ていい。
そしてまさにその主人夫婦の寝室で、泥棒たちは盗みを働いていた。
壁の一部が取り外せるようになっており、その中には金庫がある。
この部屋にいる泥棒は四人。
灯りもつけず、夜目と勘を頼りに、金庫を開けようと苦戦している者が一人。
他に、見張りが一人。
残り二人は風呂敷を広げているが、これはおそらく金庫から盗み出した物を運ぶ準備なのだろう。
緊張の数分間。
「……よし!」
とうとう金庫を破った瞬間。
「熱血だー!!」
雰囲気ぶち壊しの熱血少年が駆けこんで来た。
「な、な、何者だ!?」
〔ペドベッド一味〕は悪行に慣れた、いわば歴戦の猛者。
そんな彼らも、仕事中に、
「ヘンテコなガキが闖入してきた……」
経験などなかったし、予想もしなかった。
さすがにとまどいを隠せず、
「警察や近隣住民ならともかく、こんなのが邪魔に入るとは驚いたね、あたしゃ」
「ちょっとちょっと! あんたがちゃんと見張ってないから、こんなことになるんじゃん!」
「だって、俺、びっくりしちゃったもん」
「こんなの初めての経験でございますものね」
四人は小声でひとしきり騒いだ後、
「で、あんた誰?」
問われたアナコンダは胸を張り、
「アナコンダ・クーパー。国家魔術師に、俺ぁなる!」
どでかい声で自己紹介した。
「うるさぁ~い! 声がでかいよ、あんた! で、ここへは何の用があるんだい?」
「泥棒を捕まえるぜ!」
「へー。あんた、ちっこいくせに御用の筋かい? 所属は?」
「所属って?」
「どこの組織に入ってんか聞いてんの」
「……ハジャ村お祭り委員会子供クラブだ!」
失笑。
泥棒たちはアナコンダを殴りもしなければ縛りもしない。
とにかく家に帰って寝なさいと言う。
その様子に犯罪者らしさは微塵もなく、印象としては、むしろ近所や親戚の優しい人の方が近い。
しかし、彼らはバカではない。
アナコンダが手に杖を握っていることを見逃さなかった。
「坊っちゃん。あんた、魔術を使うの?」
老いた泥棒が驚いた様子でたずねる。
これに対し、他の一味の反応は、
「だとしても恐れることないよ。ほんの子供じゃないか」
「いえ、魔術の実力に年齢は関係ありませぬ。この子も、これで意外と達人なのかもしれませぬぞ」
その通り。
実際、アナコンダはあなどれない。
現役国家魔術師のチッチをして驚愕させるほどの実力の持ち主だ。
しかし、それはニョルモルモが挿入っていたら、の話。
「捕まえてやる! 神妙にしろ!」
威勢のいいことを言うくせに行動へ移さない原因は、まさにそれだ。
だが、そのポンコツっぷりが一味にすきを生じさせた。
突如として、店の外から数本の蔓が伸びてきた。
「あっ……」
気づいた時には、もう遅い
盗賊四人は完璧に拘束されてしまった。
「誰が仲良くなれと命じた」
すうっと入り口から現れたチッチが無表情で怒っている。
(~ ´∀`)~




