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第001話 国家魔術師に、俺ぁなる!

「熱血だー!!」


 太陽が燦々と輝く真っ昼間。

 春爛漫の暖かな草原で、一人の少年が、そこら辺で拾った枝を振り回している。

 燃えるように真っ赤な髪。

 輝きに満ちた瞳。

 周囲の子供たちの中には、まだ長袖の服を着ている子もいるのに、この熱血少年はタンクトップに半ズボンという真夏スタイルだ。


「うおおおお! 国家魔術師に、俺ぁなる!!!」


 彼の名はアナコンダ・クーパー。

 今年10歳になる。

 今は亡き父親譲りの熱血で、どんな困難にも立ち向かう。

 いじめを見かけた時は尻を出し、


「俺が代わりに、いじめられてやるぜ! さあ、いっぱいケツペンしてくれよな!」


 いじめっ子にトラウマを植えつけ、二度と調子に乗れないようにしてやった。

 山に行った子供が帰って来ないと騒ぎになれば、


「俺が探し出してやる!」

「やめておけ。熊が出るぞ」

「大丈夫。熱血だ!」

「話を聞け」


 大人の制止を振り払って捜索へ出かけ、迷子を無事に連れ帰った。

 ハジャ村は温暖で、人は優しく、自然豊かで、


「まるで楽園……」


 のような土地だが、たまには自然災害もある。

 1年ほど前……。

 雨が降りやまず、村全体が水に沈むという大水害が起こった。

 村人たちは丘にのぼって避難したのだが、逃げ遅れがいた。

 足をくじいたのだろう、老婆が材木につかまった状態で、水にぷかぷかと浮いている。

 村人の一人が悲鳴をあげる。


「うちのばあさんが……」

「行くな。お前まで犠牲になってしまうぞ」

「でも……」

「無理だ。助からん。もうじき、体力が尽きる頃だろう。かわいそうだが、あきらめろ」

「う、うう……」


 大人たちは冷静な決断を下したわけだが、


「熱血だ!!」


 アナコンダは躊躇なく駆け出した。

 荒れ狂う水の中を懸命に泳ぎ、老婆を背負って、命からがら戻って来た。

 お手柄ではある。

 ではあるのだが、


「お前も死んでたかもしれないんだぞ!」


 大人にたくさん怒られた。

 実際、アナコンダの体は傷だらけ。

 大量の水を飲んでしまってもいた。

 まさに命がけだった。

 だが、叱られてめげるほど、やわな少年ではなかった。


「大丈夫。俺は熱血だから!」

「そんなの理由になるか」

「熱血だー!!!!」

「会話が通じねえ!」


 こうしたわけで周囲の人々は、


「あれはただの熱血バカじゃない」


 アナコンダに一目を置くようになった。

 だから、アナコンダが杖を振って魔術の練習をしていても、


「無理だぞ。お前には魔力がないから」


 とは決して言わない。

 言ったところで、


「熱血だ!」


 などと意味不明の返事をされるに決まっているのだから。


「こら! バカなことするの、やめなさい!」


 いや、一人だけいた。

 毎日毎日、アナコンダの熱血を押さえつけようと、がみがみ説教をする女性が。

 アナコンダと同じ赤い髪を毛先ちかくで結び、鎖骨の前に垂らしている。

 目を吊り上げ、


「魔力がないんだから、無駄なことですよ!」

「俺、魔術師になるんだ!」

「なりません。って言うか、なれません」

「魔術が使えなくても、熱血があれば、きっとなれる!」

「無理無理」

「応援してくれよな、お袋!」


 そう。

 彼女はアナコンダの母。

 マイマフィン・クーパー。

 熱血少年を生んだ人とは思えないほど冷ややかな視線を息子へ浴びせ、


「大体ね、魔術師なんて人の役に立ちません。農家や商人になりなさいな」

「熱血だ!」

「会話を成立させなさい」

「ん?」


 ここで、アナコンダは母が袋を持っていることに気づいた。


「どこか行くのか? 俺がおつかいしてやるぜ!」

「山菜を採りに行くんです」

「じゃあ一緒に――」

「結構」

「どうして?」

「お手伝いしてくれるなら、洗濯物の取りこみをよろしくね」

「山菜採りの方が大変だろ? 俺が代わりに行ってやるのに」

「この前せっかく連れてってあげたら、山菜そっちのけで木の枝を振り回してたのは、どこのどなただったかしら?」

「一体どこのどいつなんだ……?」

「あんたよ、あんた!」

「だって熱血だからな!」

「はいはい。行ってきます」


 去り行くマイマフィンの背中をしばらく見守った後、アナコンダは帰宅した。

 言われた分はもちろん、言われていない家事も片付け、やっと一息ついた時、それまで元気だったアナコンダの顔にふと寂しげな表情が浮かんだ。


「魔力がないんだから、無駄なことですよ!」


 母マイマフィンの発言は正しい。

 魔術は才能だ。

 10歳になって魔術が使えないのは、アナコンダに魔力がないことの証明に他ならない。

 そもそも、魔術を多少なりとも使えるのは十万人に一人とされている。

 国家魔術師になれるのは数十万~数百万人に一人。

 せまき門だ。


「でも、親父だったらあきらめないよな?」


 亡父の書斎。

 椅子に座っていると、父が吸っていた煙草のにおいがどこからともなくただよってくる。

 ある日、父は、


「国家魔術師から道案内を頼まれた」


 国家魔術師は国防の義務を負う。

 ゆえに、きな臭いことが起これば、ただちに出動して何らかの対処をせねばならない。

 その際、地元の人に案内を頼むことがある。

 アナコンダの父ログロッド・クーパーはこの案内を引き受けたわけだ。


「危険な仕事じゃないの?」


 不安そうなマイマフィンに対し、


「危険なほど、熱血だ」


 ログロッドはほほえんだ。


「アナコンダ。人助けのためなら、熱血を惜しむな」


 そう言って家を出た父の背中を、アナコンダは今でも覚えている。

 ログロッドは帰って来なかった。

 魔物に殺されたのだ。

 遺体さえ戻らず、以来、アナコンダは母と二人で暮らしている。

 この世界に写真はない。

 また、クーパー家は肖像画をこしらえるほどの財産もない。

 父に慰めてほしい時、アナコンダは父の書斎に入り込み、無数の思い出にたゆたうのだった。

 誰も知らないアナコンダの素顔がここにある。


「よっしゃ!」


 気分転換はもう十分。


「魔術の修業、再開だー!!」


 勇んで外へ出たアナコンダ。

 いつものように木の枝を全力で振り回す。

 その瞬間――


「うおりゃあああ……あ!?」


 青い空を二分するかのように、巨大な物体が煙をあげて飛んで来たのだ。

 そして、山へ落下。

 轟音。

 アナコンダは落下地点から1km以上離れたところに立っていたが、空気を通じて衝撃が肌へとびりびり伝わった。

 ハジャ村の人々がざわめく。


「ありゃ何だ?」

「隕石だろうよ」

「いや、待て。もしかすると魔物の攻撃かもしれん」

「なるほど。魔物も魔術を使えるもんな」

「念のため避難しよう」

「とんでもないことになったぞ、こりゃ」


 山の一部がへこみ、もうもうと砂煙が舞う。


「お袋……」


 母マイマフィンが山菜採りに出かけたのは、まさに、その山なのだ。


「助けに行くぜ!!」


 木の枝を片手に、アナコンダは走り出した。

 当然、大人たちは彼を止めようとする。


「待て! 魔物がいるかもしれんのだぞ! 魔物がいかに凶暴か、親父を殺されたお前はわかってるはずだ!」

「おう。わかってる!」

「じゃあ、止まれ! 走るな! おい……何もわかってないだろ!」


 アナコンダにも事の重大さが認識できないわけではない。

 しかし、危険であればあるほど熱血がたぎるのだ。


「人助けのためなら熱血を惜しむな」


 まるで父の背中を追いかけるように走った。

 山はひどいありさまだった。

 木は何本も倒され、草は土に埋もれ、周囲一帯はやけに暑い。


「でも俺の方が熱いぜ! お袋! どこだ!?」


 山菜が採れる場所は限られている。

 しかし、そこに母の姿はない。

 おそらく爆風で吹き飛ばされたのだろう。

 勘を頼りに捜索するしかない。

 必死で声を張り上げる。

 すると……


「ん?」


 倒れた木の下で、ドピンクの何かがうごめいている。

 引っ張ってみると、全長およそ20cmにして、太さの直径5cmほどの、


「巨大ミミズか?」

「誰がミミズじゃい」

「しゃ、しゃべったー!!」

「ふん。やっと、わしの正体に気づいたか?」

「……魔物?」

「そうや」

「ふーん」

「なんで冷静やねん」


 ドピンクの魔物はアナコンダの手の中でふんぞりかえる。


「怖がって命乞いせんかい。わしは、おどれの村を滅ぼしに来たんやど」


 しかし……

 見た目からして弱そうだ。

 丸いお顔に、まんまるお目目。

 まるで絵本から飛び出してきたような容貌だ。

 それが、あっさり子供の手に握られている。


「魔物って、こんなもんか。全然、怖くないぜ」

「くっ。こいつ、バカにしくさって……」


 よく見れば、魔物にはいくつもの小さな脚がある。

 その小さな脚のひとつで、小さな杖をつかんでいる。

 魔物は杖を振り、


噴炎(オレオム)!」


 唱えた

 すると、杖から火がちょろちょろっと噴き出たではないか。

 魔術だ。


「ふん。ビビったか。おい。わしを放せ。薄汚い手で、べたべた触るなっちゅうねん」

「バカヤロー!」

「ひいっ」

「山火事になったら、どうすんだ!」


 アナコンダは魔物を土の上へ置くと、ズボンとパンツをずりおろし放尿した。

 魔物の放った火が木に燃え移ったのだ。

 さて、アナコンダが消火活動にいそしんでいるのをいいことに、魔物はこそこそ移動を開始した。


「逃げるな!」


 鎮火に成功したアナコンダ。

 すかさず魔物をつかむ。


「洗ってない手で触るな!」

「お前、お袋を見なかったか!?」

「……え?」

「探してるんだ!」


 魔物はおびえていたが、アナコンダから、


「お前が魔物だからって殺すつもりはないぜ! 熱血だからな! 俺はただ熱血でお袋を探してるだけなんだ! 熱血だー!!」


 という説明になっていない説明を聞くと、


(あかん。こいつは、きっと話が通じんタイプのやつや)


 悟って、素直に記憶の糸をたぐった。

 思い当たる節はあった。

 この地に落下した後、こそこそと地面を這いずり回っていると、


「お前にそっくりな髪色の人間を見かけたで。倒れてたけど、わしには関係ないから放っといたわ」

「どこだ!?」

「あの辺やな……って、おい!?」


 アナコンダは魔物をズボンのポケットにしまって駆け出そうとしたのだが、先程の放尿の後でズボンの紐を固く締めておらず、勢いあまって魔物をパンツの中へ入れてしまった。


「おい! 出せ! なんで、こんなとこ入れたんや!?」


 魔物の声を無視して走るアナコンダ。

 やがて母の姿が見えた。

 地面に倒れ伏している。

 失神しているようだ。

 そこへ――


「やべえ!」


 運の悪いことに、上からアナコンダのいるところへ向かって、一本の大木が凄まじい速度で転がり落ちてくるではないか。

 隕石の衝撃によって幹にダメージを負っていたのが、このタイミングでへし折れたのだろう。

 母を背負って逃げるのは……間に合いそうにない。

 大木を素手で受け止めるのは……まず無理だ。

 母を放って行くのは……絶対に嫌だった。


(俺に魔術が使えたら……!)


 無理だとわかっていながら、アナコンダは枝を振りかざして、精神を統一した。

 一方、魔物はパンツの中から逃げ出そうともがいていた。


「最悪や。こんなところで死にたくない。出口はどこや……」


 アナコンダが枝を振り下ろし、できもしない魔術を発動しようと悪あがきした、まさにその瞬間!


「あっ」

「お゛」


 うっかり、魔物がアナコンダの穴の中へ挿入ってしまったのだ。


「お、うおおうおおお……噴炎(オレオム)!」


 膝をがくがくさせながら、魔術の呪文を唱えたアナコンダ。

 業火が放たれ、迫り来る大木を焼き尽くした。


今日から毎日21時投稿します!

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