第1話:清く・正しく・美しく…になれないの?!
「あー!!!もう、最悪!!!」
そう言って、真昼はゲームのリモコンを握りしめたまま、額を机にゴンッと打って、敗北を悔やんだ。
そんな真昼とは反対に、ガッツポーズをしながら顔を天井に向けた兄の朝日は、二人で遊んでいたアクションゲームに勝利して『冷蔵庫に1つしか入ってない、高級モンブランケーキを食べられる権利』を獲得した。
「もう!ほんとうにいやなんですけど、だってそれ、わたしのモンブラン……」
「泣いてもこのモンブランは俺のだからなぁ、真昼が弱くてラッキー!」
「くっそぉ、覚えてろよぉ」
そうして隣で意気揚々とケーキを食べ始める兄を見て、真昼はぎりぎりと歯を食いしばった。
泣きの一回!と、頭を下げると兄の朝日はニヤニヤしながら、その勝負を受け止めた。
「わたしが勝ったら!その、栗!上に乗ってるその、おっきくてあまそうな栗だけ、食べていいことにしてよ!」
「しょうがないなぁ、まぁいいだろう。真昼が俺に勝てたらの話だが」
「勝つ、絶対に勝つ!次は負けない」
そうして鼻息を荒くしながら、もう一度兄に挑んだゲームで見事惨敗をする。
そんなお決まりの流れに、朝日は大きな口を開けて目の前でモンブランの栗を頬張った。
「うっま!あーこれ、なんか甘いのでコーティングされてるのかなぁ?まぁ、なんでもいいや、うまいから」
「こんな感想すらまともに言えないやつに負けるなんて……」
「ごちそうさまでしたー!じゃ、俺このあと友達とゲームすっから」
「え?!もう一回……」
「ま、せいぜい頑張れよ」
そう言い残して朝日はリビングを立ち去った。
そこには負けたままになっているゲームの画面と、ぺろりと平らげられたモンブランの残骸があって……悔しい!悔しい!と足踏みをしながら部屋に帰って、ゲームの練習をしても一向に兄に勝てるほど強くなれないことを悔しがった。
「あーあ、また負けたよぉ。学校の友達だったら、全然勝てるのに、なんでお兄ちゃんには勝てないんだろう」
そうして、ベッドでゴロゴロと一人寝転びながら、RPGのゲームをやりこんでいた。
ある勇者が釣れ攫われた王女様を助けに行くよくある話かと思いきや、このステージは王女様視点で物語が進んでいくらしい。
綺麗な見た目と、かよわく、涙を流す王女様……
それを見た真昼は、ふんっと鼻であしらうように笑ってこう言った。
「わたしが王女様だったら、攫ったやつをぶん殴って、代わりに勇者になるけどなー!」
昔から、何をやるにしてもお兄ちゃんの存在は大きかった。
勉強、運動、遊び……その全てで兄に勝てたことがない代わりに、男の子にも負けないくらい勝気な性格になってしまった。
涙を流して誰かに守られる女になる気はない。
それよりもかっこいい勇者、強い人に憧れる。
そんな真昼は綺麗なドレスに身を包んだ女王様を見て、『ハイヒールでキックとかできたら、めっちゃかっこいいかも』と考え、ベッドの上に寝転がったまま右足を高く振り上げた。
裸足のままポスッとベッドに落ちる。そのときに真昼はこう思った。
「強い王女様ってのも、悪くないかもねぇ」
そうして蹴り上げの練習をしている間に、そのまま寝落ちをしてしまい、目を開けるとそこは見知らぬ天井……?
いや、早く学校に行かなきゃ!
そう思い急いで飛び起きると、知らない女の人が1、2、3……4人?!
「おはようございます、マヒル様」
「まぁ、今日は自分で起きられたのですねぇ」
「いつもは起こしても、全然起きないのにねー!」
「……ねぐせ、かわいいです……」
「なに?!だれ?!どこ、え?!ほんとうに誰?!」
どこでだれで、なにがどうなっているのか分からずに。
きょろきょろ辺りを見渡して驚いた声をあげていると、メイドさんっぽい格好をしているその4人の女性たちは口々にこう言った。
『さぁ!今日もキリキリ働いて、王女様のお仕事がんばってくださいね!』
そうして半ば無理やりのように、身体を引っ張られてベッドから出される。
どこにでもいる女子高生、青空真昼は……とある王国の王女様になったにも関わらず、これからこの城で泥臭く、めいいっぱい働かされることになりそうだ。




