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三話

 ボイラー室から生還した夜。

 龍は自室のベッドに座り込み、

 胸の中心を押さえながら息を整えていた。


 痛みはじわじわ広がり、

 「次の48時間以内の死」はすでに迫ってきている。


(……クソ……これ、避けたら避けたぶん苦しくなってるじゃねぇか……)


 死の予告は止まらない。

 未来は修正を諦めていない。


 蓮からメッセージが届いた。


《少し会えない?》


(心配されてるよな……

 巻き込みたくねぇけど……もうもう隠せねぇ)


《今から行く》


 夜の公園。

 蓮はベンチに座っていて、龍を見ると即座に眉をしかめた。


「……龍、今日さらに顔色悪いぞ?」


「まあ……色々あってな」


「“色々”で済む状況じゃねぇよ」


 蓮は真剣な目をしていた。

 逃げ出す気配は一切ない。


「龍……

 本当に、何が起きてんだ?」


 龍は静かに息を吸った。


「蓮……俺、

 “48時間以内に死ぬ未来”が見える」


 その一言に蓮は目を見開くが、否定しない。

 ただ真剣に続きを待っている。


「未来で死んだ俺の死体が……

 突然落ちてくる。

 触れたら、死ぬ瞬間の映像が頭に流れ込むんだ」


「……そんな……」


 蓮は戸惑いを隠せない。

 でも龍の顔と、怯えた目と、胸の痛みに歪む様子を見て

 “嘘じゃない”と感じている。


「今日のボイラー室は……

 その“死ぬ未来”だった。

 お前が来たことで……変わったんだと思う」


「……俺が?」


「ああ」


 蓮はしばらく黙り込み、

 それから弱く笑った。


「じゃあ……

 俺、お前の未来……助けちまったってことか」


「……巻き込んじまったってことだよ」


「巻き込まれたんじゃねぇよ。勝手に来たんだ」


 2人は帰り道を歩き始めた。


 街灯の下、夜風が冷たく頬を撫でる。


 その瞬間だった。


──“ドサッ”


 鈍い落下音が響いた。


「……っ!?」


 街灯の下、

 アスファルトに落ちていたのは──


第三の“龍の死体”。


 蓮は息を飲んだ。


「……本物……だよな……?

 これ……龍、お前……?」


「触るな……蓮」


 龍はゆっくり死体に近づき、

 顔を見て一瞬で悟った。


(……落下死……高所から……)


 体がねじれ、右腕が折れ、頭は血まみれ。

 ボイラー室と違う、

 “明確な殺意のある落とされ方”だった。


 蓮は震える声で言う。


「なぁ龍……

 一緒に歩いてたのに……

 なんで“俺の死体”だけは落ちねぇんだ……?」


 龍は答えられなかった。


 本当にそうだ。


ボイラー室でも。

この路地でも。

いつも“自分だけ”死ぬ未来が落ちてくる。


(……蓮には……

 死ぬ未来が存在しねぇ……?)


 その違和感は確かにあった。


 でも龍は胸の痛みで思考が途切れ、

 深く考える余裕はなかった。


「蓮……本当に……分かんねぇんだよ……」


「いや、責めてる訳じゃねぇ!

 ただ……なんか……変だよな……

 お前の死体だけ……」


 蓮は言葉を詰まらせた。


「……偶然……か……?」


 自分で言いながら、

 自分が一番その“偶然”を信じていなかった。


 龍が死体に触れた瞬間──


脳へ強烈な映像が流れ込む。


◇未来ログ◇

──夜。

──高層ビルの屋上。

──足元の縁に立つ自分。

──背後から風のような気配。

──押される。

──落下。

──視界反転。


「うあッ……!!」


 龍は叫び、膝をついた。


「龍!!?」


(屋上……押された……

 これ……48時間以内の……次の死……!)


 痛みは凶暴で、

 蓮の声も遠くに聞こえるほど意識が揺らぐ。


 蓮は必死に支えながら言った。


「龍……! 大丈夫か!?

 なぁ……俺に出来ること……あるだろ……?」


「……蓮……

 頼む……近くにいてくれ……

 今は……それだけで……いい……」


 蓮は強く頷いた。


「当たり前だろ。

 お前一人で死ぬ未来なんか……絶対にさせねぇよ」


 しかし蓮は知らなかった。

 “自分にだけ死のログが来ない理由”を。


 けれどこの夜はまだ──

 その真実に誰も気づかない。

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