三話
◇
ボイラー室から生還した夜。
龍は自室のベッドに座り込み、
胸の中心を押さえながら息を整えていた。
痛みはじわじわ広がり、
「次の48時間以内の死」はすでに迫ってきている。
(……クソ……これ、避けたら避けたぶん苦しくなってるじゃねぇか……)
死の予告は止まらない。
未来は修正を諦めていない。
◇
蓮からメッセージが届いた。
《少し会えない?》
(心配されてるよな……
巻き込みたくねぇけど……もうもう隠せねぇ)
《今から行く》
◇
夜の公園。
蓮はベンチに座っていて、龍を見ると即座に眉をしかめた。
「……龍、今日さらに顔色悪いぞ?」
「まあ……色々あってな」
「“色々”で済む状況じゃねぇよ」
蓮は真剣な目をしていた。
逃げ出す気配は一切ない。
「龍……
本当に、何が起きてんだ?」
龍は静かに息を吸った。
「蓮……俺、
“48時間以内に死ぬ未来”が見える」
その一言に蓮は目を見開くが、否定しない。
ただ真剣に続きを待っている。
「未来で死んだ俺の死体が……
突然落ちてくる。
触れたら、死ぬ瞬間の映像が頭に流れ込むんだ」
「……そんな……」
蓮は戸惑いを隠せない。
でも龍の顔と、怯えた目と、胸の痛みに歪む様子を見て
“嘘じゃない”と感じている。
「今日のボイラー室は……
その“死ぬ未来”だった。
お前が来たことで……変わったんだと思う」
「……俺が?」
「ああ」
蓮はしばらく黙り込み、
それから弱く笑った。
「じゃあ……
俺、お前の未来……助けちまったってことか」
「……巻き込んじまったってことだよ」
「巻き込まれたんじゃねぇよ。勝手に来たんだ」
◇
2人は帰り道を歩き始めた。
街灯の下、夜風が冷たく頬を撫でる。
その瞬間だった。
──“ドサッ”
鈍い落下音が響いた。
「……っ!?」
街灯の下、
アスファルトに落ちていたのは──
第三の“龍の死体”。
◇
蓮は息を飲んだ。
「……本物……だよな……?
これ……龍、お前……?」
「触るな……蓮」
◇
龍はゆっくり死体に近づき、
顔を見て一瞬で悟った。
(……落下死……高所から……)
体がねじれ、右腕が折れ、頭は血まみれ。
ボイラー室と違う、
“明確な殺意のある落とされ方”だった。
◇
蓮は震える声で言う。
「なぁ龍……
一緒に歩いてたのに……
なんで“俺の死体”だけは落ちねぇんだ……?」
龍は答えられなかった。
本当にそうだ。
ボイラー室でも。
この路地でも。
いつも“自分だけ”死ぬ未来が落ちてくる。
(……蓮には……
死ぬ未来が存在しねぇ……?)
その違和感は確かにあった。
でも龍は胸の痛みで思考が途切れ、
深く考える余裕はなかった。
「蓮……本当に……分かんねぇんだよ……」
「いや、責めてる訳じゃねぇ!
ただ……なんか……変だよな……
お前の死体だけ……」
蓮は言葉を詰まらせた。
「……偶然……か……?」
自分で言いながら、
自分が一番その“偶然”を信じていなかった。
◇
龍が死体に触れた瞬間──
脳へ強烈な映像が流れ込む。
◇未来ログ◇
──夜。
──高層ビルの屋上。
──足元の縁に立つ自分。
──背後から風のような気配。
──押される。
──落下。
──視界反転。
◇
「うあッ……!!」
龍は叫び、膝をついた。
「龍!!?」
(屋上……押された……
これ……48時間以内の……次の死……!)
痛みは凶暴で、
蓮の声も遠くに聞こえるほど意識が揺らぐ。
◇
蓮は必死に支えながら言った。
「龍……! 大丈夫か!?
なぁ……俺に出来ること……あるだろ……?」
「……蓮……
頼む……近くにいてくれ……
今は……それだけで……いい……」
蓮は強く頷いた。
「当たり前だろ。
お前一人で死ぬ未来なんか……絶対にさせねぇよ」
◇
しかし蓮は知らなかった。
“自分にだけ死のログが来ない理由”を。
けれどこの夜はまだ──
その真実に誰も気づかない。




