自惚れた少年
白い光がゆっくりと差し込み、病院特有の不思議な匂いが鼻を刺激する。目を開けると、そこは病院の一室だった。
腕には点滴の管が繋がれ、身体は思ったより重い。それでも、息はできている。
「おっ、やっと起きたか。体の調子はどうじゃ?」
ベッド脇の椅子に座り、ニュースを眺める沖田の姿があった。
「元気いっぱいだよ。誰かさんと違って、食生活から気をつけてるからな」
「それは拙者がコーラを飲むことへの当てつけか?」
「さあな」
軽口を叩きながらも、駆動の視線はどこか宙を彷徨っている。
あの戦いも、銃弾の痛みも、まだ現実感がない。近藤の件でわかっていたようだったが、それはただの思い込みだった。
(覚悟してたはずなんだけどな…)
その時、外からドタドタと病院に似合わない派手な足音が近づいてきた。足音は止まることなく、勢いよく扉が開く。
「駆動さーん!!」
飛び込んできた影の正体は木戸だった。安心した表情で、駆動がいるベッドへ駆け寄った。
「お前なあ、病院では静かにしろ!」
「あ……すみません。つい」
「なんだ、もっと落ち込んでるかと思ってたよ」
遅れて入って来た葛葉は、いつも通り落ち着いた様子で駆動の顔を見る。
「第一声それかよ。お前はもう少し心配してくれてもいいんじゃねえか?」
「鋼のボディに無限の生命力。お前があの程度で死ぬなんて思ってない」
「俺はテラフォーマーかなんかか?」
四人揃った病室は、いつもの場所に戻ったかのようだった。そう思わせるほど賑やかな空気が流れる。
その中で、葛葉が一石を投じるように口を開いた。
「なあ、駆動。龍馬の時に言ってたよな。戦うのは、人を助けて、明るい未来にするためだって」
駆動は「何を今さら」という表情で、葛葉の目を見つめる。葛葉は言葉を選び、意を決して続けた。
「その未来を拝めなくても……お前は戦うのか?」
問いは静かだったが、逃げ場はなかった。
駆動は一瞬も迷わず答える。
その言葉が、どれほど残酷かを理解した上で。
「…俺一人で済むなら、安い方だろ」
その声に揺らぎはない。
葛葉は、最初からそう言われるとわかっていた。
「やっぱ説得は無理か。頭まで鋼なんだから」
「どういう意味だよ」
「そのまんまだよ。昔から頑固で、いじっぱりで…お前は強い。でも、命だけは大切にしろよ。お前と一緒に未来を拝みたいやつがいることを忘れんな」
駆動は鼻で笑い、肩をすくめる。
「命惜しさに逃げ出して、誰かが傷つくなら、俺が一番強いって自惚れて、片っ端から助けてやるよ」
その言葉は重く、まるで自分自身にかけた呪いのようだった。
沈黙した部屋で、木戸はわざとらしく手を叩く。だが、その視線は冗談とは違い、二人を真っ直ぐ見ていた。
「良い話ですねえ。心に染みます」
沖田は腕を組んだまま、何も言わずに頷いた。
その表情は、どこか懐かしむようでもあった。
木戸のおかげで、部屋に再び熱が戻った。窓から入る風が、その熱と心地よく混ざる。
その時、部屋がコンコンコンとノックされ、看護師さんが扉越しに声をかけた。
「あのーすみません。そろそろ診察の時間なので…」
「はい、わかりました。それじゃ俺たちは今日は帰るわ」
「寂しかったら電話しても良いですよ」
「ガキじゃねえんだから」
他愛もない話を残し、葛葉と木戸は病院を後にした。
診察の結果、銃弾はなぜか消えており、目立った傷もないということで、あとは退院を待つだけだという。
「げっ……来週から学校始んのかよ。せっかくの休みも、もう終わりか…」
「そう落ち込むな歩。拙者は漫画で見た学校に行けるのが待ち遠しい!」
「そりゃよかったな…」




