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時を超える思い

〝これは、とある高校生と武士の物語”



放課後の校庭。

夕日が差し込むグラウンドで、風の音色を全身に感じる。


「今日こそお前に勝つぞ、駆動(くどう)!」


「いいぜ、かかってこいよ葛葉(かずらば)


葛葉は地を蹴って接近し、右拳を振るう。

駆動は一歩踏み込み、拳を捌きながら腕を掴む。


「また初手右ストレートか。もっと学べよな!」


次の瞬間、葛葉の体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。


「まだまだっ!」

歯を食いしばり、葛葉は何度も立ち上がる。


校舎の中から教師たちが二人を見守っていた。


「あの二人って、いつもあんな感じですけど大丈夫なんですか?」


「幼馴染らしいですよ。きっと、あれが二人の会話なんです。見守るのも、教師の仕事です」


「ですね」


夕日が沈む頃、駆動が肩で息をして言った。

「これで…二十一戦、俺の二十一勝だな…

それにしても、よく懲りねえな…」


「俺は…お前が言ったことを忘れてないからな」


「は……?」


「次は必ず勝つ!覚えていろ!」

葛葉は拳を強く握りしめ、早足でその場を後にした。

その時、下校のチャイムが鳴った。


「……帰るか」




駆動は自販機の前でコーラを開けた。

プシュッと音を立て、甘い香りが広がる。


「お主、その飲み物はなんぞ?」


「ん?何ってコーラだよ。それくらい誰でも…」

振り向いた瞬間、駆動は息を呑んだ。


そこには白装束を纏い、宙に浮く青年の姿があった。

あたりは瞬時に寒くなり、冷たい風が吹き抜ける。


「ほう……〝こおら”と申すか。どれ、味見して良いか?」


青年は自然と缶を手に取り、ゴクリと喉を鳴らす。

「むっ、美味じゃ!」


「待て待て、お前誰だ!それになんで浮いて…」


青年はキリッと姿勢を正し、言葉を発した。

「拙者、新選組一番隊組長。沖田総司(おきたそうじ)じゃ。よろしく」


「は?」


駆動の脳裏に、授業で聞いた名がよぎる。

(新選組って…確か幕末の…)


新選組とは、江戸末期に京都で活躍した剣豪集団。どんなときも己の信念を貫き、仲間を思いやる「(まこと)」を掲げ戦った。

沖田総司は十隊ある新選組の中で一番組長を務めていた。


「なぜ浮けるのか、なぜこの世に戻ったのかは、拙者にも分からぬ。気がつけば、ここにおった」


その時、空に轟音が鳴り響いた。

地面は強く振動し、街の向こうに黒煙が登った。


「なんだ…あの音」


「学び屋の方からじゃな、行ってみるか?」


「お…おう」


駆動はその光景に唖然とした。

学校があった場所は瓦礫と化し、粉塵と血の匂いが混ざり、異様な雰囲気を醸し出していた。


「なんだ…あれ?」

瓦礫の向こうで、何かが蠢いている。

目に映ったのは、巨大な影と……

その中心で苦しむ友の姿だった。


「葛葉⁉︎どうして…待ってろ、今助ける!」


「この体…今は俺のものだ」

葛葉とは違うもう一つの声が聞こえてくる。


(あの気配…)

沖田にはその声に聞き覚えがあった。

かつて共に剣の腕を磨き、兄のように慕っていた男の声だ。


「…近藤殿?」


「ん?おおっ!お前も復活したのか総司!」


瓦礫の向こうに、巨大な影が姿を現す。

その正体は葛葉に取り憑き、異形と化した近藤勇(こんどういさみ)だった。

かつて新選組局長を務め、勇猛さと圧倒的なリーダーシップで隊士たちを鼓舞した。


しかし、今は見る影もない。

筋肉は膨れ上がり、右手に朽ちた巨大な刀を握っているその姿は、武士とはかけ離れた蛮族のようだ。


「近藤さん……なぜこのようなことを!」


「俺は……武士の誇りを、この世に取り戻す」


「どうして…!」


近藤の声が、低く響く。

「俺達は、国のために戦った。誠の旗を掲げ、命を懸けて剣を振るった。だが、国は変わり、俺たちを悪とみなし切り捨てた」


近藤の目が、憎悪に染まる。

「ならば、この世を変えてやる。国を壊し、今の国を悪とする。かつて俺たちが新政府軍から受けたように」


近藤は沖田へ優しく手を伸ばした。

まるで、昔のように。


「お前なら…協力してくれるだろう?総司」


その声は、憎悪に染まっていた先ほどとは違い、穏やかだった。


沖田は唇を噛み締め、震えた声で語った。

「拙者は、協力できぬ。今や刀を握る資格すらない…」


「…そうか」

近藤の目が氷のように冷たくなる。

次の瞬間、間合いを詰めた。

朽ちた刀が沖田の胴を狙う。


「危ねぇっ!」

駆動が身を乗り出し、沖田を突き飛ばした。

刀身が頬をかすめ、血が流れる。


沖田が低く呟いた。

「なぜ…飛び出した」


「人のことで後悔したくねえんだ…」


駆動は拳を握りしめ、声を荒げた。

「手が届くのに手を伸ばさなかったから、死ぬほど後悔する。だから俺は…手を伸ばしたい!」


沖田は全身を震わせた。

「…人を守れる、力が欲しいか?」


駆動の脳に、選択は一つしかなかった。

「ああ!」


沖田は深く息を吸い、言葉を発した。

「今からお主に憑く。拳を出し、名を言え」


駆動と沖田の拳が合わさる

「拙者、沖田総司」


「俺は…駆動歩だ」


拳が触れた瞬間

束ねられた髪が揺れる

腰には真剣を携えた

白装束が黒に染まり、道着に変わる

その上から、浅葱色のだんだら羽織が風に靡く



「刀を抜け、歩」


駆動は沖田の腰の鞘に手を伸ばし

強く握りしめ、引き抜いた。

「俺刀なんか振ったことないぜ」


「安心せよ、拙者も共に振ろう」


「そりゃ心強い…」


近藤は瓦礫の山から二人を眺め、言葉を発した。

「やっと終わったか?逃げれば良かったものを…」


駆動は刀を構え、胸を張った。

「背を向け逃げるは武士の恥、だろ?」


「その心、まさに武士なり!」


——行くぞ


砂塵が舞う中、近藤は一瞬で間合いに入った。

それと同時に振り下ろされる一撃。


「来るぞ、構えろ歩!」

「わかってる!」


駆動は反射的に刀を横にして受け止める。

ガチィン!という音と共に火花が散った。

受けた手が痺れる。

(反応できなかった…沖田が反応したのか)


次の瞬間、鈍い痛みが腹に走る。

「ぐっ……!」

近藤の膝が腹にめり込み、弾かれた身体が宙を舞い、瓦礫に叩きつけられた。

骨が軋み、息をするだけで胸が焼けるようだ。


「大丈夫か?」

「ああ、普段の俺なら白目向いてたかもな」


近藤が再び踏み込み、刀を振り下ろす。

「これで終いだ!」


駆動は砂を掴み、近藤の顔に投げつける。

懐を抜け、刀が胴体を切り伏せた。

「二度も同じ手は食わねえよ!」


「小癪な!」

上半身をうねらせ、横一文字。

駆動は体勢を即座に低くし、刃が髪を掠める。


「歩、上手く合わせろよ…」

「ああ!」


間髪入れず、上向きの刀が近藤の喉元を狙う。

が、体をそらされてしまった。

沖田が叫ぶ

「今だ!」

駆動は即座に構え、狙いを定める


世界から音が消え、己の鼓動のみが響く

「天然理心流——三段突き!」

月光に照らされ、額、喉元、胸と三閃の刃が突き抜ける


だが、刃が抜けた後

裂かれた肉が音を立てて塞がってしまった。

「まじかよ…」


「ここで倒れるわけにはいかぬ…

誇りを、意志を、証明するまでは!」


沖田が呟く。

「歩、まだ倒れるなよ」

「あたぼうよ…」


近藤の瞳が、少年のように煌めく。

「久々の切り合い…実に楽しいのう!」


一歩踏み込むたび、地面は割れ、空気は震える

一寸の無駄もない一撃一撃

駆動は息を荒げ防戦一方


「どうすりゃいいんだ、幕末最強!」

「切られるたびに、再生の速度は落ちておる

このまま押し切るんじゃ。己を信じろ」

「己を信じろねぇ…なら俺流で行かせてもらう」


駆動は刀を逆手に構え、そのまま投げつける。

刃は回転しながら近藤の顔面を狙う。


「無駄だ!」

近藤は容易く受け止めた。


だが——次の瞬間、駆動の姿が目前にあった。

「こうするんだよ!」

左手に握った鞘が横薙ぎに唸り、鈍い音と共に近藤の頬を打ち抜く。


「まだまだ!」

駆動は近藤の腕を掴み、地面に投げつけ、神速の刃が迸った。

だが、駆動は刀を振らなかった。


「どうした?とどめを刺さぬのか?」


「優しいな…あんた、手抜いたろ?」


「……何?俺はお前を殺すつもりだった!」


「ならなんであの時、俺を蹴り飛ばした。あんたなら斬り殺すくらいできたはずだ」


「バレてたか……」

「あたりめえだ!」


「お主とやり合ううちに楽しくなってのお」

「どこまで行っても武士ってわけだな」

「そう言ってもらえると、嬉しいばかりじゃ」


「満足したか?」

「まだまだ満足し足りん…」


近藤はそっと立ち上がり、刀を強く握り締めた。

「拙者、新選組局長!近藤勇なり!」 


緊張の糸が切れたように、駆動は微笑んだ。

「いいぜ!満足するまで付き合ってやる」



眩い光で虚空が歪む〝絶対領地”

刀を打ちつけ合うニ人の武士の姿



お互いが肩で息をする

限界が近づいていた

風を掻き分け接近し、両者が間合いに入る

刃と刃がぶつかり合ったその瞬間

パキンという音と共に、近藤の刀が地に落ちた


「悔いは?」


「ない…」


「駆動殿、最後に一つ…頼まれてはくれぬか」

「なんだ?」


「総司を、満足させてやってくれ」

「ああ、任せとけ」


「総司!存分に戦い、満足してこちらへ来い!」

「はい…」


近藤は折れた刀を腹部に当てる。

押し当てる手は少しばかり震えていた。

しかし、その瞳に恐れはなかった。

(俺も腕が落ちたな……だがようやく、武士として逝ける)


浅く、そして深く

血が土に散った

沖田は静かに目を閉じ、敬礼のように刀を掲げた


「近藤殿……安らかに」


朝の風が吹き抜け、血の匂いを運んでいった。

その瞬間、近藤の魂が葛葉から抜け、光の粒となって消えた。


──朝日が昇る

手を合わせる二人の影が、瓦礫の上で長く伸びていた

誠を掲げた男を見送りながら


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