朝日の昇らない丘で
どういうわけなのかは分からないが。
ここに朝日は昇らない。いつここに来ても夜のまま、影はできず、星が瞬き、風は冷たい。
「来たの」
問う声に振り返る。
「ああ」
無も知らぬ君と僕は、ここでだけ会える。同じ空の下で暮らすらしい僕らは、ここ以外で会ったことがない。会おうと思えば会えるのか。それともそうでないのか。確かめるのが怖くて、僕は一度もそれを君に言ったことはない。
「なんだ、痣、減らないね」
「ああ」
君の何でもないように問いかける声がなんだかおかしくて、つい笑ってしまう。治った痣は今日また増えた。いびつなそれはつねられた痕。星明かりの下なのに、そういう醜いものはひどくはっきり見える。
「君は?眠れてる?」
「んー……どうだろな」
僕が問い返すと君も笑う。僕らの人生にこういう困ったは付きものだ。
太陽の昇っている間、息を潜める僕らは鼠みたいだ。
朝起きて家から逃げるように出てくるくせに、だからといってどこにも行かれない。普通の人に紛れようとして、それができなくて弾かれる。生きていることさえ目障りだと殴りつけられる昼下がり、憐れんでいるような、迷惑そうな、何とも言えない目を向けられる夕方。
それを超えるとやっと、僕らは生きていていい世界を手に入れられた。
夜のしじまの中に、そっと言葉を交わすように。
ここに朝日は昇らない。僕たちはこの丘にいる限り、誰の蔑みも受けないで息を吸える。
「ここに住んじゃおうか」
僕は半分冗談、半分本気でそんなことを言ってみる。
「やだ。いつか朝ごはん食べたいもん」
君がおどけてそう言う。たしかに。いつでも夜のこの丘じゃ、朝ごはんはいつまでも食べられない。
「僕ら、また、ここに来れるかな」
君は笑い止む。さあねと言う声が冷たい夜風に溶ける。
「いつ来れなくなるか分からないからさ。だからここで揃うのが嬉しいんだろう」
僕は何も答えられなくなる。本当に、君は。
「生きていたいと思わないの?」
僕が恐る恐る訊く。君はどうだろな、なんて。言葉の焦点が合っていないような気がして、僕は落ち着かない。
「明日生きてたら生きるし、そうじゃなかったらあきらめる。目を開けて世界があるなら、そのうちは精一杯やってたいだけなんだ」
君はあっさりそんなことを言う。取り残されそうな気がして僕はますます怖くなる。
君は多分強いんだ。強いから明日が今日より悪いことも怖くなくて、自分に幸せが来るかどうかもどうでもよくて、ただ、その時できることを飽きずに、損得も考えずにできる。
でも、君の生き方に、君の強い強い心に、多分君の命はついていけないだろう。君はいつか倒れる。君自身の生き方に殉じて。
「君に死んでほしくないんだけど」
そう、僕が呟く。君は相変わらず、遠くをみて笑う。
「どこにもいかないよ」
その日を最後に、君はこの丘に来なくなった。
あれから、もう何年も経つ。
君の声をおぼろげに思い出す。日の昇らない丘は、変わらず今もここにあって、でも君はもうここにはいない。僕もしょっちゅうここには来なくなって、でも君を探すみたいに、思い出したみたいにここに足を運んでしまう。
ざあっと夜風が吹く。僕を追い返すみたいに。
僕は、いつの間に泣いていたんだろう。頬に溢れた涙を乱暴に拭って、それからもう少しだけ、君を待つことにした。
私の代表作のプロットを改変して文章を肉付けし作ったもの。
なるべく何も考えないで、書き直しもしないで作品を書いたらどうなるか?という実験。今のところ全然面白く感じないしやっぱり暗い話になるのかと少しがっかりしている。
いつかちゃんと面白いものを書きたいんだけどなあ。




