冷えるもの
ウエノさんが子供の頃の話だ。彼によると心霊的なものではないような気がするが、少なくとも当時は怖かったし、友人が一人減ったそうだ。
「当時はまだクーラーなんてものが無くてなあ……いや、普通の家にはあったんだが……そんな全室に付くようなものじゃなかったんだ」
真夏の中、ウエノさんは友人たちと外で遊んでいた。まだ熱中症が根性論で片付けられていたような頃だ。友人たちと公園でワイワイ遊んでいたのだが、喉が渇いたので銘々持っていた水筒で水やスポーツドリンクを飲みながら遊び続けた。
太陽が空の中央になってくるとさすがに暑くなり、日陰に入りたくなる。そこでどこに行こうかと話し合いになった。その頃の友人たちには自室にクーラーを付けている家は無かった。
そこでスーパーで安い駄菓子を買いながら粘ろうとか、駄菓子屋でアイスを買って食べようなどの意見が上がった。アレがいいだの、こっちの方がいいだのといった話し合いになったのだが、そこで一人が声を上げた。
「ウチなら部屋が涼しいから来ない?」
そう言ったヤツは、言い方は悪いがお世辞にも金を持っているとは言えなかった。扇風機くらいはあるのかもしれないが、皆が涼しいようなものではない。そこで皆『嘘つけ』と言ったのだが、ソイツは頑として譲らず、ウチは涼しい、来てみれば分かると言うので行くだけいってみてから駄菓子屋なりスーパーなりどこに行くか考えようと話が決まり、ソイツの家に皆で向かった。
ヤツは鍵を開けながら『信じてよ』と言っていたが、その場の全員が信じていなかった。しかし、鍵を開け、少ししか無い部屋の中のソイツの自室に入ると確かに涼しかった。部屋を見回してもどこにもクーラーなど無い。扇風機すら無いのにその部屋は何故か涼しいのだ。
「スゲーな、ホントに涼しいじゃん」
「今日はここで時間を潰すか」
「いい感じに涼しいな」
などの感想を言いつつ、部屋でトランプをしていた。そんな時一人がソイツに『この部屋ってなんで涼しいんだ?』と尋ねた。これが無ければ友達を失うことも無かっただろうと思う。
「特別に見せてあげるよ、これを集め出してから涼しくなったんだ」
そう言ってヤツは部屋の押し入れを開けた。全員がその中身に絶句する。
並ぶ位牌にはボロボロのものから新品同様のものまであるが、びっしりと押し入れに位牌が詰め込まれていた。そしてその押し入れからは冷気が確かに出てきていた。
「お……お前それ……」
絶句する皆を前に、『どうだ』と言わんばかりに胸を張っているヤツに、ゾクリと背筋が冷え、一人がその家から逃げ出したのを皮切りに全員が大急ぎで家から逃げ出した。『どうしたんだよ!』というアイツの声は無視して走って逃げた。
「涼しかったんですけどねえ……さすがにソイツと友人ではいられませんでしたよ。またあの部屋に招かれたらと思うと怖いですからねえ」
そうしてウエノさんは一人の友人を失ったそうだ。彼がどうやってそれだけの数の位牌を集めたかは想像さえしたくないと言う。




