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炎天怪談  作者: にとろ


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台風と暴走族

「何かを見たわけじゃないんですけどね、聞いたんですよ」


 そう語るのはカホさん。彼女は地方の山間で育ったのだが、中学生の頃奇妙な体験をしたらしい。なお、聞いたというと視覚に問題があって聴覚が強くなると言われるが、彼女の場合は視覚も聴覚も問題なく、それでも見えなかったと言うことは音だけの何かということらしい。


 その当時はまだ今ほど暴走族への締め付けが強くなかった。バイクの盗難もよくあったし、罰則も厳罰では無かった。そのため盗難した原付などで走り出してから、次第に大型バイクに無免許で乗るようなヤツもいた頃の話だ。


 その前日、酷い台風が来ていて、轟々と風が吹き、雨が土砂降り状態でとてもまともに外に出られなかった。しかし、気温はバイクで走っても暑くも寒くも無いちょうど良い季節がやって来ていた。


 台風の翌日はやや暖かい空気で晴れきっていた。自室で本を読んでいると、バイクの走行音がした。今では考えられないほどバイクの排気音がうるさかった時代なので遠くからでもはっきりと聞こえた。爆音を立てながら走り去っていったバイクの音を聞きつつ『うるさいなあ』と思った。


 夕食時に唯一エアコンのあるリビングで家族揃って食事をしたのだが、アレだけうるさかったバイクに言及することは誰もしない。とはいえ、バイクも一回家の近くの道を走り去っていっただけだ。気にしなければ忘れられる程度の音ではあった。わざわざ文句を付けなくてもいいと思っているのだろうと思い、彼女もそのバイクの音を話題に上げることはやめた。


 しかしその晩、カホさんはバイクの音が何度も何度も家の近くを走り去っていく音が聞こえた。あまりにもうるさい、通報してやろうかとも思ったが、まだ携帯電話の普及していない時代だ。家の電話から暴走族がいると警察に電話をすると家族に文句を言われるかもしれない。事なかれ主義の両親の前で警察に文句を言っても疎まれるだけだと思い、必死に我慢した。


 それでも音が鳴り止まないので耳栓も無いため、気休めに何も繋いでいないイヤホンを耳に入れて簡易的な耳栓代わりにして無理矢理寝た。翌日は酷いクマを作ってキッチンに行くと、母親に『寝不足なの? 夜更かしはダメでしょ』と言われ、『深夜徘徊よりはマシだが気をつけろよ』と父親に言われた。


 カホさんは平気な顔をしている二人に我慢できず、『昨日あれだけバイクが走ってて安眠できるわけないでしょ!』と不平を言った。すると両親ともにポカンとしている。


「かあさん、バイクの音なんてしたか?」


「あなたが聞いていないものを私が聞いてるとでも?」


 話が通じないので、昨日いかにバイクが大きな音を立てながら何度も家の近くを走り去っていったことを伝えた。しかし二人とも心配そうにカホさんに言う。


「昨日バイクなんて走ってなかったろ? よく考えて見ろ、ケーブルテレビであの山の麓の道は土砂崩れで通行止めだぞ? 本当に走り去っていったのか? 通行止めで引き返したんじゃないか? だとしたら何度もそんな道を通るほどヒマな連中なのか?」


 カホさんは絶句した。眠い中家の外に出てみると、一番近い山際の道路は、中心部分で土砂崩れで塞がっていて、迂回路を示す看板が立っていた。


「よくバイクに乗ったままの幽霊の話はありますけど、音だけの幽霊なんて居るんですかね?」


 私はカホさんの問いに『音だけでも幽霊ではあるでしょうね』と言ったのだが、彼女は最後まで納得しない顔をして謝礼を受け取り出て行った。


 なお、彼女の実家付近は今ではすっかり規制の強化でバイクの排気音が小さくなり、取り締まりも厳しいので暴走族はすっかりいなくなったそうだ。

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