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炎天怪談  作者: にとろ


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蚊取り線香とごせんぞ

 蚊帳の時代ではないが、まだまだ蚊を駆除する薬品を使った製品がまだ高く、メインでつかうのは蚊取り線香だった時代のことだ。


 イヌイさんは夏の暑い中、マッチを擦って蚊取り線香の先に火を付け、それを台において部屋の隅に置いた。当時は子供でも普通にマッチを使わせてもらえた頃だ。安全な電気式が無い以上それくらいしか方法が無かった。一応ライターもあったのだが、今の電子式ではなく、石を擦って火花を出すタイプだったのでまだマッチの方が使いやすかった。


 そうして蒸し暑い中を寝たイヌイさんだが、夜半に目が覚めた。目が覚めたのだが体が全く動かない。指先まで完璧な金縛り状態だ。


 暑いせいかなと思いながらぼんやりとしていたが、不思議と怖くはない。ただぼんやりと部屋に寝ているだけで視線は天井しか見えなかった。よく見ると天井付近に蚊取り線香から出た煙が渦を巻いていた。


 蚊取り線香の煙があそこまで見える量になるだろうかと言う疑問は後日になるまで気づかなかった。


 とにかくその煙を見ていると、馬に乗った人のような形を取った。馬といっても競馬で活躍するサラブレッドではなく、ぱっと見ではロバにも見えるような馬だった。それが部屋の空中を走った後、隣の部屋に吸いこまれていった。


 そこで金縛りが解けたので、隣の床の間に行ってみると、キュウリに割り箸を刺した馬が飾ってあった。そう言えばお盆の伝統だからと作るのを任されていたのを思い出した。


 たしか馬に乗って急いで帰ってくるようにと言う意味があったのだと教えられたような気がした。ご先祖様が本当に帰ってきたのだろうかと疑わしかったが、先ほど見たものは確かだったのであれがきっとごせんぞなのだろうと思い至る。


 しかしあまり格好の良い馬ではなかったなと思い、それから部屋に戻ると自然に眠りに落ちた。翌日、朝起きると両親に床の間との襖を開けていたのを叱られ、昨日見たものが夢ではなかったのだろうと確信した。


 幽霊を信じている方ではなかったイヌイさんだが、さすがにアレを見て無関係だとは言いきれなくなり、少しだけ信じられるのではないかと思った。


 まだ当時は存命だった祖母に見たものの話をすると、『昔はねえ、あんな格好の良い馬じゃなかったんよ。不格好だけど力はあったからねえ、たぶんアンタが見た馬はその時代の馬じゃないのかねえ』と答えられた。


 馬に乗って早く帰ってきてもらうのに、あまり早そうには見えない馬に乗るんだななどと考えながらお盆を過ごして帰省から帰った。ただ、イヌイさんには今でも不安に思っていることがあると言う。


「馬で来るときはきちんと見えたんですけどね……お盆の終わりも蚊取り線香は焚いていたんですけど、ごせんぞらしきものは見なかったんですよねえ……もう随分昔の話ですが、ごせんぞが実家に居座っていないことを祈りますよ」


 そう言って笑い、彼は話を終えた。


 就職してからはさすがにアパートにキュウリの馬を飾ったりはしていないものの、お盆になると思いだしてしまう話なのだそうだ。

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