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炎天怪談  作者: にとろ


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自由研究の結果

「私、トマトが嫌いなんです」


 飲み会で出会った春子さんが会談を教えてくれるというので居酒屋に付き合ったら第一声がそれだった。思い返せば皆で食べている時もトマトがあるものは一つも出てこなかったと思い至った。


「何があったんですか?」


「私が怪談だと思っているだけで、親も信じてくれないんですが、そんな話でも構いませんか?」


 私は大きく頷いて『もちろんです。突拍子もない話なんて当たり前のようにありますよ』と答えるとゆっくり昔話をしてくれた。


「私が小学生だった頃のことです、夏休みの宿題に自由研究がありました。多分多くの人がそうだと思うのですが、あれでなにをやるか考えるのって大変ですよね?」


「そうですね、課題の決め方がなかなか難しいですよ」


 自由研究は昔からアイデア勝負的なところがある。読書感想文のように文字数稼ぎも出来ないのでなんとかでっち上げなければならない。


「それで私はトマトの観察日記を書くことに決めて、親にトマトの苗を買ってもらったんです」


「あれ? トマトはお嫌いなのでは?」


 トマトが嫌いな人が題材にトマトを選ぶのだろうか?


「コレはトマトが嫌いになった理由ですからね。課題が終わるまでは普通にトマトくらい食べられていたんですよ。ただ、その夏以来トマトがダメになっただけです」


「何か起きたんですね?」


 彼女は深く頷いて話を続ける。


「実際、自由研究はサクサク進みましたよ。画質は悪いですけどデジタルカメラで一日一枚写真を取ってノートに貼り、それに注釈をつけるだけです。小狡いことに印刷の時にサイズを大きめにして字を各スペースを減らす省エネのようなこともしました。おかげで課題は順調に進んでいったんです」


『ただし』と付け加えてそこからが本番だと言った。


「トマトも実をつけ始めたんですよ。青いトマトがだんだん大きくなるのは見ていて楽しかった記憶があります。そこで私は思わず小さめのトマトをもいで、青いトマトはどんな味がするのか確かめようと水で洗ってかじったんです。そうしたら、手に持った時は固かったのにぐちゃっと潰れてしまったんです。手元を見ると、そのトマトは種の部分にある液体が真っ赤になっていたんです。果肉は青いままなんですけどね……」


「それだけなら偶然変な個体を掴んだと考えてもいいのでは?」


 私の言葉に彼女は首を振った。


「それからトマトで汚れた服を着替えてテレビでも見ようとしていた時に母が血相を変えて私のところに来ました。『おじいちゃんが……』と言っていました。祖父の訃報を伝えて、急いで私にも来るように言ってきたんです。その後はゴタゴタが続きました。ようやく落ち着いた頃にファミレスに寄った時、注文したランチのセットにトマトが付いていたんですよ。かじってみて気がついたんですが、あの時のトマトとは全く別の味なんですよ。家庭菜園だからとかそんな理由ではないもっと怖いものでした。色々考えた末、あの赤さと味が血のそれだと気がついたんです。それに気づいちゃったらトマトはもう食べられなくなりました」


 私はかける言葉も無かった。気のせいで済ませることも出来るだろうが、彼女は本気でそう考えているようなのでとても否定は出来ない。私は何を言おうか考えた末に『おじいさんも貴方にトマトを通じて思い出して欲しかったのかもしれませんね』と気休め程度の事しかいえなかった。この時は自分の未熟さを感じるばかりだった。

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