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炎天怪談  作者: にとろ
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夏の因習

 そろそろ初夏が迫ってきた。暑いときには怪談とは誰が言い出したのだろう? それはとにかく、興味深い話を教えていただいた。


 Aさんの故郷では変わった風習があるらしい。その風習というのが、夏になると村の子供を神社の前を流れる川で遊ばせるというものだ、水着を着てパチャパチャするだけでその子は無病息災だし、村にも災害が訪れないという。


 そんな変わった風習なのだが、Aさんが帰省したときには村は少子化と過疎化で条件に合った子供が一人しかいなかったという。これで一人でもいるなら良いのだが、そこで決まった日にたまたまその子供が風邪をひいてしまったそうだ。


 となると村中は大変な事になった。今まで村が無事だったのはその風習のおかげだと思っている層はその子供を無理にでも水浴びさせろと言い、若年層はいい加減そんな風習は辞めるべきと論争になってしまった。


 この手の話の場合、無理矢理老人たちが話を押し通すのが定石なのだが、その村では若い人がいないと力仕事が追いつかなくなっており、若者の発言力がそれなりにあった。そのため、その年は風習はなし、代わりに神社に様々なものを奉納して納得してもらうこととなる。


 神社側としては一応正規の手続きをして欲しかったそうだが、体調不良では仕方ない。氏子をわざわざ減らすような危険なことはするべきではないと決まった。


 そうしてその子供が風邪をひいたまま、その日が来た。


 神様の怒りなどは起きなかったし、災害がその年に起きることもなかった。それだけならただの迷信を信じた村が何の意味も無いことを思い知ったというだけなのだが、問題は子供の家の中で起きていた。村に幼稚園がないので入園はしていないが、まあそのくらいの年の子供が選ばれていた。今年で下らない名神も終わったと安心していたのだが、子供がスヤスヤと寝ていたので、お粥でも作ろうと母が少し目を離した。


 そしてパックのお粥をレンジで温めて帰ってくると、子供が水に濡れていた。おねしょをするような年ではないし、そもそもおねしょにしては量があまりにも多い。ひとまず床に染みこむ前に拭き取ったのだが、それはどこからどう見ても水だった。


 さらに子供が『おかあさん、おじいさんが、またきなさいっていってる』と意識が朦朧としているはずなのにハッキリとそう言った。


「それで、子供は無事だったんですか?」


 その出来事の顛末を聞いた私は思わずそう訊ねた。


「元気ですよ、ただ……子供がそんなことを言ったので、その風習は未だに続いていますけどね。話の子は翌年に川で水浴びをしたそうです。親の方も、それ以来風邪一つ引かない子供を見ていると強くは言えないらしく、村としてはその儀式のようなものを続けていこうという話になったそうです」


 彼はそう言う。果たして神様の御利益と言っていいのかは疑問が残るものの、理由はハッキリしなくても、それなりに意味のある風習があるのだなと思った件だった。

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