バケツの腹の中に
バベルの家は、北西の農業区画の真ん中近くにあった。木造賃貸の一室。学校卒業と同時に住み始めたこの部屋で、他の農家がそうしているように、バベルも暮らしていた。
中央広場からは、北の大通りを中程まで進んだ所で、横に伸びる通りに入れば簡単に帰れる。はずだった。
現在、謎の爆発と魔物による騒動で、コーラルは朝とは比べるべくもないほどに荒れ果ててしまっていた。一日にして、数百年から数千年の時間を飛び越したかのような現状の街の景色に、バベルは両手を脇にぶら下げ、呆然と寒風を感じていた。
目の前にあったはずの家路は、見事なまでの瓦礫の山に姿を変えて立ち塞がっていた。
私たちの居場所は無くなったのだから、お前たちの居場所も無くしてやる。そんな森の魔物たちの怒りの声が聞こえた気がして、バベルは体を震わせた。
街の北側は、魔物が多く暴れていたらしい。東西の大通りと比べ、ここ北の大通りは目に見えて荒れ放題となっていた。ほとんど更地に近い。なんせ、大通りに面した建物はそのどれもが倒壊していて、吹き抜ける風は、体を浮き上がらせようとしてくるほど強かった。
(どうしよう。広場に戻りたくはないけど、ここ以外の道を回り込めるかも不明だし。これじゃあ、通れる場所を探すのも時間がかかるりそうだな)
集会所前でジロと別れたバベルは、一人家路を辿っていた。何の問題もなかったのは、中央広場から北の大通りに入るまでで、それ以降、この路地につながる道だった場所に来るまでに、魔物の死体を二桁は見た。
ガストンの私室に泊めてもらう。この考えも、あまり使いたくなかった。ジロ学校長との会話によって、ある程度は頭の中が整理できたが、今は他の人とこれ以上何かを話す気になれなかった。
「面倒だな」
考える事が、馬鹿らしくなってきた。もうその辺で寝転がってもいいのではとも思えた。がしかし、道はバベルの記憶にあるものが全てではない。魔物が暴れたことで、新しい道が幾つもできていた。所々建物の中に通じているらしかったが、この街並みを眺めて考えるに、穴の空いた家屋に居住者が戻っているとは考えにくかった。
バベルは、早速倒壊した建物の壁から中へと入ってみた。そこは、昔来た事のある服屋だった。あの頃は、ガストンに新しいのを買ってもらったのだったか。
中は荒れ放題で、獣の臭いと血の臭いが混じった空気が滞留していた。元の服屋としての面影などどこにもなかった。地面に散乱した布の切れ端を、衣服とは呼べないだろう。
思った通り、壁に空いた穴は路地の向こう側に繋がっていた。ここから本来の道で帰れるのならば、次の分かれ道を右に曲がり、二つ十字路を越えて、その先でぶつかる曲がり角を左におれた三つ目の建物だ。
目の前に伸びる道を進み、別れ道が無事に残っていることを祈る。道の上には、建物の破片ばかりが落ちていて、躓いたり、衣類を引っ掛けたりと少し歩きにくかった。
分かれ道は、確かに残っていた。しかし、問題なのはその先だった。建物が通りを渡って、反対側の家屋にもたれかかっている。下に隙間はあるが、バベルでは通れそうにない。
別の道を探すか、倒れた建物の上を登るかの、二択が突きつけられた。
「何が暴れたんだか」
歩くたびに土埃が舞う路地だった場所を歩きながら、バベルはため息を洩らした。
しょうがないと、倒れた建物に触れられる位置まで近づいてみた。この建物をどかすことも、もちろんできない。しかし、他の道は既に出来上がっていた。横へ向けた視線の先、倒れた建物の中。民家のようだが、家主は不在だ。ここを通り抜ければ、向こう側に行けるだろう。
「お邪魔しまーす」
何となく口から出た言葉は、誰もいないはずの部屋の中を自由に飛び回り、穴の空いた壁やら、崩落した天井から外へと飛び出していった。
明かり一つない部屋の中は、何かの生き物のように、不気味な唸り声を上げていた。外からの風が渦巻いてそう聞こえるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。何かいる。と気配を察知した時には、バベルの眼前に何かが飛んで来ていた。思わずそれを片手で受け止めると、気配がたじろぐように揺れた。手元の飛来物を確認すると、それは家屋の一部であったろう木片だった。
ほんの少しでも反応が遅れていれば、右目を失っていた。その事実が、頭の片隅でほのかな熱を帯びいた。
「フ、フヒ。へポ、ポマンシヌルポ」
部屋の気配が声を発した。気味の悪い鳴き声だった。それに、鼻につく不快な異臭。暗がりでよく見えないが、バベルはこの魔物を知っていた。
何日間も洗濯していない雑巾のような臭気を纏う、気配を消すのが上手い魔物。その声は下手くそな笑い声の様な耳障りなもので、そして何より、原始的な攻撃手段の投擲をしてくる。
「アトオミケか」
アトオミケ。全身を真っ黒な毛で覆った、猿型の魔物だ。黒一色の中に、藍色の毛が目元だけを覆っていて、まるで眼鏡をつけているようにも見える。そんな外見から”人間モドキ”と呼ばれる事もある。
言語らしき言葉を発してはいるが、同種でも仲間内以外だと、意思の疎通ができないことがあるらしい。こちらの言葉もわからないようで、冒険者協会はこれを魔物と認定した。
主な攻撃手段は近くの石や木を投げつける投擲で、ごく稀に木の棒での近接を行う個体もいる。
「森の生き残りか」
正直、戦いたくはなかった。未だ脳内は散らかっていて、胸の中の獣がこちらにニタニタと嫌な笑みを浮かべている。ここで短剣を抜けば、獣に体の内側から骨の髄まで食い散らかされてしまう気がした。しかし、今のバベルには、目の前の魔物を森に帰す力など持っていない。
どうするべきかと悩むバベルに、アトオミケは躊躇いなく、壁石の破片を投げつけて来た。
(人が心配してやってるのに……)
アトオミケは、少し変わった魔物だ。見ているだけで、苛立ちが湧いてくる。挙動不審に体を揺すっているのが原因なのか、耳障りな笑い声のような鳴き声なのか。両方あるだろう。それに加え、この臭いもだ。
いつだったか、集会所でカルカロと出会した時と同じだ。あの時の臭いに似ている。少なくとも、一週間以上は風呂に入っていない、気分を害する悪臭だ。風が上手く出ていかない屋内が相まって、異臭がここに滞留している。不快だ。
「ヨシ。お前は無視する」
そう宣言したバベルは、右手に持った木片を投げつけた本人に投げ返した。
勿論、当たらないよう足元を狙ったのだが、アトオミケは気が弱い魔物だ。立ったこれだけで萎縮して、部屋の隅で身を縮こまらせた。
「ア、オア、ボ、ボボ……」
「ああ。そうか」
アトオミケが苛立たしく思うもう一つの理由。それは、群をなすと気が強くなる事だと気が付いた。一体であれば、少し反撃しただけで眼前の状態になる。だのに、仲間があと二、三体もいれば威嚇、もしくは反撃してくる。その人間臭さが、より腹立たしく見えるのだ。
「ヌ、ヌフヘ、ホ」
細かく震えるアトオミケを視界から外したバベルは、悪臭が腕を伸ばし、こちらの体に巻きつくよりも先に、足早に民家を通り抜けて通路に戻った。その間もアトオミケは縮こまり、バベルの背中を見つめるだけで、何もしてはこなかった。
元の道に戻ったバベルは、早足のまま十字路を超える。ここまでは建物が崩壊しているだけで、道は塞がれていなかった。
もう一つの十字路も難なく通過。残りは、次の突き当たりを左に曲がれば、自宅はもう目の前だ。
「ギャウッ!」
左に曲がった瞬間、灰色の毛皮が視界を埋め尽くした。最初は、家屋の断熱材が溢れ出ていたのかと思ったが、それが鳴き声を上げたことで違うとわかった。
コボルトだ。この辺りは建物の倒壊が酷く、冒険者たちの探索が届かなかったのだろう。魔物が多く残っていた。これでは家に帰っても、安心して眠れないだろう。
「ギャウギャウギャウ!」
コボルトは空腹らしい。涎を垂らし、こちらにヨタヨタ近寄ってきた。その右前足には、どこかで調達したであろう包丁が握りしめられていた。
「来るな。殺したくない」
人間の言葉など、魔物が理解するわけがない。わかっていても、バベルはため息混じりに声をかけた。
「ギャギャウ、ギャウ!」
逆に怒らせたらしい。涎を撒き散らす口を左右に振って、コボルトは威嚇して来た。
「クソッ!」
右手がアルマを引き抜き、コボルトとの間に割り込んできた。左腕に熱が籠る。ホント不快だ、この感覚。
バベルが左腕を軽く振りながら、アルマの刃をコボルトに向けた。
「ポマ、ポ、イラ。ワタタ——キ」
背後から悪臭が、気色の悪い鳴き声と共に近づいている。アトオミケが後を追ってきたらしい。あの臆病者は、ここにコボルトがいることを知っていたのだろうか。だから背後を取った。ないとは言えない現状に、バベルは嫌気が差した。自分は敵対したいわけではないのに。と、心の中で叫んだ。
「……そっちから、仕掛けて来たんだからな」
アルマを握る右手に力を込め、バベルはその身を反転させた。
「ギャウ!?」
いきなり背中を見せたバベルに、コボルトは驚き固まった。獲物が、無防備にも背中を見せた。普段の魔物なら、これを好奇と襲い掛かるのだが、今のコボルトには体力が殆ど残っていない。目の前で、人間が他の魔物と戦闘を始めたのを黙って眺めていた。
「ッボ、ボキ——ハ、ワハ、ワ」
「——フッ!」
いきなり振り向くとは思っていなかったのか、アトオミケは目と口が外れそうなほど開き固まった。投擲の構えを取っていたアトオミケの右手には、石の礫が握られていた。バベルはその右手首にアルマの刃を通し——切り落とした。
「ボッ! ボッ! ボキシュガワ…………ァ」
右手を押さえうずくまるアトオミケのうなじに、バベルは右手の短剣を突き立てた。と同時に、空を舞う右手首を左手で掴む。ここまでの動作はほんの一瞬で、振り返った先のコボルトは、まだこちらを見て固まっていた。
「フンッ!」
鼻から空気が抜けるのと同時に、バベルは左手に持った臭物と石の礫を、コボルトの顔面に投げつけた。
「——ギャワッ!」
鼻先に近づいた異臭物に対し首を捻ったコボルトは、右手と石礫を躱した。が、それが最後の動作だった。
首を捻ったコボルトが見せた首の側面。太い血管が通ったそこに、異臭物の塊に刺していたアルマを引き抜いたバベルは、今度は右手で投擲した。右手で引き抜いたアルマに、右回りの回転を加えた投擲は十分すぎる高速で、コボルトの首を貫通した。
「ゲ……………ギャ……ガッ………………」
首を捻って反らせた体勢で、コボルトは地面に倒れた。土肌を見せる石畳に、赤い水溜りが二つ、染み込み広がった。
「はぁ……………ほんと、気分悪い」
漂う魔物の悪臭と血の生臭さ。そこに右手から伝わる肉を貫いた感触が脳へと伝わった。冒険者がこの感触を受け、何故あんなにも笑顔でいられるのか。バベルには理解できなかった。
しかし、「殺すのにも慣れたな。………………帰ろう」そう呟いたバベルは、コボルトの首からアルマを引き抜き、重い体を引きずるようにコボルトの死体を跨いで帰路に着いた。
家は無事とはいかないまでも、その形を残していた。屋根も壁もある。問題は、玄関前で一人の冒険者が倒れていることと、その冒険者に覆い被さった一匹の獣が、冒険者の血肉をその辺にぶちまけていることだった。
何故、こうも簡単に家に帰してくれないのだろう。こっちはもう疲れているんだ。早くベットに倒れて眠りたいのに。何故それを邪魔してくるんだ。
バベルはため息を漏らしつつ、アルマを引き抜いた。これ以上の疲労は、肉体的にも精神的にもキツい。と、バベルの脳は理解していた。だからこそ、投擲の一撃に全てを賭けた。
(これでこっちが死んだら、笑い者だな)
乱れた心の中で考えた言葉を、首を振って追い出した。
「スゥー、フゥー…………」
肺から空気を抜き、頭の中を空っぽにする。必要なのは視力のみで、それ以外の感覚は全て遮断する。
魔物と自分間の距離を、意識が飛び越える。目の前に、魔物の背中が映された。これなら簡単だ。短剣を首に突き刺すだけだ。気づかれる前に、手早く仕留める。それが全てだ。
「——フッ!」
身体の動きを最小限に留め、短剣を中空へと乗せる。風はない。しかし、短剣は不思議なくらいに真っ直ぐと、バベルの向けた視線の上を滑り魔物の首へと吸い込まれて行った。
空色の軌跡が、バベルの右手と魔物の首を一直線に繋ぐ。アルマは、鞘に収まるかのように深々と刺さり、空色の刃が見えなくなった。
「ヤ、ッバ……」
意識の集中と、渾身の奇襲。どちらもバベルには慣れていない事だった。疲労の蓄積が著しく、心臓の挙動も不安定になった。呼吸がまともにできない。五感が乱れて、世界がグルグル回る。
「……ハッ! ハァァ——ハァァァ………………」
両膝に手をつき、肩で息をする。目を閉じ、耳は心臓の挙動不審な鼓動だけを捉える。小刻みに震える膝が揺らす、衣類の感触を皮膚で捉えた。
大丈夫、ちゃんと戻って来た。ちゃんと生きている。
落ち着きが戻ってきたことを確認し、バベルは大きく息を吐き出してから、上体を起こした。
まだ魔物がいるかもしれない。早く家に入らなければ。
「……こいつは」
倒れていた冒険者は、まさかの知り合いだった。昔教室で共に勉強をして、空き時間には殴り合いをした知人。カルカロだった。いつもの取り巻きはいない。一人でここにいたのか、それとも見捨てられたのか。どちらにしても、傲慢男の最後には相応しいものだとバベルは思った。
誰も助けに来ない通りの奥で、一人孤独に魔物の餌にされる。最高に後味の良い、最低に気分の悪くなる光景に、バベルの荒野と化していた心は疲労困憊の体を突き動かした。
「アッハ! ……………アハ、ハハハハ」
自然と笑みが溢れる。何がそんなに面白いのかなど、自分でもわからなかった。しかし、笑い声が喉を通るのを止められない。
「アッハハハ、ハハハ——いい最後じゃないか、ハハハ……なぁ、カルカロ。クククク、プッフフフ……………アッハハハハハ!」
壊れている。客観的に見ずともわかる。自分の中の大切な何かが、外れてしまったと。
心に空いた穴の中でのびのび昼寝をしている獣は、寝ているにも関わらず、その顔にはいつもの釣り上げた嘲笑を浮かべていた。
(こんな顔をしてるのかな。今の僕は)
「ハハ、ははは………………はぁ」
ひとしきり笑い疲れた喉からは、乾いた空気が出て行った。そうして、それまで体に取り憑いていた別の何かが出て行ったかのように、バベルの顔から表情が全て失われた。それの後を追うように、血の味が口内に広がった。
もう寝よう。今日は動き過ぎた。体も頭も、そして心も。
冷え切った室内は、所々にヒビや欠けが見られるが、今のバベルにはそんなことを気にしている余裕はなかった。壁に入った亀裂など、今のバベルには美術商が露店で売っている絵画の一枚と、何ら変わらない。価値の分からない風景の一つだ。
ベットまでフラフラと体を揺らして向かい、そのまま倒れ込んだ。
枕に頭を乗せるのも億劫で、バベルは腹這いのまま泥睡へと落ちて行く。足は膝から下を床に投げ出し、腕もだらんと飛び出ている。しかし、そんなことは些細なもので、バベルの意識はとっくにこの世から消えていた。
頭の中が、自然の緑で埋め尽くされた。今、森の中にいる。瞼の裏側の真っ暗闇を映した視界の中で、バベルはそう感じ取っていた。
陽はまだ出ていない。が、空は白み始めていると思う。正確に把握できないのには理由がある。バベルは、森のでこぼこ道を走っていた。
瞼を開くと視界は朧げで、視界の横を流れていく景色はどれも、その場に色だけを残して、その輪郭は流線となって崩れていた。それらが姿形をはっきり取り戻した頃には、はるか後方へと飛んで行ってしまっていた。
呼吸が荒い。バベルがそう感じた時、揺れる視界は一点にとどまり、周囲を観察させてくれた。早く回転していた足が徐々にゆっくりになり、速度を十分に落としてから、停止した。
朝露の匂いが、鼻の中で踊り舞っている。澄み切った青い空気が、熱の籠った肺の中に入り込んで冷やしてくれた。心地の良い感覚だ。
周囲を囲う木々は白霧が隠してしまい、朧げな視界と合わさって枝葉の先端が見えなかった。
「生きていたか」
聞き覚えのある男性と女性の混じった声に、バベルは頭部をそちらへ向けた。
外したフードから整った顔を晒した青年が、木々の隙間からその長身を覗かせていた。耳が尖っていること以外、その辺の人間と変わりのない彼の風貌は、若草色の外套を血や泥で汚し、元研究者とは思えない鍛えられた肉体に張り付かせていた。
ふと、バベルは違和感を覚えた。霧が漂う緑が囲むこの場所で、基準となるものがなかったため気づかなかったが、バベルの視線がルシオンを上から見下ろすように注がれていた。さらに気になったのは、ルシオンの言葉だ。この状況で「生きていたか」など、まるでこちらの身を案じていたような口ぶりだ。あんな事が起きた後なのだから、人間全員を恨んでも何ら不思議はないはずなのに。
いつの間にこんなに背が伸びたのだろう。と、ルシオンを見下ろしながら、急成長した自分の身長の高さに困惑を隠せなかった。
「森の中は、見ての通りだ」
表情が暗い。当然のことだろう。フラクシスの死。森の魔物が大量消失。そして、ルシオン自身も恐らく冒険者を殺しただろうその姿。これだけの荷物を押し付けられ、壊れてもおかしくない状況。だのに、ルシオンは以前と同じ態度で接してくれていた。
人間を恨んでいないの?
一つの疑問が脳を過ぎる。バベルはあんなにも胸がざわつき、頭の中がぐちゃぐちゃになったのに。今目の前にいるエルフからは、そんなものを微塵も感じられなかった。
意識に関係なく、一歩ルシオンに近づいた。
腕がない。ルシオンに伸ばそうと思った腕が、その先にあるはずの手が、今のバベルにはなかった。どこかに落としたかと視線を下げ、さらに混乱した。視界に映った自分の姿が、人間のそれではなくなっていたから。
生物は死を迎えると、一度命の輪に戻り、次の生が来るまでその中で休憩すると聞く。
(全く休憩なんてしてないんだけどな……もう次の生が始まったのかな?)
最後に見た景色は自宅のベットから見える、バベルの心を写し取ったような、ヒビだらけの壁だった。あの時、確かにベットの上で眠りについた。それから、一瞬にして森の中へと移った。一体何が起きたのだろう。
「ガギフォログ……………」
どこかとても近い場所で、魔物の鳴き声が聞こえた。バングルディアだろうか。しかし、牛や馬に近い鳴き声にも思えた。
(まさか、な)
目の前に佇むルシオンは、こちらに向ける視線を外さない。不自然なまでに、こちらだけを見てくる。近くで魔物の鳴き声がしたのに、だ。
ここは危ないから、移動しよう。
そう言おうと、肺に空気を取り込んだ。
朝の匂いを含んだ水っぽい空気が、肺を冷やした。この感覚が、バベルは嫌いではなかった。
「バグブェボロウ」
喉から出された声が自分のものではなく、魔物の鳴き声のことを除けば、まさに天国のようにすら感じる。
馬の嘶きや、牛の鳴き声。そこに鹿の声が合わさったような音が、空気を震わせた。
ここでバベルは、現状を理解した。
これは夢だ。最後に見た自分の部屋から、ここまで来た記憶がないのも、ルシオンよりも背が高くなったのも、自分の声が魔物の鳴き声に変わったのも、全て夢の産物だ。
それに気づいたバベルは、一度大きく息を吸った。
いやに空気の質感が現実に近いので、呼吸しているだけでは、夢だと気づかなかった。
「こんな結果になってしまって、申し訳なく思う。少し、非魔法族の戦闘能力を見誤っていた。そして……………あの斧を使える者がいたことも、予想外だった」
ルシオンの顔が持ち上げられ、こちらの高い視線と交差した。
斧? 冒険者の中に、そんなに強い者がいたのだろうか。しかしそれにしても、ルシオンの言い回しには、いくつか不自然な点が多ように感じる。夢の中なのだから、話がチグハグなのは当然なのかもしれないが、目の前にいるルシオンがリアル過ぎて、気になってしょうがない。
「ブギフォーン!」
意思に反して喉を通る鳴き声。次いで感じた今の自分の体。筋肉質な肉体に張り付いた硬質な皮膚、四足でその視点はルシオンより高い。シックネススコーピオンの硬質さを思い出したが、あれは足が八本だ。もしそんな体に急になっていたら、まともに歩けないだろう。
この硬質さは、樹木に近いように思えた。樹皮のような皮膚と、木の洞に空気を吹き込んだような鳴き声。そして、四本に伸びた背の高い魔物。そんな生物を、バベルは知らない。
自分の想像力が恐ろしい。現実に存在しない魔物を作り上げ、さらには夢をここまで現実に近づけてしまうのだから。
こちらを見上げるルシオンは、夢の続きを見せてくれた。
「君が勇者達にその身を引き裂かれた時は、もう駄目だと思った」
ルシオンの言葉に、バベルの胸がチクリと痛んだ。集会所で横たわっていたフラクシスを思い出したのだ。
フラクシスを殺したのは、やっぱり勇者一行だったのかな。
本来、勇者たちの活躍は賞賛されるものだ。森の主を討伐して街を守ったのだと。しかしバベルには、そんな彼らを褒め称えることができそうなかった。
ただの我儘だ。知り合ってしまったフラクシスは、バベルにとっては知人だった。この世に、知人を殺されてまったく胸が痛まない者がいるのだろうか。そして、知人を殺した相手を英雄だ勇者だと、他の人同様に手を叩いて賞賛することができるだろうか。
無理だ。少なくとも僕には。
ガストン達の怒りとは別の怒りが、バベルの頭を締め付けた。
「もうすぐ日の出だ」
空を見上げたルシオンが呟いた。
その通りだ。また今日がやって来る。昨日の今日で、完全に日常から外れてしまっていたが、今日はどうなるのか。街の中も、この森の中も大した違いを見せていなかった。外敵からの襲撃で荒らされた非日常を、確かにそこに広げている。
意識がはっきりしてきた。視界もさっきよりも鮮明に見える。
もう時期、目が覚めるかな。
「……………………バベル?」
急に、ルシオンがバベルの名を呼んだ。ここに自分はいない。いや、いるがいない。この体は樹木の魔物だ。バベル自身ではない。なのに名前を呼ばれ、バベルは瞬きを忘れてルシオンを凝視した。
「やはり、そこにいるのだな」
ふっと空気を漏らしながら軽く笑った。
一体何の話だ? 夢がおかしな方向へと進んでいるらしい。現実に近い空気が流れる中で、現実味のない内容に、脳が悲鳴をあげていた。
ここはバベルの夢の中だ。自分中心に事が進むのはわかる。しかし上手く言えないが、何かがおかしい。
本当にどうかしてしまったのかもしれない。森の魔物を殺してフラクシスの死体をこの目に焼き付けて。そうしてバベルの心がバラバラに砕け散ってしまっていたのかもしれない。そうであれば、冒険者ライセンスは正式に発行禁止になる。
病人は、冒険者になれない。
「もう戻りなさい。もうじき日が昇る。そうなれば、また騒がしくなるだろう。だから、今は休みなさい」
歳上の風格を見せるルシオンの左手が、バベルの右頬に当てられた。正確には、バベルが作り出した魔物に触れた。その体温が、血の流れる音が、筋繊維の揺れる音が、バベルの五感を震わせた。ルシオンの鼓動が、こちらに流れてくる。
不思議な安心感を感じつつも、バベルの脳は完全に思考を停止した。これが夢なのか、現実なのか判然としない。自分が正気なのかも疑わしい。
ルシオンに何か言い返さないとなのに、何も言葉が出てこない。
そうこうしている間に、視界に変化が訪れた。日の出の空が下に、地面が上に反転してはまた戻って。それを何度も繰り返す。緑と空色の視界が、極彩色になってそして、白と黒の世界になった。
急な世界の変化に、バベルは出ない叫び声を上げた。吐き出した空気を取り込むと、朝露を含んだ澄んだ空気は取り込めず、土埃を含んだ乾燥気味の空気ばかりが肺を満たした。
薄らと目を開いたバベルは、その視界が元に戻っている事に安堵した。が、その視界に映ったベットシーツと亀裂の入った壁を確認して、もう一度目を閉じた。体が痛みに悲鳴を上げた。寝るときに、ベットにちゃんと入らなかったからだ。今、バベルの足は家の床に膝をついている。ベットの角で腰を九十度に曲げているのだから、疲労が取れないのも無理はない。
目を閉じたままベットへとよじ登り、全身を投げ出したバベルは、肺の中の乾燥した空気と共に、体に籠った力を吐き出した。
今は休もう。バベルの体がベットシーツに再度沈み込み、呼吸はゆっくりと、意識を遠くへ飛ばして行った。
真っ暗な世界が、目の前に広がった。しかし、バベルは焦らなかった。目を開けば、元の世界に戻れることを知っていたから。
あれから、どれくらい経っただろう。瞼の向こうから漏れてくる光は、外の明るさをバベルに教えてくれた。しかし、バベルは目を開かない。
どうせなら、あの森にもう一度戻りたい。澄み切った空気の中を、自分の足で自由に走り回りたい。きっと、これから数日間はそんな事ができなくなるから。
乾燥した土埃を肺に入れながら、街の修復作業が始まる。民家の修復は急務だが、きっと一番の戦力になる鍛治師連中はそこにいない。
トーラスオルファの使い道を、研究研究員と言い合い殴り合ったに違いない。今日はきっと、解体と武器防具への加工で工房に籠り切りだろう。
今回の騒動で、バベルは一つの事実と、生物を殺すことに慣れた不快な感覚を得た。そうして残されたのは、退屈で色褪せた現実のみだった。
「はぁ……………」
目を閉じたまま、バベルは一つ大きなため息をついた。埃っぽい空気に肺が嫌がったが、それ以外の空気は今、この街にはない。大人しくしてもらうしかない。
コン——ココン。コン——ココン。扉が声を上げた。
リズムの良いノック音。ガストンだ。
扉の向こうにいるであろう彼に、バベルは目を閉じたまま「は~い。どうぞ~」と、返事をした。
相手がわかっているのだから、変に取り繕う必要もない。そもそも、この家に客人などガストン以外には来ない。タンゴですら、ここに来たことなど一度もない。
「おはようバベル。気分の良い朝じゃな」
入って来たガストンは、ベットへ軽く言葉を放る。その声には昨日の怒りは全く残っておらず、元の好々爺に戻っていた。
「一つ聞きたいのじゃが、玄関前で死んでおった冒険者と魔物は、一体どうしたんじゃ?」
ガストンの言葉で、バベルは帰って来るまでの道のりを思い出した。アトオミケとコボルト。そして姿を確認していない冒険者を——カルカロを捕食していた魔物の計三体を殺していたんだ。
『倒した魔物は、倒した本人の所有物とする』冒険者の教えである。
実に傲慢な人間の考え方だ。
(何が『倒した』だ。『殺した』の方が正確だろうに)
フラクシスの遺体も、勇者パーティの所有物となっているはずだ。だから今頃は、鍛治師と研究員連中がこぞって、勇者パーティに素材提供の申し出にでも行っていることだろう。
「回収しとくよ。後で」
痛む体に鞭を打ち、体をベットから引き剥がす。
「あの冒険者の方じゃ。あの子は見るからに、お前と同い年じゃろう?」
カルカロのことを言っていたらしい。確か、玄関前で一人死んでいたあれだ。
「あぁ。協会職員が回収に来るでしょ?」
「お前が、きちんと報告すればの」
面倒だ。集会所は、現在正常に機能していない。職員がどこにいるかなど、バベルにはわからない。
放置でいいだろう。
「……………ふむ。あの子のことはわしに任せなさい」
どうやら顔に出ていたらしい。
ガストンが眉間に皺を寄せたが、面倒なのは本当なのだから、しょうがないだろうに。あれは腐っていても、商会の一人息子だ。一人で職員に報告して「見殺しにした」などと難癖をつけられても困る。
これなら、あの魔物に全て食わせた方が良かったかもしれない。
死んだ後もこちらに迷惑をかける辺り、お坊ちゃんらしい。
「じゃあ、僕は魔物の解体に行くよ」
体をベットから離したことで、バベルはガストンからウエストポーチを借りたままだと思い出した。
短剣はガストンからもらったが、ポーチは別だ。
「ガストン。このポーチなんだけど」
「ああ、それも使っておくれ。そんなボロで良ければじゃがな」
「……じゃあ、もらっとく」
このウエストポーチも、アルマ同様に大切な物のはずだ。ガストンがこれを身につけている所を、バベルは何度も見ている。今回の騒動や、五年前でのコボルトの森の中以外で、だ。
「あぁ、そういえば」扉へと近づいたバベルは、ガストンへと振り返った。「ガストンはさ……。森で変な魔物と会ったことってない?」
「変、と言うと?」
「木の体の……………鹿、とか……」
「いいや。そんなモノは、見た事がないのぅ」
ガストンの言葉に、それはそうだとバベルは扉を開いた。
足を一歩外に踏み出し、昨日言えなかった言葉を思い出した。あの時は、もう出ていたから言えなかったが、家族ならば言うべき言葉だ。
「ガストン、行ってらっしゃい」
この場合は行って来ますなのだろうが、ここはガストンの家ではない。
「うむ。行ってきます」
ガストンの優しい言葉を受け取ったバベルは、扉をそっと閉めた。
連日の快晴が今日を呼んだのか、それともバベルの心を表してるのか。今日の空は、分厚い雲が太陽ごと全部を隠していた。
どんよりとした曇り空の下を、バベルは歩く。しかし、この天気ならば死体が一気に腐敗することはないだろうと、一応は一人安心していた。
まあ、明日には同じ臭いが街を包むのだから、今日はみんなで死体の回収と魔物の解体で大わらわなことに変わりはないのだが。
街の修復も考えると、足が重くなる。
「おはようカルカロ。いい朝だね」
昨夜の不安定さが鎌首をもたげたようで、バベルはカルカロの死体を軽く蹴った。こんな所をガストンに見られれば怒られてしまう。
「こいつは」
投擲の一撃で仕留めた魔物の正体は、カルカロだった。
バベルの視線の先には、カルカロが二人倒れていた。片方は鎧が完全に破損していて、露出した背中を大きく齧られた後がある。そしてもう片方の目立った外傷といえば、うなじから喉仏にかけての刺し傷のみで、こっちがバベルが殺した方だとわかる。知らず知らずのうちに、嫌いな相手を殺していたらしい。だが、人を殺した実感はない。なんせこれは、カルカロに擬態した魔物、ミミクゥリだったから。
(どうせなら……………)
何か不穏な考えが頭を過ったが、バベルは頭を振ってそれを追い出した。生き物の殺生に、バベルは快楽を感じない。そんな異常者ではないのだから。
カルカロに覆い被さったカルカロをどけて、その光景を眺める。
ミミクゥリ——擬態型の魔物で、その特徴は擬態以外にない。
擬態前は、その殆どが植物の形を取っていると聞く。擬態の条件が相手の一部ないし、全てを体内に取り込むことだと考えられているためだ。
一説によれば、ミミクゥリは生まれて最初に口にするのが植物で、そこで初の擬態を行うらしい。つまり、襲って来る動く植物は正確には擬態後の姿で、完全な擬態前の姿を見た者は、この世にいないとされている。
これまた、傲慢なカルカロらしい相手だと思った。自分より格下だと思っていた魔物に喰われて、成り代わられているのだから。
「でもミミクゥリって確か、剥ぎ取れなくないか? 素材」
ガストンからもらったポーチの中に入れていた解体ナイフを取り出したバベルだったが、カルカロに擬態した死体を前に、棒立ちとなった。
眺める事数秒「……後回しだな」とナイフをポーチに戻し、バベルは昨夜通ってきた通路へと体の向きを変えた。
通りは、昨夜とは別の姿を見せていた。昨日の暗がりではわからなかった細部まで、今は確認する事ができた。結果、バベルは多くの死体を素通りしていたということを知った。一人だと思っていたカルカロだったが、腰巾着たちはもっと手前の通り端、建物の壁だった残骸に背を預け、冷たくなっていた。彼らの他にも、多くの冒険者だったものたちが転がっていて、自身の嗅覚が予想以上に役に立たなくなっていたのだと知った。
管理局でのタンゴの接近や、家屋内のアトオミケ。さらには曲がり角でぶつかりそうになったコボルトと、どれも通常時であれば、事前に気付けたものばかりだった。
「とっとと素材の回収と解体をしなきゃだな」
冒険者だったものたちを全て無視して、バベルは曲がり角で倒れた二つの塊の前にしゃがみ込んだ。
右手の無いアトオミケと、首に刺し傷のあるコボルト。確かに昨夜の相手だ。
ポーチから取り出した解体ナイフを、手早く死体に差し入れる。これらが、バングルディアやドレッドボアだったら、料理すれば肉も処理できたがこの二種類の魔物では駄目だ。臭いが肉の中心にまで染み付いてしまっていて、食べられたモノではない。
毛皮と爪と骨。取れる素材としては、この辺りか。一応は、内蔵も研究機関に持っていけば換金して貰えるらしいが、今回の騒動で向こうも素材はたんまりだろう。肉と内臓は、全て廃棄処分になりそうだ。
「この辺りか。支部長が言っていたのは」
「全く、道が塞ってたせいで遠回りになっちゃった」
曲がり角の向こう。バベルが昨夜通ってきた路地から、男女一組の声が聞こえた。
「うわっ、びっくりした! ……んんっん! おはようございます。朝からお疲れ様です」
曲がり角から姿を見せたのは、協会職員の二人組だった。男性の方が驚きの声をあげたが、直ぐに仕事の口調に変えた。服装は私服っぽいが間違いない。女性の方は見覚えがある。こちらを毛嫌いしていた、あの時の職員だ。
「どうも」
短く返事をしたバベルは、面倒だと空を見上げた。
この状況では、アトオミケとコボルトの肉と内臓をここに残しては行けない。後々オルソとガストンから、怒声が飛んできてしまう。
「あの」女性職員の持っている物に、目が向いた。「それ借りられますか?」
女性職人が両手に持っていたのは、大きめなバケツだった。恐らく、回収目標が散らばっていた時用だろう。しかし、この辺りでバラバラにされているのは一つもない。であれば、それは無用の品のはずだ。
「えっ! あっと、そうですね。どうぞ」
周囲を確認した女性職員は、バケツをこちらに差し出してくれた。
先日のことを、覚えていないのだろうか。
バベルは、女性職員が持ち上げこちらに差し出してくれたバケツに、二匹の魔物の血肉を掬い取り、投げ入れた。
放物線を描いて宙を泳いだ桃色の肉塊は、周囲に血脂を撒き散らし、女性職員が両手で下げていたバケツの中で、ゴロゴロと曲線に沿って回転して入った。
ベチャボチャッとバケツの中が騒がしく喚き、時々勢いが強過ぎたのか、バケツの中から女性職員の手元へと魔物が舌で舐めとるように血がべったりと触れた。
「ひっ!」
女性職員の悲鳴が聞こえた気がする。が、バベルは聞こえなかったことにして、次々にナイフで切り出した肉のブロックと油の塊を投げ入れた。
バケツは軽快な音を立て、真四角を斜めに砕かれた石畳の上に落ちて、バベルの方へと銀の丸口を見せた。
地面に落ちた胃袋を拾い上げるのに集中していたバベルはそれに気づかず、ほぼ空っぽなコボルトの胃袋を女性職員の手元へと放り投げた。
「きゃあ!」
「ん?」
女性職員の悲鳴と、薄膜ばかりの平べったくなった胃袋が地面を叩いたペチンという音で、バベルはようやく、バケツが女性職員のてから離れていることに気づいた。
「ああ、すいません」
改めて胃袋を拾い上げたバベルは、ちょうど手に持っていたアトオミケとコボルトそれぞれ一対ずつの眼球を、胃袋の口から中に落として、バケツの肉塊たちと合流させた。
「ひぃ!」
言葉を失ったかのように悲鳴ばかりを上げる職員を見て、バベルはため息を吐きたくなった。これで死体回収など、本当にできるのだろうか。
「死体回収の方々ですよね? この先三つ目の建物の前にも有りますので、そちらもお願いします」
正確には一人と一体だったが、それは言わなくても良いだろう。片方が魔物だとバレては、こちらで処理しなければならなくなる。
「あっ、はいお任せ下さい。まだこのあたりは魔物が残っているようなので、冒険者様もどうかご注意を!」
早口に捲し立てる男性職員に、バベルは下手くそな笑みを返した。
冒険者じゃないです。なんて言えば、死体漁りを疑われてしまうし、女性職員は忘れているようなので、そのままの方が都合が良い。
ここは、さっさと撤収するに限る。




