二枚舌
力自慢の太っちょ兄さん
布袋腹には金貨が詰まり
お尻の穴から紙幣もだせる
おしっこは黒い燃える水
兄貴の掲げる旗印は
自由と平等、開拓精神
観光旅行が大好きで
ブランド集めが無類の趣味
旅先で怪訝な空気を嗅ぎとると
とたんに顔に青筋たてる
不自由に驚くほどの敏感さ
心の剣は自由の戦士
その土地の風習なんぞは気にもせず
わが自由の曲をかき鳴らす
「そんな我儘とおりません!」
パチンと痛撃、デコピンされる
お兄さんはムキっと怒り
胸で矜持をメラメラ燃やし
母国に帰って筋トレ励む
「あの一撃は許せない!」
怨みつのらせ意気あげて
我慢の腫瘍がついには破裂
颯爽と空と海と陸を征き
「これでも喰らえ!」と憤る
唾を吐きかけ糞を投げつけ
ゆく国ゆく国、汚辱する
殴打を受けた不憫な者たち
頭を寄せあい鳩首会談
「必ず一矢、報いるぞ!」
気勢の声は天衝くばかり
だけど直感するどい兄貴
そんなことは先刻承知
燃える水をガブガブ呑んで
金貨も紙幣も呑みまくる
貧窮に鞭打たれた者たちは
こりゃ堪らんと頭を抱える
「お兄さんそれは勘弁してよ!」
哀願しつつ反撃の意気まだ軒昂
ところが水もお金も不足して
「いい加減にしろ!」と地団駄を踏む
ときには枕を涙で濡らし
空いたお腹をクークー鳴らし
怨嗟をごくごく呑み込んで
心に計画秘めたまま
兄貴の国へ降り立つと
どかん! とお腹を爆発させた
いろんな国からやってきた
お腹が膨れた人たちが
また一人、また一人
どかん! どかん! と爆発あいつぐ
ついにはどかーん! と大きな音して
高いビルが倒壊したよ
ああ、悲しいかな力の世界
たくさんお腹が爆発しても
お兄さんは玉座に座り
ブランド品を鑑定してる