憧憬の自我、黎明に溶ける
───思えば、あの行動は間違いだったのかもしれない。
私は、人として生きる中で、唯一大切にしたかったあの子を
太陽の様に暖かいあの子の、笑顔を、守りたかっただけだった。
あの子が求めていたことは、結末は、こんな事ではなかったのでは無いのか。
───きっと、私は人では無かったのだろう。
みんなが言っていた、勇者に似つかわしく無い、魔の存在ではないのかと。
人々が叫ぶ、勇者という光を滅ぼした悪魔だと。
それでも、何と言われようと、貴女の命が脅かされるのは、何故だか許せなかった。
でも、きっとそれは間違いだったのだろうと気付かされた。
私に剣を向けた貴女は、疲弊し切った顔で、憎しみの全てを私に向けていた。
───それでも、それでもね、サラ。
私は、今の私の力は、貴女の横に並ぶ資格がある。
己を殺して隠した闇に浮かぶ仮面を
私は被り、人としての身を焦がしながらも
この力を手に入れた。
嬉しいと、本気で思う。
あの日、見たあの光と、私は今対等に渡り合っている。
どう?今の私は、貴女のその美しい眼に、刻まれている事でしょう?
リンネは、サラの右目に剣を突き立てた。
サラは、返す刀で、リンネの左目を切り裂く。
───何故、貴女と戦っているんだろう。
何か、もっと解決策はあったはずなのに。
愛おしい妹は、私に殺意を向け、私もまた醜い殺意を貴女へ。
傷つけたくない貴女を、殺そうとする身体を、止める事が出来ない。
私は、ずっと貴女に、私には無い"何か"を見ていた。
貴女は、私の事を愛していなかったかもしれない。
それは、人ならざる者だからなのかもしれない。
それでも、私は、貴女に只今日を笑っていて欲しかったのに。
───数刻、2人は剣を打ち合い
しかし、運命は残酷にもその決着を付ける。
───嗚呼、サラ。
貴女は、とても強い。
その力に惹かれて、私なりに頑張ってみたけど、やっぱりその光に追い付く事などできなかった。
私の胸を貫いた貴女の剣が、私の命を流してゆくのが分かる。
貴女の愛にも、身体にも
触れても見えぬ明日は、燃えてゆく。
「……ねえ、サラ」
「……何だ、魔王……」
やめて、そんな風に呼んで欲しく無い。
私には、私の大切な"名前"があるのに。
「いや……"リンネ"」
私の気持ちを察したのか、名前を呼んでくれた。
幸せな気持ちが私の心を満たす。
「……眼、御免なさいね……少し、触れてもいいかしら?」
私は、私が潰してしまった、貴女の右目に手を当てる。
私の残っている、魔力を空洞に流す。
私は、大好きなサラの右目に、私の右目を渡した。
「……眼が……何を……?」
「ふふ……これで、私は死んでも、貴女と共に世界を見る事が出来るわ……これからも、ずっと、一緒よ……」
───二つの綺麗な海の片方は、違う色になってしまったけれど
似合っていると嬉しい。
嗚呼、それを確認する事が出来ないのが、とても悲しいけれど
───嗚呼、でも、感じる
夜明けが近いのかしら?暖かな、お日様の光を感じるわ。
私は、この光に溶け込むような感覚を感じながら、意識を解いてゆく。
私の心を満たすは、とても大きな幸福。
憎しみも、怒りも、寂しさも
今では、もう、何も───