第4話「黒騎士と白金の王子様」ーⅠ
――時刻は昼下がり。そろそろ昼食の頃合いだ。
家庭で穏やかに過ごす者もいれば職場で休息を取る者もいるだろう。
そんな中、このジグラート城では一部の騎士たちがとある静かな中庭に集まり、賑やかに昼食を摂りながら語らっていた。
「……あ。そういや今度はうちの隊から第八王女様の護衛騎士を選ぶんだとよ。」
「第八王女? ……て、あの『呪い姫』の!?」
「おい!迂闊にその名で言うな!隊長に聞かれたらどうすんだ。呪いについては一般には隠されてんだから。」
もうじき第八王女付きの護衛騎士が交代の時期を迎えようとしていた。彼女が幼い頃から就いていた護衛騎士は数年前に老体の為引退している。後任は現在ではまだ正式に決まっていないため、国の騎士団の中から交代制で選ばれるのだ。
そのことについて、紙袋からパンを取り出しながら一人の騎士が思い出したように口に出す。それを聞いた別の騎士はパンにかぶりつきながら返事をするが、その呼び方に焦りを覚えた他の騎士が慌てて訂正を指示していた。
「そういや俺、第八王女様って見た事ねぇんだよなー。」
一人がそう呟くと、その場にいた者たちから口々に「俺も」「俺も~」という声が挙がってくる。彼らが所属する部隊はまだ担当していないらしい。
「確か幽閉されて十年以上経ってんだろ? 俺らより上の世代だって子供の頃の姿しか見てないらしいし、今の護衛連中も外壁で控えてるだけだから一度もないってよ。本当に実在してんのかな?呪いでもう亡くなってたりして。」
「滅多なこと言うなよ!不敬罪になるぞ?」
「なっ、なっ! 他の王女様方よりずば抜けて美人っつーの、まじだと思うか?」
「えっ!? それってレティシア様よりも?」
「呪われる前は『宝華』って言われてたらしいし、子供の頃からそんな美人だったなら今はもっと美人ってことだよな? ……あ、逆もあるか。え、どっちだろ。」
「うわ、気になる! 会ってみてえ~。」
彼らは想像を膨らませて自由に会話しているが、中には悪い方向に考える者たちが眉をしかめながら口を挟んだ。
「ばか、お前も呪われるぞ。あの姫に近付くとこっちまで呪いが伝染する、って。そんな人の護衛なんてしたくねぇよ。性格も最悪だって聞くし。」
「それガセじゃなかったか? 幽閉ってのも違くて、静養だって話じゃ……?」
「え? そもそも呪いにかかってるのは方便で、単純に王族に嫌われてるから陛下が〈北の塔〉に追いやったって話だろ?」
「何で?」
「そりゃ不義の子だから? 有名じゃん。つかあの塔の正式名って何だっけ。……る……るびー……あー、思い出せねえ……。」
「おいおい、何が本当なんだよ。良く分かんなくなっちまった。」
「じゃあ男漁りしてるって話は……――ひっ!?」
また新たな憶測が飛び交い始め、騎士たちは人伝で聞いていった噂を口々に言い始めた。
何が本当で何が嘘か。そんな会話をしながら騒いでいると一人が異変に気付き、短く悲鳴を上げて顔面蒼白になっていく。
妙な反応に「どうした?」と、首をかしげた者たちが視線の先を振り返ってみると……彼らの背後に、物凄い威圧感を放つ別の騎士が立っていたのだ。
その人物に全員が気付くと一気に血の気が引いてしまった様で、動きがピタリと静止した。……と、同時にだらだらと冷や汗が流れていく。
パンを頬張ろうと大口を開けたままの者もいれば、飲み物が口に含みきれずに溢してしまう間抜けな者もいた。そんな騎士たちの固まった反応をよそに、その人物は彼らを見下ろしながら冷ややかな声色で言い放った。
「お前ら……休憩中とはいえ、お仕えする王族の内情を好き放題にべらべら語るとは……いい度胸だな。」
「ゲッ!? た、隊長……!!」
まるで屑でも見るような冷たい眼差しに、騎士たちは一斉に我に返り「……すいませんっしたぁっ!!」と、蒼白い顔をしながらその場で頭を下げまくっている。
「全く、よりにもよって騎士国の誉れ高き騎士ともあろう者が噂に踊らされる間抜けになってどうする。真実の有無がどうであれ、下世話な会話をしている時点で騎士失格だ。恥を知れ。」
「お、仰有る通りっす……。」
「はい、すいません……。」
上司に一喝された騎士たちはしょんぼりと肩を落として反省した。
「……第八王女の件についても守秘義務だと、入隊時に教えた筈だが……忘れていたとは驚いた。」
「いえ! そのようなことは……――!」
「忘れたんだろ? そうだろう? そうかそうか、分かった。……午後の訓練は特別だ。その空っぽの脳ミソにもう一度骨の髄まで叩き込んで、ついでに怠けた身体も鍛え直してやろうな。」
「「「――ひいぃぃぃぃっっ!!??」」」
彼らが悲鳴を上げて土下座する様子を、少し離れた位置にある木陰で二人の騎士が眺めている。同じく休憩を取っていたらしく、一人がのんびりと口を開いた。
「……あーあ、怒られてやんの。混ざんなくて良かったわー。俺らまでとばっちり食らうとこだったよ。……午後はサボっとこ。」
彼はリボンに包まれた小袋からクッキーを取り出していた。袋にはギフトカードが添えられていた。おそらく誰かからの差し入れだろうか。彼はそれを口の中へ軽くぽいっと頬張ってから、隣で両腕を組みながら座る騎士に声をかけている。
「お前はどう思うよ? ――クロ。」
「………………何がだ。」
同僚からクロと呼ばれたその騎士は目を閉じながら返事をした。早々に昼食を摂り終えて休んでいたようだ。彼は聞き流していたのか質問の意味を問い返した。
「何って第八王女様の事だよ。どう思う?あの噂、本当に呪いって移るのかな?」
「………………興味ない。」
沈黙の後のそっけない返事に同僚はやれやれと溜め息をつき、クッキーをもう一枚口に含む。そしてふと、何やら悪戯でも思い付いたようにもう一つ話題を挙げてみた。
「……お姫様の話で思い出したけどさ、〈北の塔〉って言えば最近もう一人噂になってたよな。……確か……『幽霊侍女』だっけ?」
その呼び名に彼の片眉がピクッと動いた。僅かな反応を見逃さなかった同僚はすかさず続ける。
「ほら、一年前に来た新しい王宮侍女。容姿と存在感がまるで幽霊みたいだからそう呼ばれてるみたいだけど、もっとマシな呼び名はなかったのかね。
……ああ、確かお前はあの娘の素顔見たことあるんだっけ? どんなだった?」
謎のにやけを隠さない言葉と問いかけに、彼は不快そうにようやく目を開けたが沈黙のままジロリと同僚を睨んだ。
すると話の途中で遠目にある木々の間から、見知った人物が長い髪を揺らし通っていくのが見えた。
目に捉えた途端、彼は直ぐに立ち上がりスタスタと矢継ぎ早にこの場を立ち去っていく。隣にいた同僚は突然の機敏な行動に驚き、問いかけた。
「えっ、おいクロ!どこ行くんだよ?……あ、怒った?」
「………………野暮用だ。」
少しの沈黙の後、やはりそっけなく答えた彼はこの場を後にした。行動の意図が掴めず、同僚は暫くぽかんとしていたが、彼が急ぎ足で向かう先に居る人物に気付くとやれやれと息を洩らし、けれども楽しそうに呟いた。
「……おーおー、よくもまああの距離で気付くもんだ。お姫様の方には興味も示さなかったくせに、まあ。」
微笑を浮かべていると横から別の同僚が、「おいヒース。何一人でにやついてんだ?」と尋ねてきた。彼は「いやな、不器用な幼馴染みの成長が何ともむず痒いというか面白いというかからかってやりたいというか。」と独り言のように答えた。
同僚は「……よく分からんが良い性格してんな、お前……。」と、静かなツッコミを入れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(――はあ、今日こそ何とかしようと思ってたのに……。)
そこは〈北の塔〉から離れた先にある森林沿いの小道。タオルやシーツなどの洗濯物を入れた網かごを両手に抱えたセレンは歩きながら思わず溜め息をついてしまう。
(……支給金、前より少なくなってた……。ハリエ様は駄目だし、誰に相談すれば良いんだろう……。)
違和感を覚えたのは半年前。とあるきっかけで瑠璃宮に割り振られる支給金が他の宮より少ない事を知った。それからも次第に額が減っているらしく、王宮への支給金の相場を知らなかったセレンは気付くのが遅れ、上司に報告を試みているが……主犯が彼らでは解決は困難だった。
(……姫様の身の回りはなるべくご不便をおかけしたくない。せめてお食事や身支度は快適に過ごして頂きたいもの……。
私の給金を切り崩せばまだ何とかなるけど…それも多くはないし長くは続かない…。早く何とかしないといけないのに何の力もない私の言葉じゃきっと誰も……)
王宮侍女は一般の侍女より立場が上だ。しかし王宮侍女の中にも階級というものが存在し、給金も違う。上役として取り締まる侍女長は侯爵家の出であり、その他の侍女の多数が貴族出身の為か立場も待遇も彼女たちの方が高い。
平民からも商家の出の娘などが働くこともあるが、セレンのように家業も後ろ楯もない一般の平民が王宮侍女になれる者は少ないのだ。要因はその性分もあるものの、彼女は宮の中でははみ出し者だった。
今朝の侍女長の態度を見るに、主に貴族出身の侍女たちからは快く思われていない。侍従とは侍女たち以上に話したこともなく、ましてや他の職種の者たちとは関わる機会もない。
頼る宛もなく解決策が思い付かずにいたセレンは、心の中で自身の無力さを嘆いて下を俯いていた。
どうしたものかと考え事に耽る最中……ふと、前方から知った声が聞こえてくる。
「――あら、ポーヴルじゃない。こんな所で出くわすなんて。」
その甲高い声色が耳に響いた途端、セレンはビクッと肩を竦めおそるおそる顔を上げた。
目の前には自分と同じお仕着せを着た三人の侍女が道を塞ぐように腕を組んで立っている。
くすくすと嘲笑うかのようにこちらを見てくる彼女たちに、セレンは震えそうになる声をぐっと堪え、俯きながらも落ち着いて挨拶をした。
「……お、お疲れ様です……。」
「いつにも増してみすぼらしいわね。同じ制服でこうも違いが出るなんて不思議。やっぱり素材かしら?
ああ、大した給金も貰えてないからきっと自分の手入れもままならないのね。何て可哀相。」
「ちょっとやめなよー。……ふふっ、そんなはっきり言ったらもっと可哀相じゃない。」
彼女たちは明らかにセレンを見下し、からかっていた。三人は貴族家の令嬢であり、待遇も良い。かといってセレンも少なくはない給金を貰っていたが、彼女を快く思っていない誰かさんの妨害で瑠璃宮と同じく故意に金額を下げられたのだ。
これは紛れもない不正であり、セレンはそれをつい最近知った。彼女たちによって……。
「ねえ……あの事、まだ上に報告してないんでしょう? 私たち、あんたがあまりにも不憫だから危険を承知で教えてあげたのよ? せっかくの情報を無駄にする気?」
――自分たちは何もする気がないのだろう。
「そうよ。……まあ、由緒正しい生まれの私たちと違って、卑しい生まれの言葉なんて誰も信じないと思うけど。」
――本来なら貴族で信頼のある彼女たちが報告すれば解決する。
「もしかしたら誰かしら味方してくれるかもしれないわ。……でも嘘だと断定されちゃえば……只でさえ侍女長様に嫌われているのだから、ひょっとすると追い出されちゃうかもね?ふふっ」
――おそらくそれが狙いなのだ。
「その点、私たちがお勤めする宮は快適よ? 何処かのおんぼろ宮と違って綺麗な外観で宮内も煌びやかで。
この間なんてお仕えする第二王女様から労いとして、有名なデザイナーが手掛けたっていう高価な装飾品にドレスまでプレゼントして下さったのよ!あれらは貴族の間でも中々手に入らないものなのに。流石は王家一、お美しくてお優しい方だわ。」
「私がお仕えする第七王女様もお優しくて愛らしい方よ?予約待ちで希少な化粧品を頂いたの。お陰で肌もつやつやだし、誰かさんと違って仕事に疲れてもリフレッシュできてるわ。」
……始まってしまった。彼女たちはセレンに会う度、上から目線な罵倒と聞いてもいない自慢話を一方的に話してくるのだ。
貴族侍女の中でも侍女長の次に身分が高いため、平民侍女では逆らえない。実家は国の有力者で周囲からの信頼も厚く、彼女たちの言葉ひとつで相手の人生を左右することだって有り得てしまう。
そんな彼女たちが不正に気付いているのなら自分で報告した方が信憑性が増す。ところが三人は事実をセレンに耳打ちしただけで後は高みの見物だった。
彼女たちはセレンを思って教えたわけでなければ味方したわけでもない。セレンが報告した後の結末を楽しみに待っているのだ。
「……本当、何でこんな娘が王宮に務められるのかしら。……ねぇ、どんな手を使ったの? 誰か力のある方に色目でも使ったのかしら?」
「あははっ! ちょっと何それ~。こんなみすぼらしい娘に魅力を感じる男なんて居ないでしょ。どうせ自分に自身がないから前髪で顔を隠してるんだろうし。」
「そうね。前に見せて貰おうとしたら過剰に怯えてその場にへたり込んじゃったくらいだし、ふふっ。それはないか。」
その時の事を思い出し、セレンはまた肩が竦んだ。
「普段は何言っても黙ってるくせに、あの時はこっちが引く程ガタガタ震え出すし悲鳴は上げるしで大変だったのよ?
近くにいた他の侍女が慌てて人を呼ぼうとするし。……まあ、あの娘は平民出身だったから上手く丸め込んだけど。」
「あんな反応されたらまるで私たちがあんたを虐めてたみたいじゃない。お陰でとんだ誤解を受ける所だったわ。私たちはただ地味なあんたを少しでも良くしてあげようとしただけなのに!」
「王宮侍女ならみっともない取り乱しなんてするべきじゃないわ。いつまでもそんなみすぼらしくいられたら同僚の私たちまで同列に見られちゃう。……ねぇ、黙ってないで何とか言ったら?」
口々に言い放つ同僚からの嫌味にセレンは何も言い返さず黙ったままだ。じっと立ったままの姿に見えるが、その心中で彼女はずっと怯えていた。
(……怖い……震えて言葉が出てこない……。今すぐにでもこの場から逃げ出してしまいたい……。
けど逃げたらまた手を上げられてしまうし、何も言わず話が終わるのを待っていればすぐ諦めてくれる……。
……私はただじっとしていればいい。そうよ……何も反抗せず、ただ静かに……。)
彼女たちはセレンを目障りに思っている。王宮に上がって来た頃から数々の罵倒と嫌がらせを繰り返しており、セレンの反応を楽しんでいた。最近では上司の不正を餌に新たな嫌がらせを思い付き、彼女を王城から追い出す画策を目論んでいる。
セレンは彼女たちの狙いを察している。けれど何とかしなければならないのも事実で、動かなければ解決しない事は分かっていた。
そんなセレンに、リーダー格の様な一人が続けて言い放った。
「きっとあんたみたいな下層階級は丁度良かったのね。誰も働きたくない場所に呈の良い生贄を送ったんだから。あんな所に務めるなんて島流しみたいじゃない?
担当場所も仕える主君もハズレくじだもの。」
「――――……っ!」
――その瞬間、セレンは歯を食い縛って顔を上げた。前髪の隙間から見えた綺麗な瞳には、静かな怒りが灯っている。
その強い瞳が見えた彼女たちは、弱者だと見下していた相手の突然の反応に思わずたじろいだ。
「なっ、何よその態度。」
「……あ……て……さい……。」
小さく呟かれた言葉に聞き取れなかった彼女たちは「は?」と返す。
セレンは抱える網かごに力が入る。その手はまだ震えていた。先程までは恐れからきていたが、今度は別の感情も籠っている。彼女は勇気を出す様に、もう一度口を開いた。
「……あ、謝って……下さい。あの方の……姫様への侮辱を、訂正して下さい……っ!」
「――はあっ!? ……何? あの時みたく珍しく反抗したかと思えば……謝れ、ですって? 誰に向かって言ってんのよ、醜い卑女がっ!!」
聞き捨てならないと言わんばかりに、リーダー格の一人は声を荒げてセレンをまくし立てた。
怒りの罵声に彼女は更に肩を震わせたが、見据えた瞳は反らさない。かくいう彼女自身もこんな言葉がついて出たのは無意識だった。
その姿に彼女は益々イライラが募った。……そして、「いけない、私ったら。」と、軽く呼吸を整えて気を取り直し、再び余裕そうに腕を組んでセレンを見下した。
「……ねえ、今のままじゃ生活が苦しいでしょう? さっさと告発して、盛大に上の怒りを買いなさいな。
そうしたらなーんの取り柄もない鈍間のことなんて直ぐに追い出してくれるわ。
……――ね? 薄汚いポーヴル。」
言ってやったと勝ち誇ったような顔をして思惑を告げる同僚に、セレンは怯まなかった。いつもなら下を俯いて肩を震わせるばかりなのに、今回は違ったのだ。
その要因は彼女にとって最も大切な人を侮辱したことにあると、同僚は気付いていない。
滅多に窺えないセレンの瞳はたとえ前髪の隙間から僅かしか見えなくとも、空から射し込む太陽の光が反射してとても澄んでいて綺麗だった。
彼女たちはそれが癇に触ったのだろう。醜いと思っている相手の、醜さの欠片も感じない美しいものに危機感を覚えたのだ。
それを認めたくなかったのか、屈服させたいのか、はたまたその両方か、リーダー格の彼女はとにかくセレンの瞳を自分から反らさせたかった。
「この……っ! 早く貧民街に帰りなさいよっ!!」
彼女は右手を挙げ、掌をセレンへぶつけようと勢いよく振り翳した。
その動作にセレンもハッとする。自衛しようと思わず抱えていた網かごをガタンッと落としてしまい、それに気を取られて避けることが出来ず、セレンは「……打たれる……!」と、覚悟を決めた。
――バシッ! と、音が響く。
静けさが返る和かな森林沿いに不似合いな気品のない罵声、そして人に暴力を振る音。
だがその暴力の音がセレンにぶつけられる事は阻止された。
「――騒々しい……。」
間に入った短くも冷静な声は、手を上げようとした侍女の右手首を制止している。
後ろの侍女二人は視界に入ったその姿に「……きゃあっ!」と、黄色い悲鳴を上げ口に両手を覆って歓喜しており、手首を掴まれたリーダー格の侍女は軽く頬を染めながらも焦った様子を示している。
セレンは驚きを隠せず、目を見開いた。
自分を庇うように前に立つその人物は黒衣の外套を風に靡かせ、左腰に剣を携えた漆黒の騎士だった。
夜空の髪色は太陽の下でも艶やかに美しく、蠱惑的な紅玉の瞳は冷たく侍女を見下ろしている。
意外な人物に、思わず騎士の名前が口に出た。
「!? ……く、クロフォード様っ!?」