エピソード 02
「……ちょっと、待て! 待ってくれ! 頭が整理できない! あ……飯食うか?」
「え? え? ……??? ええ。今、お腹は空いてるけど?」
俺はここの料理屋「キアニーナ・ビステッカ」のキッチンへ向かった。
「ああ、マスターは今はいないんだ。買い出しに行った」
俺はそう少女へ告げると、早速。料理を作った。
ピザをオーブンで焼き。そして、もう一つ。人参、ニンニクなどの野菜にソースとオリーブをかけて、バーニャカウダの出来上がりだ。
それらを、皿に盛り付け。
少女が座ったカウンター席へ置くと、俺は依頼料のことは一時忘れ去ることにした。
「う……美味しそう! けど、私の依頼は?」
「うん……今受けている依頼の後だな。引き受けたよ」
少女は、カウンター席へと駆けてきて、やっと明るく微笑んだ。
「ありがと。私、仁狐。ジンって呼んで」
「俺はイルスだ」
…………
「黒い雨。降り止まないね」
「ああ、そうだな。天がゴミ箱用に洗浄剤を撒いてるんだ」
「酷い言い方ね」
「ああ……」
俺はふと、このジンの頭から生える耳を見つめた。
どうやら、狐の化身のようだ。
あと、どうやって、俺のことを知ったんだ。
俺は底辺に生きている。
便所虫のような生き物を掃除する。さながら、何でも消し去る汚れたブラシのような男だ。
「どこで俺の居場所を?」
「掲示板……スラム街の……」
「ああ、あの昔の相棒の奴が戯れに書いたやつか……よく探せてたな。かなり地下にあるはずだし。まだ、あったのか?」
「ええ。私、そのスラム街で生まれたから。土地勘があるの」
「へえ……そいつは同じ穴のムジナ……いや、まあ、俺よりはだいぶマシな方だな」
「ふふ……」
俺はそういうと、再びキッチンへと行き。カプチーノを二人分作ってやった。
外の降る雨は、至って止むことはない。
今まで、ここ数年。太陽の光が産み出す日陰すら見た者はいない。
出来立ての湯気が立つカプチーノをカウンター席へ持って行くと、その時、カランカランとする音と共に、マスターがずぶ濡れの恰好で帰ってきた。
「やあ、悪いが。もう一つ頼むよ」
「あ、お疲れ様です」
ジンは素早く狐耳を髪の中へ隠した。
ここのマスターは気の良い人で、細かいことは詮索しないし、金払いはいい……。