エピソード 17 ニュートラル
「ただいまー」
「お帰り。入っていいよー」
俺は日用品の入った籠を持ち、ホテルに戻るとジンの部屋の扉をノックをした。ジンの迎えの声に扉を開けると、ムッとくる熱気と同時に香ばしい肉の焼ける匂いと焦げたニンニクの匂いがした。
キッチンへ赴くと、案の定マスターが巨大な肉を大きなフライパンで焼いていた。ガスコンロの火炎はそのままフライパンの脇からはみ出して、鬼のような形相で作るマスターはその高熱によって、額から大汗を掻いていた。
ジンはマスターの脇に寄って、焼け焦げる肉に反応し、尻尾を大きく振ってはスンスンと鼻を鳴らしている。狐耳はその時、包み隠さず露わになってしまっていた。
「美味そうですね。さすがはマスター」
「マスターも料理上手いね」
「ああ、マスターは俺に料理屋「キアニーナ・ビステッカ」での手料理を教えてくれた一人でもあるんだ」
「ふーん。もう一人は?」
「もう一人は、前の店長さ」
「ふーん……。あ、ねえ。イルス。ナイフとフォークとお皿は買ってきたの?」
「ああ」
「できたぞー!!」
マスターが叫んだ。
数分後。ジンの豪奢な部屋の片隅に位置する小さめなテーブルには、俺がそれぞれ配ってやった皿の上に、有り余る大きさのサーロインステーキが乗っけられていた。
「え? 肉だけ?」
「ああ。そうみたいだな。マスター。他にパンやサラダとかはありますか?」
「あ! 忘れていたぞ!」
「え??」
「マスター? 何か??」
マスターが、人数分のボトルをキッチンの冷蔵庫から持ってきた。
「ブルゴーニュワインだよん!」
「あ、ありがと」
「あ、マスター。パンとかサラダは?」
「無い!! このまま腕に寄りを寄せて作った肉だけを召し上がれ」
「……え? お肉だけ?」
「はあ……この肉。俺でも食べきれるかな……」
俺は食材を市場で、買ってきてないことに気がついた。マスターはそんな俺を見越して気を利かせてくれたのだろう。
けれども、なんで肉と酒はあったのだ?




