エピソード14
「とにかく。後は夜襲を恐れた方がいい。すぐにでも出発したいが……今日はもう暗いから無理だろうな」
「ねっ、ねっ、そしたら市場で日用品とか買おう。長い間空けていたから、部屋に何もないの」
「いや、ダメだ。相手にこのことも筒抜けなんだ。今度は大勢でくる」
「廊下を壊したこと?」
「ああ」
ジンは能天気だな。白いスーツの男たちの死体は有難いことに、高熱と爆風で跡形もなく吹っ飛んだ。ジンは幸いにも、死体のことは見ずにすんだのだろう。廊下の端を見てみると、なるほど。元の判明不可能の黒焦げや灰になった塊が置いてあった。白いスーツの男たちの死骸だ。
「あ、それよりも。マスターは?」
「え? マスターなら、ベッドの下で震えているよ」
「そうか……」
「でも、日用品ないよ?」
「う……何がないんだ?」
「食器、フォーク、スプーン、ナイフ人数分。後、バスタオルに、石鹸とか。ご飯もないの」
「そうか。それなら、俺が市場で買ってきてやるよ。料理は俺が奮発してやるよ。今日は久しぶりにアレだな」
俺は今日の飯は簡単なレシピを計画した。だが、イカ墨パスタ。ピッツァペスカトーレに、ビステッカ アッラ フィオレンティーナ(フィレンツェ風Tボーンステーキと日本では言われていることもある)も捨てがたい。
そうと決まれば、ジンの部屋にあった縁狐の(ジンの母親の)レインコートを借り、外へと出ることにした。
即効で帰ればジンとマスターは、無事だろうと高を括る。
玄関で立ち止まり、ヒュドラグループにここに俺たちは今いるんだと宣伝するようなものだが、受付のスタッフに救急車を呼ぼうか呼ぶまいかと、考えていると。ジンが既に呼んでくれていたようで、救急車がホテル前に到着していた。
大雨の中。外の行き交う人々に紛れて歩いていると、ふと思った。湿っていないレインコートは初めてだな。
大雨によって、時々醸し出される陰鬱さも、市場には全く関係がなかった。元々、ここは皆疲れていて陰鬱なのだ。
すぐに日用品などを買い揃えると、俺はあることに気が付いた。そういえば、マスターのおんぼろ自動車はどうなった? 未だに駐車場に置いてあるが……。ヴァーチャルミレニアムから戻る頃には、間違いなく悪ガキどもにスクラップにされているだろうな。
「ふっ。サイバージャンクシティに戻ったら、俺たちはどうやって帰るんだ……」




