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自殺しようとしている子を救ってあげたら懐かれたんだが  作者: 遠藤俊介
第1章 自殺しようとしている子がいるんだが
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第1話 出会い

 大雨の屋上で、君は言う。

『もう、ほっといてよ』






 「お前さ、そろそろ真面目に勉強し始めないと進学できなくなるぞ」


 自分で言うのもなんだが、俺は本気を出せば進学ぐらい余裕でできると思っている男である。なぜ本気を出さないかって?それは、まあ、そうだ、そういうことだ。


 ちなみに当の本人は気づいていないが、地頭じあたまは元々良い方であったのに、高校受験が終わり燃え尽きてしまって、本気を出せば余裕などと思いながら勉強を後回しにしていた結果、補習を受けている。おそらく本気を出しても進学はギリギリであろう。


「でも確かにそろそろ勉強し始めないとまずいよなぁ」


「そうだぞ、は元々は主席でこの学校入っているんだ。ちゃんと勉強すれば進学はできると思うぞ。お前ももう高校2年生なんだからもうちょっと緊張感を持ったらどうだ」


「わかりましたよ、」

 シャーペンを持ち、問題を解き始めた。






 やっべぇ、ぜんぜんわかんねぇ、

 だってさぁおかしいじゃん、何が虚数だよ、数列上に定義されないならそれは数じゃなくね?三角関数さんかくかんすう?何それ、なんで三角比が関数になってるんだよ。軌跡きせき?点の動きとか興味ねぇよ。


「ようやく気づいたか、檜垣ひかきよ、お前は確かに入学時はトップだったが、既に簡単には埋まらない遅れをとってしまっているんだ!」


「先生、はかりましたね、」


「この遅れを埋めるには1年生から復習する必要がある、これから毎日補習な」


「マジっすか」


「大マジだ」


 俺の放課後ほうかごの青春はここで幕を閉じた。補習という名の罰によって。


「実は今日歯医者に行く予定があってぇ、そろそろおいとまさせていただいてもー?」


「お前さっきは今日はさっさと補習終わらして、家で映画見るんだーとかほざいていたよな、それはどういうことだ?」


「すみませんでした」


 どうやら先生は本気で俺を補習させる気らしい。






 「もう6時半か、あと最終下校時刻さいしゅうげこうじこくまで30分だから終わりにするかぁ」

「よーやくおわったぁ」


 先生よ、俺の貴重な映画鑑賞えいがかんしょうタイムをなくした罪は重いぞ。まあ自分が勉強してこなかったのが悪いのだが。


「明日は一応祝日だから補習はなしにしてやるよ、お前も今日は頑張ってたしな」


「先生っていい人ですよね」


「おだてても何も出ないぞ」


 忘れていたが明日は祝日だった。なんの映画を見ようか、


「勉強は継続が大事なんだ。明日補習がないからと言ってサボるなよ。ちゃんと宿題用意しているからな」


「やっぱさっきの発言なしで」


「宿題増やしてやってもいいぞ」

「先生 is 神!天才!」


 俺は自分の荷物を持って教室から逃げるように出て行った。






「こんなに雨が降っていたとは、補習中には気が付かなかったな」


 学校から出てみると横殴りの大雨が降っていた。


「折り畳み傘を持ってきといてよかった」


 俺は折り畳み傘をさし、校門へ向かう。


「よく見るとこの学校ってめっちゃいい学校だよな」


 校門を出ると俺はふと思った。芝山高校しばやまこうこう、俺の通っている学校だ。この学校を選んだのはズバリ家にめっちゃ近かったからである。家からは徒歩10分で着くという近さだ。自分の成績に比べたら少々レベルの低い学校だったが、それでも近いというのは魅力的みりょくてきすぎた。


「ほんとこの学校狭いけどマジで綺麗だよなぁ」


 芝山高校しばやまこうこうは10年前建て替えたためとても綺麗で近代的な校舎であるが、千代田区ちよだくのど真ん中という立地から学校の面積はとても狭くなっている。


「先生も普通に優しい人も多いしこの学校入ったのは正解だったなー」


 俺は校門前で振り返りながら校舎を見て、しみじみと思う。そうだ、今日は家に帰ったら学園ものの映画を見ることにしよう。補習によって奪われてしまった俺の甘酸あまずっぱい放課後青春ほうかごせいしゅんライフも映画を見ることによって補給しようという魂胆こんたんだ。そうと決まれば家に帰ろう。俺が帰ろうとした時、校舎の屋上に人が立っているように見えた。


「なんだあれ、人か?でももうすぐ最終下校時刻さいしゅうげこうじこくだし、クッソ、よく見えねぇ」


 大雨で視界が悪い中、俺は目をよく凝らして屋上を見た。


「マジかよ、やっぱ人じゃん、」


 俺の目に映ったのは屋上の柵に手をかける女の子の姿だった。芝山高校は敷地面積しきちめんせきが狭い分、上に高い構造になっている。そのため8階だてとなっておりもしも屋上から落ちたら普通に死ぬ高さである。俺には彼女は自殺しようとしているようにしか見えなかった。


「流石のこの俺も自殺しようとしている人を止めようとしない程冷たくないんでなぁ」


 俺は死にたいと思ったことが今までほとんどない。だから今から死のうとしている人の気持ちなんてわからない。もしかしたら自殺しようとしていないのかもしれない。だけど俺は命より大切なものはないと思っている。止めたところで無駄かもしれない。だけど俺には止めて欲しそうに彼女は見えた。


 俺はいつのまにか全速力で校舎の方に駆け出していた。

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