お客様名『山本 勲』その七~「ご契約」
「はい。契約します」
俺は、迷いなくそう答えた。どのみち選択肢は無い。だったら、可能性がある方に賭ける。
終末の世界でPVを稼ぎ、貯まったPVをもって別の異世界で悠々自適な暮らしをする。それが俺の生き様だ。「「「「ありがとうございますぅー」」」」と従業員一同が深々と頭をさげた。
「いえいえ、こちらこそ。こんな店があの世にあったなんて驚きだし、これから違う生き方が出来るなんて思いもしなかった。こっちの方こそ感謝です」
俺は高鳴る希望を胸に、契約書に目を通す。書いてある内容は、世望や肌島が言っていたことが箇条書きで記されていた。PVは三十日毎の自動引き落としだ。
――『最終転移・転生について』
まだ聞いていない項目があった。
「世望さん。この最終転移・転生って何ですか?」
「所持PVが1000万PV以上の場合追加される選択肢でございます。1000万PVを支払って頂くことで、気に入った世界での永住権を手に入れることができます。つまり、もう転移・転生ができない代わりにPVの支払からも解放されるのです。また、余ったPVはその時点で回収となります」
「つまり、完全にその世界の住人になるってことか」
「左様でございます」
「ちなみに、その時点で所持していたスキルってのも回収されるんですか?」
「いえ、スキルは全て山本様のモノです。死ぬまでスキルの効果は有効でございます。それとあと一つございます」
と世望が指をズバリとだす。
「同じ異世界に戻る場合も、その世界を気に入ったとみなされ最終転移・転生となります。先ほど告げた条件がそろっていればの話ですがね」
「なるほどね。まぁ、1000万PVなんて夢のまた夢だな」
「宜しければこの筆でサインを」と肌島に言われ、俺はじっと大きな胸の谷間を凝視した。
「…………」
大きい。マシュマロおっぱいだな。重さが見て取れるのに完全に重力に逆らっている。こういうのを、わっさわっさしてみたいモノだ。いや、包まれたい……。
「…………」
俺が、じっと肌島の谷間を見ていると「山本様?」と言われ視線を上げる。白いの彫が入った万年筆を肌島が手に持っていた。
「あ、お、おおおっぱいから出てこないんですね。あ、すいません、胸から……」
「山本様。私のお胸は何でもかんでも挟まっておりませんわ」
え……。結構色んなモノが挟まっていましたけど……。「四次元パイパイ‼」「四次元パイパイ‼」とチルとラリがまた、キャッキャと笑っている。
万年筆を受け取った。その途端に、親指の腹にチクッとした痛みが走ると、まるで俺の血液を吸い取るかのように筆先が赤く染まる。死んでいるのに血が出るとは……。そして俺は、世望が指さす箇所にフルネームで名前を書き込んだ。
『山本 勲』
世望がウェットティッシュを差し出す。
「血に見えますが、魂の一部です。ですので捺印も不要でございます」
「そうなんですね」
「さて」と言い、世望が手をパンパンと叩くと、チルとラリがお盆を頭上に抱えながらピョコピョコと近づいてきた。チルのお盆に乗っているのは鍵だ。「オッサン。ほれ。鍵。とれ」と言われ鍵を掴んだ。黄金色のアンティークキーだ。肌島がカギについて説明する。
「先ほど、最終転移・転生の際にご説明した鍵です。そちらの鍵はどこの鍵穴にも使えますが、一度使うと消えてしまいますわ。使うことで、当店に帰って来られますので、二回目以降の転移・転生をご希望の場合にお使いください」
ラリのお盆には、幅が広い黒の鉄製バングルが置かれている。
「オッサン。ほれ。バングル。腕に付けやがりぇ」と言われ、俺はバングルを左手首に付けた。
バチッ‼ とバングルが光る。
「外せ。オッサン。そして返せ」
バングルを外すと、手首の内側に青白いデジタル文字が浮かび上がっている。
肌島が説明を続けた。
「残りのPVと、支払日までの日数がそこで確認できますわ。こまめに確認してくださいませ」
「分かりました」
残り……14PV。霞も食えん。「それでは山本様」と世望初め、一同が改まる。
「「「「異世界生活。ご堪能あれー‼」」」」
一同がそう唱和すると、入口の自動ドアが勝手に開いた。真っ白な世界が広がっている。俺は、彼らの声援を背中に受けながら、ドアから外に踏み出した。