表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

6. とある帰還兵の回想


ああ、母さんは今出かけているんだ。悪いね。夜になったら戻って来るよ。

え? 俺に用だって……どちらさんだったかな。


……おとつい、ジョゼフの酒場で。

そういえば、そうだったかもしれない。


それで、作家さんが俺に何のご用だね。



今も飲んでるのかって? ああそうさ。

ランメル帰りは似たようなものだろ。


戦地でも、ここでも、酒で気を紛らわせなきゃやってられない。

でもあの戦場にいた子供たちは、どうしていたんだろう……。




あそこでは、15歳になるかどうかという子供たちが兵士として戦っていた。

少年兵ってやつさ。

でも俺だって20歳かそこらで、それがどういうことなのか、何も分かっちゃいなかったんだ。



俺が知っている少年兵の中で最後まで持ちこたえたのは、銀髪の坊主だった。

細身で小柄で。15歳だって聞いていたけど、実際はどうだか。

そんな奴が戦場で一年も生き延びたのは、多分あいつが魔術師だったからなんだろう。



ああ。この話をすると、みんな決まってそんな顔をするんだ。

子供の魔術師なんて、そんなはずはないって。

未成年の貴族が従軍することはないし、ましてや魔術師が、俺たちみたいな一般兵と同じ扱いを受けていたはずがないって。

記憶が混乱しているんだと言われたよ。


でも、違うんだ。


信じてくれるなら、話す。

そうでないなら、このまま帰ってくれ。






あんたも、物好きだね。


いいだろう。

否定されるのがどうしようもなく辛くて、もう話さないと決めたけど。

本当は誰かに知っておいてほしかったんだ……。





あの時、俺たちは敵の襲撃を受けていて劣勢だった。

でかい砲弾を何発も撃ち込まれていて、次に攻撃が来たら本当に終わりだと思った。


神様。どうか。


誰かがそう呟くのが聞こえて。

そいつは何もしてくれねえよって、俺が思った次の瞬間に。


敵が派手に吹っ飛んだ。



攻撃魔術による爆発だった。

それが、次から次へと敵陣に撃ち込まれていくのを、俺は馬鹿みたいにぼんやりと眺めていた。

あとで知ったけど、魔術師だって普通はあんな攻撃の仕方はしないらしい。

魔力が持たないんだとさ。




その魔術を使っていたのは、銀髪の痩せた子供だった。

そいつは相手の攻撃に怯むことなく、それからも敵に向かって真っすぐに攻撃を仕掛けていた。

俺は負傷した仲間を背負って退却したが、残った奴の話によるとその日の戦果は圧倒的だったらしい。


そんなことが次の日も、その次の日も、しばらくの間続いていた。



それまでにも、そいつが戦っているところは時々目にしていた。

銀髪は珍しいから遠目にも目立つんだ。

でも、あんな攻撃をしている姿を見たことはない。


何が、あいつを変えたんだろうな。





一度間近で、そいつの顔を見たことがある。


綺麗な顔をしていた。女の子みたいだと思った。

そして琥珀色の目は……ぞっとするほど暗かった。





そんである日、そいつは戦場からぱったりと姿を消した。





命を代償として、魔術師は限界を大幅に超えて魔術を行使できる。

それを知ったのは終戦後だったが、別に驚かなかったよ。


あいつが消費していた魔力量は、どう考えたって異常だった。

魔術に詳しいわけじゃない。でも、それだけは確かだった。



魔術の使い過ぎで死んだとか、魔術師としての極秘任務の最中に命を落としたとか。

色々噂されたが、すぐに話題は別のことへ移った。



そんなもんだろう? 人の興味って。



だから、戦争が終わって五年しか経っていないのに、世間は俺たちのことをもう忘れている……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ