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1. とある少年兵の決心

今日、マノンが死んだ。



似たような文句をどこかで聞いたことがある。

あいにくルネは読書家ではなかったので、思い出せないけど。



ルネは、フロンディアス軍所属の魔術師である。

15歳の時に少年兵の(くく)りで魔術師として入隊し、戦地に送られてからまもなく一年が経とうとしていた。


フロンディアス王国は子供に対する配慮が乏しいらしく、15歳前後の少年兵というのは珍しくない。

貴族の子弟が少年兵として従軍することは稀である一方、ルネのような孤児院出身の兵士は多い。

マノンはそうした同年代の少年兵たちの中でも、特にルネと親しくしていた友人だった。


そして、同じ年頃の戦友たちが命を散らしてゆくのを共に幾度も見送った、最後の友人だった。



マノンは、相手方のカーレトリア軍の爆撃に巻き込まれたらしい。

遺体を持ち帰る余裕はなかったから、と手渡されたのは、彼がいつも身に着けていたペンダントだった。


自分に課された一日の仕事を終え、魔力を限界まで使い果たしてへろへろになって自陣に戻ったルネに、友人の死を伝えたのは誰だったか。

マノンの訃報を聞くなり、嘔吐してぶっ倒れたルネは覚えていない。




そして今。


「嘘だろ……。」


目を覚ましたルネは頭を抱えていた。





親しい友人を失ったショックは、相当なものだったらしい。

その衝撃で、ルネはなんと、前世の記憶というものを思い出していた。


いや、前世という表現が正しいのかは分からない。

ルネの頭の中には、自分が経験したことのないはずの「未来の記憶」が、よみがえっていたのである。



――最後の友人を失って憎しみに駆られた自分が、カーレトリア軍の兵士を屠る殺戮人形と化し、その果てに、カーレトリア軍の魔術師によって殺される未来を。



一通り思い出してから、ルネは震える手で、そっと自分の胸を押さえた。

心臓の規則的な鼓動が手に伝わり、ほっと安堵の息を吐く。


相手方の魔術師の攻撃を受けて、身体が貫かれる感触が、まだ生々しく残っていた。



「死ぬのは、ごめんだ。」



そしてルネは決心した。



逃げよう、と。

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