関森家 六.
しばらくすると、西野刑事は若い刑事を伴って戻ってきた。
戻ってきて見ると、先ほどいた女性は、まるで親しい間柄のように青島孝の隣に腰掛けている。
青島孝の向かい側に西野刑事が、女性の向かい側に若い刑事が腰掛けた。
腰掛けるなり、西野刑事が切り出した。
「署に来てもらいたかったが、特別にここで尋ねることにする。早速だが、何があったか、話してもらえないだろうか」
「わかりました。私と**関森由紀**さんは、一緒に働いていて、大学の時からの知り合いです」
「倒れていた娘さんだね」
「はい。ここに来て話しているうちに、珍しいものがあるという話になり、ぜひ拝見したいとお願いし、地下室に案内してもらいました」
「花田、彼女に見とれてないで、ちゃんと記録を取れ。そのためにここに連れてきたんだからな」
西野が、若い刑事である花田をたしなめた。
「すみません、部長。あまりにも綺麗なのでつい見とれてしまいました」
花田は、目の前の女性に夢中になっている。
女は嬉しそうに笑った。
「部長さんなんだ」
「そうなんです。西野さんの実力は本庁の高級官僚クラスなんですよ。だけど、現場が好きなので、あえて今の仕事を続けられているんです」
花田は、目の前の美しい女性とわずかでも話の接点を持てたことが嬉しくて仕方ないようだ。
「そんなことをペラペラ喋るな」
西野は不機嫌な口調で、少し声高になった。
「すみません。きちんと記録作業をしていきます」
「青島君。ここには、なぜ関森由紀さんと一緒に来たのかね」
青島孝は、これはまずいと思った。先ほどはうまく「四石」の話をせずに済んだ。後で関森家の人たちに裏を取られても、彼らも「四石」の話はしないはずなので、矛盾する可能性は低いと踏んでいた。しかし、今回の質問にはどう答えるべきか。由紀だったらどう答えるだろうか。一瞬のうちに様々な可能性を考え、最良の答えを選び出した。
「ここに来ることは、関森由紀さんに誘われたからです」
「なぜ、誘ったのかね?」
「さあ?理由は尋ねませんでした。彼女のおかげで仕事ができているし、彼女が実家に帰るとなると仕事はできないし、どうせ暇でしたから」
「話を元に戻そう。地下室で何があったか教えてくれ」
「地下室で刀や陶器などを見ていると、いきなり真っ暗になり、関森家の人たちが倒れていきました」
「なぜ、君は麻酔にかからなかったのかね?」
「実は自分でも、よく分からないのです」
「なるほど、それで」
「何が起こるか様子を見てから行動しようと、迂闊に動いてはいけないと思いました。しばらくすると、人が地下室に降りてくる気配がしたので、うつぶせに倒れたふりをし、手にしていた脇差しを体で隠しました。あとは、チャンスをうかがい、彼らが揃って背中を見せた時に、攻撃しました。ところで、彼らは一体何者なのでしょうか?」
「まだ分からん。眠りから覚めたら、じっくりと探り出してやる。一筋縄ではいかない連中のようだがな。で、話の続きだが、攻撃した後はどうなった?」
「うまくいったので、すぐに彼らのマスクを取り、残留している麻酔によって、眠ってもらいました。そして、地下室を出て通報し、止血するために、もう一度地下室に降りていきました。そして、止血作業が終わった時に、皆さんが来られたのです」
「なるほど、さてと……」
そう言って西野は立ち上がった。
「奴らの所持品を見てくるとするか。後で実地検証をお願いすることになると思いますから、その時はよろしく頼む」
そう告げると、花田を連れて部屋から出ていった。