関森家 二.
回転ドアのような壁を押して中に入ると、関森義行は右側のスイッチに手を触れた。カチリと音がして電灯がつくと、左下に向かって伸びる階段が見えた。関森義行を先頭に、関森由紀、青島孝、そして関森清美が順に階段を降りていく。
階段を降りると、左手には広い部屋があった。その一番奥に低い棚があり、様々な物が載せられている。近づいて見てみると、そこには陶器やガラス細工、巻物、大小の刀、そして石が並んでいた。
「これが、**抗石**ね」
関森由紀は、その石を指差しながら関森義行に尋ねた。
義行は静かに頷き、抗石について話し始めた。
「抗石のパワーを得た者は、抵抗力が格段に向上する。病原菌に対してもそのパワーは働き、まず病気にかかることはない。毒への耐性もあるし、ちょっとした事故で怪我をすることも無くなる。もし怪我をしてもすさまじいスピードで回復する。つまり、守りの石ということだ」
義行の言葉に、由紀は真剣な眼差しで耳を傾けた。
由紀はポケットから**智石**を取り出し、抗石と並べた。
「形も大きさもほぼ同じ。よく似ているわ」
由紀がそう呟いた。
「ほんのわずかな違いがある。智石には波打つような模様があるが、抗石にはない」
義行は、二つの石の微妙な違いを教えた。
「確かに……。この、波打つようなラインね」
由紀は智石の表面を指でなぞりながら、納得した。
青島孝は、抗石の話を聞きながらも、棚に置かれた大小の刀に見とれていた。その様子に気づいた関森清美が、優しく話しかける。
「青島さんは、刀に興味があるみたいね」
「はい。なぜか小さい頃から、惹かれるものがあります」
孝は、少し照れたように答えた。
二人の会話に気づいた義行が、彼らの間に入ってきた。
「手に取って見てもいいよ」
「いいんですか?」
孝は嬉々とした表情になり、大小どちらから見ようかと迷っている。すると義行が、長い方の刀を先に手に取り、鞘から抜いてみせた。
「これは、いつの時代からかは分からないが、代々伝わっているものなんだよ」
「素晴らしい……。芸術品ですね」
孝はそう言って、手渡された刀の重みを感じながら、しげしげと眺めた。やがて鞘に納めると、今度は脇差しを手に取り、ズボンのベルトに差した。そして、刀を抜き、再びその刃に見入った。
その様子を、由紀は優しく見つめ、微笑んでいた。
と、その時だった。由紀はハッと気づき、叫んだ。
「誰か来たわ!」
叫びながら、彼女はすぐに後悔した。周囲への警戒を怠り、つい目の前の抗石に集中しすぎてしまったことを。
不意に電灯が消えて、部屋は真っ暗になった。そして、やがて微かな音を立てながら、得体のしれない気体が部屋の中に送り込まれてきた。