関森家 一.
関森由紀の実家は、ごくありふれた一戸建てだった。木造二階建ての10LDKと、なかなかに大きな家だ。以前は農家だったため、敷地も広く、今は使われていない納屋も残っている。
着いたのは日曜日の昼過ぎで、由紀の両親である**関森義行と関森清美**は、のんびりと過ごしていた。そこに、何の連絡もなく、しかも滅多に帰ってこない娘が、いきなり帰ってきた。しかも、男を連れて。
父の義行は、どうにも落ち着かない。目の前で広げている新聞はただの見せかけで、活字はまったく頭に入っていなかった。
そこへ、母の清美がやって来た。
「あなたにも、来てほしいんだって」
「ああ……」
義行は気のない返事をすると、ゆっくりと立ち上がり、応接間へと向かった。
義行は心の中で「とうとうこの日が来たか」と思った。東京の大学に入り、卒業したかと思えばそのまま東京に居つき、滅多に帰ってこない。ようやく帰ってきたと思ったら、見知らぬ男を連れている。どう応対すべきか考えながら、彼は応接間のドアを開けた。
応接間では、由紀と青島孝が並んでソファに腰掛けていた。二人の様子は、まるで仲睦まじいカップルのように見える。
「お父さん、久しぶり。こちらは、一緒に仕事をしている、**青島孝**さん」
由紀はにこやかに、二人を紹介した。 それぞれ挨拶を交わすと、義行は少しだけ硬い声で尋ねた。
「連絡もせずに、急に一体、何事かね?」
「お父さんが考えているようなことじゃないわ」
由紀の言葉に、義行は言葉を失った。娘が何を言い出すのかと、呆気に取られたのだ。
「結婚とか、そういうことじゃなくて……**四石**のことを話しに来たのよ」
義行はますます驚き、目を見開いた。
「そんなに驚かないで」
由紀は、そう言いながら微笑んだ。
青島孝は、由紀の様子に不思議なものを感じていた。さっきまで、あんなにぐったりしていた彼女が、今は急に元気になっているではないか。
「もう隠さないで。康夫伯父さんから、**智石**のことは聞いたし、智石は今、私が持っているわ」
由紀はそう言うと、塚田俊也から聞いて鍾乳洞に行ったこと、そこで関森康夫と再会したことなど、ここまでの経緯を両親に話した。
「**抗石**を見たいわ」
「お前に話すべき時がきたようだが、私が話す前に、お前はもう知ってしまった。付け加えるべきことは、ほとんどない」
義行は、娘の能力がすでに発現していることを悟った。
「私が関森家の使命を継ぐわ。だから、まず抗石がある場所に案内して」
「抗石の……?」
「そうよ。地下室にあるんでしょう?」
由紀の言葉に、義行は観念したかのように、軽く微笑んだ。
「お前は、地下室の存在を知らないはずだが……」
「お父さんが考えたのよ。それを読んだだけ」
「考えを読んだ……?」
義行は、娘の能力の驚異的な成長に再び驚いた。
「そう。人の考えを読めるようになったの」
「そうか……。康夫が智石を託したことも頷ける。四石を守るのは、大変だぞ」
義行はそう言って、チラリと青島孝に視線を向けた。
「心配しないで。青島さんは、私を助けてくれるわ」
由紀は、青島孝への信頼を、はっきりと口にした。
義行は立ち上がると、 「ついて来なさい」 と、一言だけ告げ、部屋を出た。由紀、青島孝、清美がその後を追う。
廊下を歩き、先に進むと二階へと続く階段があった。階段は右側にあり、左側の廊下は少し狭くなって、そのまま先に続いている。
義行は、階段を過ぎてすぐの場所で立ち止まった。
「ここで少し待っていなさい」
そう言うと、彼は左手にある部屋へ入っていった。
しばらくして、階段の下あたりから「カチッ」という小さな音が聞こえたかと思うと、間もなく義行が部屋から戻ってきた。
「階段の下のスペース、壁で覆われていて、物置にでもしたらどうかと思っていたのよ。このスペースを使ったのね」
由紀は、納得したように頷きながら話した。
「実はお前が生まれる前からあったんだが、この前、改装したんだ」
義行はそう言うと、まるで回転ドアのように壁を押し、その中へと入っていった。