突入
海抜500mほどの山を、21人が無言で進んでいた。もうすぐ頂上に着く。三日月が雲の隙間から顔を出し、わずかな光を投げかけるが、樹々に囲まれた足元にはほとんど届かない。
**神山明衣**は、暗視ゴーグルをつけるのを嫌がった。昼間なら、能力を使ってもエネルギーの消費は気にならないが、夜間は自重しなければならない。それでも、暗視ゴーグルなど使わなくても、特殊能力を使えば昼間と変わらないほどよく見えるのだ。
彼女の少し後方を、**松原隊長**がついていく。
(それにしても、不思議な人だ)
松原は心の中で呟いた。初めて明衣を見た時、あまりの美しさに女神が降臨したのかと目を疑った。まさか、自分の部隊が先陣に選ばれ、彼女と同行できるとは夢のようだ。華奢に見えるのに、軽やかな動きで道なき道を行く彼女に、ただただ驚いていた。
出発前、彼女は手ぶらに近い状態で出ようとし、松原が説得してようやくフルオートピストルだけは持ってもらった。暗視ゴーグルは、何も言わずに手に持っていた。
明衣は立ち止まり、振り返って、小声で松原隊長に「頂上が目の前です」と伝えた。松原は部下に止まれの合図を出し、全員で身を低くした。頂上を越えれば、その先に林道があり、アークの基地が見えるはずだ。
明衣は低い姿勢で少しずつ前進し、徐々に基地に近づいていく。もちろん、松原隊長以下全員が彼女に続いた。
その時、突然、明衣が立ち上がり、叫んだ。
「いない! 誰一人いない!」
松原隊長は慌てて彼女の手を引っ張り、身を屈めさせようとしたが、彼女はびくともしなかった。
「姿勢を低くしなくても大丈夫よ。基地には誰もいないから」
明衣はそう言って、松原隊長の方を振り返った。
「昨夜はたくさんの人がいたはず。たった一日でいなくなるなんて……。基地は、ずっと監視していたのでしょう?」
「はい。出入りの報告はありません。しかし、どういうことですか? 基地に誰もいないなど、理解できません。とにかく絶好の標的になるので、屈んでください!」
松原隊長は、部下にアサルトライフルを構えさせ、自らも構えて周囲を警戒した。
「私には透視能力があります。基地内はおろか、周囲にも敵はいません」
松原隊長は言葉を失った。気でも狂ったのではないかと疑う。
「私は特殊捜査室の副室長。特殊捜査室は、特殊な能力を持った者たちがいるから、そう呼ばれているんです。さあ、行きましょう」
そう言うと、明衣はさっさと歩き出した。
「ちょっと待ってください!」
「来なくてもいいわよ。私一人で行くから」
明衣はそう言い放つ。松原隊長は意を決し、部下を引き連れて彼女の後に続いた。
明衣の歩く速度は速く、松原隊長たちはアサルトライフルを構えることすらできず、ついていくのがやっとだった。
基地に着くと、出入り口は無防備に開かれていた。中は真っ暗で、罠ではないかと松原は疑った。しかし、明衣は構わず、どんどん中に入っていく。松原は、後ろにいる別部隊と無線で連絡を取りながら、明衣を追った。
アークの基地内は、隅々まで調べられた。一部は爆破され、原形をとどめていない装置もあった。警備室と思われる部屋には、モニター装置がずらりと並び、電気は自家発電で賄われていたようだ。通路は網の目のように張り巡らされ、迷路のようだった。基地は地下3階まであり、監禁室まであった。
調査の結果、確かに多くの人々がいた痕跡はあったが、彼らが忽然と消えた謎は解明できなかった。
第三部に続きます。