尾行 二.
電車に乗り込んだ**関森由紀は、一生懸命走ったため、肩で息をしていた。普段からスポーツをしている青島孝**が、ほとんど息を弾ませていないのとは対照的だ。
呼吸が楽になってくると、由紀の超感覚が蘇ってきた。
ラッシュアワーはとっくに過ぎていたため、車内は比較的空いている。由紀は、隣に座る青島孝の耳にできるだけ口を近づけ、小声で囁いた。
「まだ、一人から尾行されているわ。同じ車両にいる」
孝は、自分の頭を指差した。思考を読め、という合図らしい。彼らの会話が不審に思われるのを避けるためだ。
しかし、由紀はためらった。初めて青島孝の思考を読むのだ。その中には、知りたくないことまであるかもしれない。
「早くしろ」
孝が指で左脇腹をつついてきた。
由紀は意を決して、彼の思考を読み取り始める。
(どこにいるか分かるか?)
(左の一つ向こうのドアの手前にいるわ。ショートカットでジーンズを履いて、黒のTシャツを着ている)
(分かった。次はもうついてこられなくなるさ)
孝の思考が、途端に読めなくなった。一度に数十通りの思考がなされており、何を考えているのか、さっぱり分からない。
電車は急行で、いくつかの駅に停車した。何度目の停車駅だろうか。青島孝と由紀は、すっと立ち上がり、下車した。もちろん、**林田未結**も、別のドアから続いて下車する。
(乗り換えるのか……まずいことになったみたいだ。空港行きだ)
林田は、そう考えて舌打ちした。
彼らが乗り換えた電車は、やがて空港駅に滑り込んだ。
空港に着くと鹿児島行きの搭乗手続きが、間もなく終了する旨のアナウンスが繰り返し流れていた。
青島孝と由紀は、その搭乗手続きにぎりぎりで間に合った。二人は手続きを済ませると、搭乗口へ急いだ。
林田未結は、その姿を見送りながら、地団駄を踏んで悔しがった。
(搭乗手続きギリギリを狙うとは……。チケットも手に入れることも無理だし、やられたな。鹿児島か!)