出発 二.
関森由紀は疲弊しきっていた。体がだるく、頭がぼーっとして、集中力がまるで続かない。ホテルでゆっくり眠ったはずなのに、一向に疲れが取れないのだ。精神的に参っているのは明らかだった。
他人の考えが分かってしまうという特殊な能力を持って以来、彼女の疲れは溜まる一方だ。常に気が張り詰めていて、心休まる時がない。特に青島孝の近くにいる時は、一番苦しい。
青島孝と初めて出会ったのは、大学に入学して間もない頃だった。部活動やサークルなどの勧誘が活発に行われている時期に、彼から不意に声をかけられた。
彼はボランティア活動をしているサークルに所属していて、「一緒にやりませんか」と誘ってきたのだ。出会った瞬間、由紀の心臓は高鳴り、しどろもどろになりながらも「はい」と答えていた。
大学時代は、彼をただ憧れの先輩として過ごした。まさか卒業して、一緒に仕事をするとは思ってもみなかった。しかも、共に働くことを誘ってきたのは、他でもない青島孝自身だったのだ。
卒業後、これまで彼と一緒に仕事をしてきた時間は、由紀にとってまるで夢のようだった。
人の考えが分かる能力を身につけて以来、由紀は青島孝の考えだけは読んだことがない。非常に気にはなるが、読むのが怖いのだ。もし、彼の心が他の女性のことを考えていたら……。そう思うと、嫉妬でどうしたら良いか分からなくなってしまうだろうと、由紀は考えていた。
車は高速道路を順調に走っていた。窓の外には、徐々にその雄大な姿を現す富士山が近づいてきている。
青島孝は、助手席でぐったりしている関森由紀を心配そうに見た。
「疲れが溜まっているみたいだな」
孝が優しく声をかけた。
「ええ、どうしても疲れが取れないの……」
由紀は力なく答えた。
「そんな姿をご両親が見たら、心配して四石の話どころじゃないだろうな」
孝の言葉に、由紀はふと我に返る。
「せっかく来たんだから……空元気でも出して、なんとかするわ」
由紀は、かろうじて笑顔を作ろうとした。
車は間もなく高速道路を降り、一般道路を走り始めた。