集中力
**関森義行と関森清美**が退院し、自宅に帰ってきた。
応接間には、義行、清美、そして**青島孝と関森由紀**の四人が正座で向かい合っていた。青島孝は、勝手に四石の能力を得てしまったことをひたすら謝り、頭を下げ続けた。義行は黙ったままで、その横で清美が二人を交互に見つめている。重い沈黙の中、すでに一時間が経とうとしていた。
耐えきれなくなった由紀が、ついに沈黙を破った。
「もしあの時、孝さんが四石の能力を得ていなければ、私たちはどうなっていたか分からないのよ!」
「それは分かっているんだが……」
義行は静かに答える。
「じゃあ、許してあげて。どうせ元に戻すことはできないんでしょう?」
由紀はそう訴えた。以前、塚田俊也の能力を戻したことがあったが、それは治療の副産物であり、今回も必ず成功するとは限らない。由紀は、そのことについては話さなかった。
義行は深く息をつき、観念したように言った。
「分かった。許すことにする。だが、頼みたいことがある」
「なんでしょうか?」
孝は真剣な表情で顔を上げた。
「不穏な動きがある。四石すべての能力を身につけて、由紀と共に守ってくれないか。四石は能力を得られると、中は空になるが、いずれは再び、そのパワーの源が石に戻ってくる。その帰るべき石を守ってほしい。それと、四石全ての能力を身につけると、さらに新たな能力も授かるという。四石と、由紀のことを……頼む」
「全力を尽くします」
孝は、迷うことなく力強く答えた。
わだかまりが解け、四人の間に安堵の空気が流れる。誰からともなく「快気祝いに」と寿司を頼み、ささやかな宴を行った。
色々な世間話で和んだ後、青島孝はそれまでの和やかな表情を改め、真剣な顔つきで尋ねた。
「ところで、残りの二つの石を持っているご兄弟は、どちらにお住まいですか?」
「実は……私には分からないんだよ」
義行は、申し訳なさそうに答えた。
「分からないのですか?」
孝は不満げな口調で問い返した。
「万が一、私が四石を狙う悪者に捕まって拷問されたとしても、私自身が知らなければ、居場所を教えようがないだろう。そうしているのだよ」
義行の言葉に、孝は無言で頷いた。
しかし、彼の精神はすでに集中を始めていた。智石のパワーで一度に多くの思考ができるが、その分散した思考をあえて一つに集中させることで、精神力は極限まで高まる。それを放出すると、相手に目に見えない圧力を与えることになる。孝は、無意識のうちにそれを始めてしまっていた。
「それはおかしい。冠婚葬祭の時はどうやって連絡を取るのですか? 緊急事態の時は?」
孝は、静かにそう言いながら、義行をまっすぐ見据えた。その瞳からは、高圧な精神力が放射され、義行はたじろぎ、冷や汗を流す。
義行は金縛りにあったように動けず、声を出そうと口を開くが、肝心な言葉が出てこない。孝は、放射する精神力をわずかに緩めた。すると、義行はかろうじて声を絞り出した。
「私の負けだ……。住んでいるところは分かっている。メモしたものを持ってくる」
「分かりました」
孝がそう言うと、精神集中を止めた。義行は、先ほどまでの息苦しさが急激に消え、大きく息を吸い込んだ。
「すみませんでした。こんな力があるとは、思いませんでした。ただ、いろいろ考えるのをやめて、精神を集中させただけなのですが……」
「まあいい。とにかくメモを取ってくる」
義行はそう言い残し、立ち上がって部屋を出ていった。