約束
稲原リーダーたちが取り調べを受け始めた頃、**関森義行と関森清美**が退院した。
一足先に退院していた**関森由紀**は、**青島孝**と共に、新たな問題に遭遇していた。
由紀が退院し、自宅に戻ると、すぐに**神山明衣**が一人の男を連れて現れた。明衣は、青島孝に約束通り情報を提供するように迫った。
青島孝は、明衣が由紀に伝言を伝えてくれたおかげで、警察の事情聴取でちぐはぐなことを言わずに済んだ。彼は、由紀への伝言の内容を、関森家に来た理由を「由紀に誘われた」ことだけにし、矛盾が生じないようにしておいた。
四人は応接室で対面した。青島孝と由紀が並んでソファに腰掛け、青島孝の向かいに明衣に同行してきた**中原諒二**が、由紀の向かいに明衣が座った。
まず、明衣が切り出した。
「約束を果たしたから、情報の提供をしてもらいましょうか」
青島孝はうなずくと、ゆっくりと話し始めた。
「実は東京にいた時から、不審者にしょっちゅう遭遇していて、それが今回の事件に関わっているのではないかと思うんです」
「今回の犯人は捕まったし、その背後にある組織も分かりかけている。だから、なぜ君たちが狙われているのかを知りたい。そのことを教えて欲しいんだけど」
「それが、分からないんです」
「関森さん、あなたは?」
「私も分かりません」
由紀も、青島孝に同調した。
二人は「四石」を守ることを第一に考え、「分からない」と答えた。まだ、誰にも教えるわけにはいかない。それは、義行と清美も同じはずなので、決して喋ることはないだろうと踏んでいた。
「ところで、二人はこれからどうするの?」
明衣が尋ねた。
「関森由紀さんのお父さんとお母さんが退院して、家に帰るまではここにいます」
青島孝が答える。
「その後は?」
「もちろん、東京に帰って仕事を再開しますよ」
そう言いながら、彼は由紀の方を向いた。
しかし、由紀はどこか上の空だった。ハッと気づいて相槌を打つが、再び考え込むような様子になる。
「どうしたんだ?」
「何でもないわ」
由紀はそう答えたが、再び黙り込んでしまった。
神山明衣は、すっと立ち上がり、中原に声をかけた。
「行きましょう。期待外れだったわ」
中原諒二は無言で立ち上がり、明衣の後に続いて部屋を出ていった。青島孝と由紀もその後を追い、玄関まで見送った。