関森家 七.
西野と花田が出ていくと、女は青島孝の向かい側に座り直した。
「あの」
青島孝が、恐る恐る口を開いた。
「なに?」
女は、彼の視線から逃れることなく、真っ直ぐ見つめ返した。
「関森家の人たちは、どこの病院に運ばれたのでしょうか?」
「ここから五キロほど離れた、総合病院に搬送されたそうよ」
「そうですか……」
「気になる?」
「もちろんです。できれば行きたい」
「残念ながら、それは無理ね。目覚めたら、最初に青島君の話の裏を取ることになっているから」
女は冷ややかにそう告げた。
「お願いしたいことがあります」
青島孝は、真剣な顔つきで言った。
「どんなこと?」
「関森家の人たちがいる病院に行って、関森由紀さんが目覚めたら、すぐに伝えてもらいたいことがあるんです」
「すぐには無理よ。警察の事情聴取が先だから」
「そこをなんとかできませんか。あなたはそれなりの地位にあって、権限も持っていると思いますが」
青島孝は、彼女の正体を見抜こうとしていた。
「なんでそう思うの?」
「先ほどまでいた、西野さんは、警察の中でも結構上の位でしょう?」
「そうね」
「その西野さんは、あなたが同席することを拒否しなかった。しかし、渋々承諾したのを見ると、あなたが、ある程度の地位にあり、西野さんたちと違う部署に所属しているため、あまり好意は持たれていないと推測しました」
「当たり」
女はそう言って、満足そうに微笑んだ。
「もし、やってもらえたら、あなたにだけ、先ほど話さなかったことを教えます」
青島孝は、勝負に出た。
「取引かぁ。うーん。どうしようかな。私にとって、それは必要なものかしら」
「さあ?それは、聞いてからのお楽しみということで」
青島孝は、彼女の好奇心を煽るように言った。
「わかったわ。やってみる。何を伝えたらいい?」
女は、ついにその取引に乗ることを決めた。
「こう伝えてほしいんです。『誘われて来て、嫌な目にあったけど、決して後悔はしていない。むしろナイトの役割を全うして嬉しい』と」
「わかった」
「一言一句間違わずに伝えてほしい」
青島孝は、念を押すように言った。
女は、彼の言葉を何度か復唱し、立ち上がって部屋から出ていこうとした。その背中に、青島孝の声がかけられた。
「あなたの名前を聞いてなかった」
「明衣。**神山明衣**よ」
彼女はそう言い残すと、ドアを開けて出ていった。