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8. なにやら咎められる

 停止したときには、あたりはすっかり暗くなっていた。


 乗用車だと思って油断していたら、乗っていたのはとんでもない絶叫マシンだった。

 右に行ったり左に行ったり高く跳んだり下へ落ちたりと、まるで予想のつかない動きをものすごい速さで繰り返され、(ごう)の首から上は彼のたてがみがなびくのと同じ方向へぶんぶんと振り回されつづけた。


 ようやく地面のしっかりした感触を踏みしめても、ごろりと横になって、おえぇ、とうめくことしかできない。


 セキズネシーのふかふかした膝が傍らに降りてきたと思うと、大きな掌が背中をさすってくれる。


「速すぎたか」

「……ってか、ただまっすぐ走れないのかよ」

「ただまっすぐ走ると木にぶつかる」


 そうだろうけど、とうめきながら剛は起き上がる。

 こんなにもGに負ける体質だとは情けない。やはり“剛”なんて名前は即刻捨て去るべきなのかもしれない。


 ずいぶん長いこと走ったような気がして、目的地を追い越してしまっていないか心配しながら胸ポケットからスマホを取り出す。

 確認すると、さっきよりもかなり距離は縮まっているように思えた。さっきの位置が分からない以上、残った道程がどれくらいかの予測はできないものの、進歩はあったはずだ。


 太陽はとっぷりと沈んでいたものの、月が明るいために周りの様子は見て取れる。

 見回すと、ちょっとした登山道に出てきたようだった。剛は黄色っぽい石敷きの細い道の上に腰を下ろしていて、道の両脇に今まで通り過ぎてきたような木立が続いている。


 道には勾配があるようで、左を向くと道の先は木立の中を曲がって消え、右を向くと地面の稜線につながっているのが見える。

 月光が差し込む他にほとんど光源はないが、剛の近くには金属製の背の低い灯篭があり、中で炎がちょろちょろと燃えている。

 こんなふうに整えられた道があるということは、たどっていけば人里に着くのだろうか。


 ともあれ、次はもうちょっとゆっくり走ってほしい。そう頼もうと剛が口を開いたときのこと。


 セキズネシーが何かに気づいたように首を伸ばし、坂道の上側を仰ぎ見た。彼の顔の側面にはふさふさしたたてがみに埋もれながらもちゃんと耳がついている。


 彼の目線の先を追うと、坂の地平線から誰かが向かってくることが分かった。


 顔が見えるなり、その人物が立ち止まる。向こうもこっちの存在に気づいたのだ。

 また妙な格好の生き物ではないかと身構えていたが、それは普通の人間に見えた。ただ、夜目でもシルエットで分かるくらいに服装は変わっている。


 人影は二人三人と続けて現れる。全部で五人だろうか。

 体が妙に四角い輪郭なのは、二つ折りの布を頭から被ったような妙な上着を着ているせいらしい。貫頭衣、というのだろうか。月明かりの下なので色はよくわからないが、きらきら光っているところを見るとセキズネシーがまとった布のように装飾がされているのだろう。


 一団はこちらへ下ってくる途中で足を止め、そのうちの一人が大声で呼びかけてきた。


「セキズネシー、見つけたぞ」


 確かに、唯一無二の名前というのは、自分が呼ばれたとハッキリ分かるのが良いかもしれない。


「大人しくいかずちを返せ」


 凛とした女性の声がそう言うや、人影の構えた大きなもの何かが空を切って飛んでくると、剛のつま先の三歩ほど前の地面に突き刺さった。

 剛がぎょっとして後ずさる。ボウガンというか(いしゆみ)というか、とにかくそれは太い矢だった。舗装された道に刺さるということはよほどの攻撃力だ。


 穏やかじゃない。


 剛がセキズネシーの様子をうかがうと、獣人はけげんそうな表情を浮かべている。少なくともムカデと戦っていたときの張り詰めた表情ではなかった。


「いかずちとは何のことだ?」


 セキズネシーは堂々と聞き返したが、相手は聞く耳を持たないらしい。

 次に飛んできた矢はセキズネシーの体をめがけていた。すばやいライオン男はそれを横にかわすと、剛をかばうようにして灯篭の陰にしゃがみこみ隠れる。――といっても大きな毛むくじゃらの体の大半は隠れられていなかったが。


「時間をやる。我々がそちらに着くまでに態度を決めよ」


 矢の代わりにそんな言葉が飛んできたのはせめてもの救いだった。

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