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4. 持ち物を見せ合う

 ふさぁ、と柔らかい感触を覚える。柔らかいだけじゃなく、一部はべちゃりと濡れている。

 視線を横に流した(ごう)は、隣のライオン男が身を乗り出してきて手元に髪の毛をかぶせていることを確認した。


「変わったものを持っているな」


 スマホのことを言っているらしい。

 剛は濡れたたてがみを振り払って「まあね」と受け流すが、相手は興味を失わずますます手元をのぞきこんでくる。


「それは地図か?」

「そう」

「どこへ向かっている?」

「この赤いとこ」

「この線は?」

「これは今いるとこから目的地までの経路」

「では向かうべき方向は分かっているのだな」

「まあね。雨止んだら向かうよ」


 剛はいまだ降りしきっている雨空を見やる。一気に降り出したことだし、ただの夕立だろう。


 外を見ていると、まだそこに横たわっている大きなムカデの死骸の存在をいやおうなく思い出す。


「ああいうのって、他にもいるの?」


 剛がムカデを指さして尋ねると、彼は素直に返事をしてくれた。


「ああ。あれは雨が降ると沸いて出る。我々程度の大きさの生き物を見ると食らおうとするゆえ、出くわしたら身を守る必要がある」

「雨止んだら出ない?」

「あれは出ない」

「……他のは出るってことか」

「ああ、同様のシュガキは出る」

「シュガキ?」

「さよう」


 巨大生物のことをそう呼ぶらしい。

 雨が止んだとして、この山をうろうろしていたら他にもこんな怪物にでくわすことになってしまうのだろうか。悪寒を覚えると同時に、このムカデを退治したライオン男に対しても恐怖感が募ってくる。

 まだスマホを眺めている獣じみた顔面はきわめて無邪気に見えるが、その気になればあの大きな爪で剛のことなど簡単に引き裂けるに違いない。


「そっちのそれも変わってるよな」


 話を変えようと剛がテーブルに置かれている杖を指さすと、彼は誇らしげに手に取って地面に立てて見せる。


「ああ、確かにロルは二つとない逸物だ」


 彼の背とほとんど同じ長さの杖は、座った状態だといっそう長く見える。

 金色に見えるそれが本当に(きん)でできているのかは分からない。彼が持つと細く見えるものの、実際には剛の手首に近い太さがあった。

 表面には細かい模様が刻まれていて、上部の先端は鋭く尖り、周りには枝分かれした角が先端に向かってねじれながら巻き付いた複雑な形をしている。彼の服と同じように相当精巧な造りに思えた。つまり、これをコスプレで作ったんだとしたらかなり手が込んでいる。


 剛がいろんな角度から杖をしげしげと見つめていると、「持ってみるか?」と気軽な声がかけられる。


「え、いいの?」

「いいと言っている」


 口調は誇り高そうなライオン男だが、意外と気さくらしい。

 剛はスマホをテーブルに置き、杖を直立に支えた彼の手の上下にそれぞれ両手を伸ばして握る。彼が手を離すと予想以上の重みがかかり、慌てて両手に力を込めなおす。


 杖を支えるのに必死になっている剛を見て、彼がからからと笑った。


「やはり、そなたの相棒にはその小さなものがよさそうだな」


 スマホのことを言っているらしい。

 だよな、と剛が肩をすくめると、彼が毛の生えた大きな手で杖を引き取った。片手で易々持てるということは、やはり見た目通りの筋力があるということだ。

 そして大事なものらしい杖を持たせてくれたということは、剛に敵意がないということか。


「おや――雨が上がったようだ」


 彼の視線を追って外を見ると、明るい日差しが差し込んで来ていた。

 たった今までバケツをひっくりかえしたようだったのが嘘みたいに、白い光が穏やかに森を照らしている。

 幻想的で美しい景観だと言いたいところだが、気持ち悪い巨大ムカデの死体が転がっているせいで台無しだ。


「目的地に向かうか?」

「そうだな。えっと……話せて楽しかったよ」

「ああ、私もだ」


 にこやかに目を細めた彼は剛に向かって軽く手を振ると、屋根を出て大股に歩いて行った。


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