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15. 高台から見渡す

 差別されたと思わせてしまったかも、という(ごう)の心配をよそに、セキズネシーは屈託ない調子で手を振る。


「よいのだ。そなたは道理に従っておる。私はその道理に含まれぬ存在なのだからな」

「俺って道理に従ってる?」

「明らかに」


 セキズネシーは深々とうなずいた。

 剛にはさっぱり分からない。絶対的な道理に従っているのは、むしろセキズネシーの方ではないかと思えた。その場しのぎでさまよってきただけの剛と違って、セキズネシーの行動の方がよほど一本通った芯を感じられる。


「経路案内に従ってるだけだけど」

「さよう。それがそなたの道理だ」

「いや、ただのアプリだよ」

「ただのアプリ、か?」

「なんでもない」


 言葉をおうむ返しにされたときは意思の疎通ができていない、ということは学習済みである。


 そもそもアプリとは何ぞやと質問されたところで、正しく答えられやしない。剛が従っているものなどその程度だ。どこかに存在し便利に使えることは分かっていても、仕組みも理由も知ったことではない。

 ただ見えるから付いてきただけ。それで事が済むのだから、追及したってしかたがない。


「そっちの方が道理に従ってそうだけど」

「私は道理を持たぬ。ただ私であるだけだ」


 ごく自然にそう言ったセキズネシーが正面を見渡すような動きをしたので、剛も前方に目を向けた。まばらになりはじめた木立の隙間からひときわ鋭い光が差し込んでくる。


 森を抜け、視界が開けたところで二人は足を止めた。

 丘に立つ剛の眼前には海が広がって見えた。太陽は真正面に眩く輝き、水平線に区切られた水面に白い光を染みわたらせている。


「海?」


 剛はぽつりとつぶやいて、スマホを取り出す。マップを見てみると、確かに画面の上の方には青く着色された空間がのぞいている。


 ポリポリと指先であごを掻いた。スマホ探しを始めたあたりの地理は知っている。あそこから海へ歩いてこられるような経路などないはず。

 とは言っても、途中から獣人の猛スピードに連れられてどこへも知れない方向へ飛んできたわけだから、方向感覚など今更あってないようなものだろうが。


「地図はどうだ?」


 セキズネシーが剛の手元をのぞき込んでくる。

 促されてようやく目的地のことを思い出した剛は、スマホの画面から赤いマークを探す。それが青く着色された空間の内側であることを悟ると、さすがに眉をひそめた。


「まいったな」

「どうした?」

「海の中っぽい。そんなことあるかぁ?」

「海中に沈んでいるということか?」


 姉のスマートフォンに防水機能が付いているのかどうかは定かではない。少なうくともこうして位置情報が分かるということは、電源は落ちていないということだが。


「船の上とかかも。船はあるって言ってたよな?」

「ああ。――では船を借りて海に出るとしよう」


 こともなげにそう言ったセキズネシーは、ふわりと跳び上がったかと思うと沈むように姿を消した――ように剛には見えた。

 実際は目の前の急斜面を飛び降りて行っただけだ。剛が身を乗り出すようにして下方をのぞき込むと、ライオン男のキャラメル色のたてがみが遠ざかっていくのが見える。


 同時に、ここから海岸線までの間に町らしき建物群があることに気付いた。背の高いビルなどは見当たらない。茶色や白の目立つ屋根がひしめく中に緑がのぞき、住宅街だろうかと思わせる。


 ――あんな猛獣みたいな見た目の生き物が人里に下りて大丈夫なんだろうか。

 剛が小さくなっていくセキズネシーのたてがみを見守っていると、不意にライオン男は動きを止めて剛を見上げてきた。しばらく考え込むようにじっとしていたかと思うと、跳び上がって戻ってくる。


「すまなかった、そなたは歩行の他は不得手であったな」

「はい、その通りです」


 セキズネシーは毛の生えた腕を伸ばすと剛を抱き上げ、ぴょんぴょんと崖を跳び下りて行く。

 剛は襲いくる浮遊感をアトラクションとして楽しもうと努めていた。


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