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死淵の箱庭  作者: 楓 海
1/11

観賞用の人間

 お友達のtaka様の「heavens worker」と言う作品からインスパイアされて、書き始めた作品です。


 全11話、12000文字の作品です。

 お付き合い戴ければ嬉しいです。

 彼女は(いびつ)な感じがした。


 葡萄(ぶどう)が垂れ下がる、硝子に囲まれたその部屋に彼女は.....。


 囚われているのか?


 大きな硝子の室内には、芝桜が植えられ、花を咲かせていた。


 多分、こんな事は有り得ない。


 葡萄は秋に実り、芝桜は春に花を咲かせる。


 作り物だろうか?


 芝桜の上に洒落(しゃれ)た白いテーブルと椅子が置かれている。


 彼女はその椅子に座り、まるでポーズをとるように、テーブルに頬杖をついてこちらを見ていた。


 硝子張りの部屋の周りは乳白色にぼやけていて、室内なのか屋外なのか、どう云う場所なのかまるで解らない。


 

 オレは硝子に近付いてみた。


 そして、声を掛けた。


「キミは誰? 」


 彼女は微笑した。


 絵画のようなアルカイックスマイル。


 彼女は立ち上がる。


 細くしなやかな肢体に、成長期の少女のそれのように小さな乳房が形よく胸に貼りついている。


 全裸のようだけど彼女には性器は無いようだった。


 へそも無く、乳房も膨らんでいると言うだけだ。


 銀色の長い髪が胸の下まで伸びていて、背中には透明な七色に光るトンボのような長い羽根を下げている。


 人間では無いのだろうか。


 白い肌と透明な羽根のせいで、何処か不安定で儚い感じがした。


 綺麗だ........。


 脚が震えるほど彼女は美しく、近寄り難い雰囲気さえあった。


 オレは彼女の美しさに気付くと釘付けになっていた。


 彼女は表情を変えずアルカイックスマイルのまま、キレイな薄いピンク色の口唇を開いた。


「君は淋しいの? 」


 少女と言うより少年のような声で、なんだかアンバランスな感じがして、オレは我に返った。


「どうして? 」


 オレは訊いた。

 

 彼女は頬にかかった髪を掻き上げ、目を細めながら言った。


「時々、此処へ迷い込んで人が来るけどその人たちは皆、淋しいって言うから」


 オレは淋しいのだろうか........。


「その淋しい人たちは何処へ行ったの? 」


 彼女は言った。


「消えた」


 消えたって、とう云うことだろう?


 そのままの意味で受け取ればいいのか、単に去って行ったと云うことなのだろうか。


 そう言えばオレはどうしてこんな処に居るのだろう.......?






 頭がはっきりしない........。






 気付くと彼女は小首を傾げ、色素の薄い灰色の大きな瞳でオレを見詰めていた。


 オレは言った。


「キミはどうしてここに居るの? 

 この硝子のケースに閉じ込められているの? 」


「閉じ込める........」


 彼女は少し驚いたような顔をしてから言った。


「ボクは観賞用の人間だから........」


 オレは驚きに目を見開いた。


「観賞用って.........!? 」


「此処は思念の世界

 ボクは一人の芸術家の思念で創られた観賞される為の人間なんだ

 閉じ込められていると言えば閉じ込められているのかな」


 彼女は微笑した。


 思念の世界?


 人間が観賞用って.......。


「彼が与えたボクの役目はね

 此処に迷い込んだ人たちにボクと云う芸術作品を鑑賞して貰うこと

 

 ボクは、ただそれだけの存在」




「此処って何処なの? 」


「死後の世界」


 オレは胸を射抜かれた気がした。


「じゃあ、オレは死んでいるの!? 」


 彼女は平然と答えた。


「そういう事になるね」


 オレは頭がふらついてその場に座り込んだ。


「どうして、そんなに落胆するの?

 君が選んだ事なのに」


 オレが選んだ?


 つまりオレは自殺したのか?




「此処は自殺した人が来る思念の世界

 君が望むなら何でも具現化できる」




 オレは彼女を見詰めた。


 そして、言った。


「いかれてる...........」


 彼女は問うようにオレを見た。


「いかれてると思わない?

 人間を観賞用に創るなんて」


 彼女は声を上げで笑った。


「何がおかしいんだよ! 」


「そんな事を怒るなんておかしい

 君には関係ない事じゃないか」


「でも、硝子ケースに閉じ込めるなんて.......」


 彼女は細くて長い手を踊らせた。


「それはボクが決める事であって、君が心配する事じゃないよ」


「でも...........」


「解らない?

 余計なお世話だと言ってる」


 彼女は鋭さを帯びた目でオレを見据えた。


 葡萄の葉が風にざわめいた。


 どうやらこの硝子張りの部屋には風も吹くらしかった。








 読んで戴いて有り難うございます。

 とにかく苦労した作品です。

 書いては消して、また書いてまた消してと飽くことなく繰り返した作品で、小説書くってこんなに辛い作業だったの!? と改めて思いました。笑

 産みの苦しみを存分に味わいました。笑

 

 この作品を書く前に書いてた作品が「月の恋人 ―狼―」。

 全体的にコメディタッチの作品だったので、その雰囲気がなかなか抜けてくれなくて、雰囲気作りに死ぬほど苦労しました。


 全体的に暗い重苦しい作品なので、とつきずらく感じるかもしれません。

 何せ舞台は死後の世界なので。

 ただ、終わりかたは爽やかにしたつもりです。

 よろしければ、お付き合い戴ければ嬉しいです。


 今日から11話、宜しくお願い致します。m(_ _)m



 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぼくっ子、いいですねぇ…! [一言] なんだか雰囲気が独特でいい感じですね!美術館独特の乾いた感じがします。そして、彼女の正体はいったいなんなのか…とても気になります。
2024/01/01 23:53 退会済み
管理
[一言] 面白い! 一話読みました! 続けて拝読しまーす、
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