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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

輝夜王子

作者: 伊藤@

 

 突然だが、価値観が違う世界に生まれたらどうする?


 俺は感情というのがわからない、どうやら違う世界から転生したようだ、前世の記憶では、みな感情は無く使命を果たす事がなによりも尊い世界だった。


 生まれた時から膨大な魔力を持っていたにも関わらず、俺は力を解放できずにいた。

 いつまでたっても力が使えなくて、まわりからは見下されていたが特に気にもしていなかった。


 この世界と俺は何か違う。


「母上優しさとはどんなものでしょうか?」


 優しさとは何かを質問した日から、母は表情と動作を教えてくれた、城の中を母と見て回り、嬉しい顔、悲しい顔、怒った顔、そんな時はなんと言えばいいのか、どう行動するとよいのか。


 頭を撫で抱き締めて俺の事を大好きだと言う母。

 膝にのせられ絵本を読む母。

 仔犬を連れてきて、今日からあなたがお世話してあげてと言う母。

 母から根気よく訓練されたので、人に優しくするという行為は出来るようになった、心では全く理解していなくても。


 ある日、突然母が亡くなりぼっかりと胸に穴があいた、これが悲しみ、とても深い悲しみ、辛い、辛い、とても辛い。


 母が連れてきた仔犬は、あっという間に成犬となり、呼んでもこないので探すと城の裏庭で口から泡を吹いて冷たくなっていた。


 冷たい骸になった犬の頭に手を置いて撫でてみる。

 悲しみを感じた、そして怒り、これが怒り!

 

 悲しみと怒りで俺に心が生まれた。

 心が生まれた俺は力の使い方を理解する。


『起きろ、お前を殺した奴まで案内しろ』


 禍々しい気が集まると犬の中に吸い込まれていく、おもむろに犬が起き上がり壊れた人形のような動きで異母弟の部屋に俺を案内した。

 突然部屋を開けると異母弟は仰天している。

 人形王子なんて言われていた俺が怒り狂って部屋に乱入してくるなんて夢にも思わなかっただろう。

 

「アンガスお前こいつを殺したな?」

「うわっ!ば、化け物」


 俺の犬を見て恐怖で震えている。


「毒はどこだ?言わないなら…」


 犬が唸り声をあげる。


「やめて!言うよ!言うから、ほらこれだよ!」


 異母弟から小瓶に入った毒をむしりとり、2歳下の異母弟の首をつかんで広間に引き摺ってゆく。

 広間には父と側妃と大臣や家臣がいた。


「ルシアにアンガスどうしたのだ、それとなんだその犬は死んでいるのか?」

「きゃああ!アンガスちゃん大丈夫!?何してるのよ、放しなさい!」


 大人達が騒ぎ始めたので、アンガスを突き飛ばして転がした。


『やれ』


 転がってるアンガスの右足に死んだ犬が噛みついた。


「ギァアアアアアア!痛い痛い痛いっやめて助けて!」

「止めないか!ルシアやめろ!」


 俺が鼻で嗤うと父は仰天している。


「何故?こいつに殺された犬の怨みを本人に返してるだけだけど?」


 控えていた護衛騎士が死んだ犬を剣で突き刺しても、犬はアンガスの右足を何度も何度も噛む。

 首を切り離されても噛み続けとうとう右足が噛みきられる。


「ギァアアアアアアアァ!!熱い足が熱い助けて助けてぇ」

「やめろ!止めさせろ!」

「いゃあ!アンガスちゃん!止めて止めさせて!」


 護衛騎士達が何人も僕に向かってくると、首だけになった犬が護衛騎士の喉笛に噛みつき護衛騎士達は成す術もなくその場で絶命してゆく。


 絶命した騎士に触れて力を使う。


『起きろ』


 ユラリと騎士達が起き上がり、側妃は絶叫して気絶した。


 化け物化け物と半狂乱で叫ぶ父、俺は父に話し掛けた。


「なんで母上を殺したんだ?」

「わしは殺してない!殺すわけがない!」

「ならその女?」

「わしは何も知らん!」

「そっか、興味なかったんだね『やれ』」


 犬はガブリと父の足に噛みつき、騎士達が剣を振り上げる。

 後は見なくても同じだ、俺に変えられた者は朝日を浴びれば灰になり土に返る。


 空から光の粒子が降りてきた、どうやら俺は帰ることが許されたようだ。

 帰還の聖光が全身を包み始め、気がつけば背中に12枚の羽がある、俺本来の姿に戻っていた。

 そうだ、あの犬を連れていこう。

 指を鳴らし犬を呼び寄せ、首と胴体を元に戻して抱きしめる、母がしてくれたように。


 これが愛しいという気持ちなのか。


 俺は戻る、この世界で異質だったように、この世界で心を手に入れた俺はあちらの世界で異質な存在になるだろう。





 だがそれは嫌ではない。







 城から光の柱が天へと伸びた、それは昼間のように眩く輝き人々は何ごとかと大騒ぎになる、光が収まるとこの国の第1王子は消えていて、王侯貴族は惨殺されていたと言う。


 王子の母は元は天から使わされた聖女であった。

 本来ならば世界の為、神の代弁者として世界を救うはずが、この国の王が無理矢理騙すように王妃としてこの国に囲ってしまった。


 王は神の怒りにより王妃に触れる事は叶わなくなった、にも拘らず王子は生まれ処女受胎された神の子だと噂されていた。






 人々は嘆き悲しんだ、聖女と神の子が天へ還られたと。

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