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【2】始源編 第1話 終わりの痛み。


この回だけは前作の文をかなり踏襲していますが、


 その後の展開はガラッと変えていきます。




 残業。午前様手前まで。

 それが終わると親友から電話かかってきた。

 それは飲みの誘いだった。

 キャバクラ行って…焼き鳥屋にも行って…

 しこたま飲んで…酷く酔って…

 …俺はなんでか歩いて自宅に帰る事にして…


 …あれ?



 ────何処だココは。



 俺は目覚めた。目覚めたそこは固く、デコボコした地面の上だった。



「……何処だ。ここ。」



 まだ冬ではない。とはいえ、路上で寝ていい季節でもない。よく死ななかったもんだ。酔っていたとはいえ、三十も過ぎてこれは軽率すぎだろうと反省しつつ、


(まだ早朝なのか…?いや、そんなはずはない…)


 と、意識があった時はもう既に朝だったはず…と思い出す。


(という事は…今はまさか、夕方なのか?夕方になるまでずっと路上で寝てたのか?…にしては…)


 景色に赤みがない。だが夜にしては明るい。ただ薄暗い。そんな周囲に違和感。そこでようやく、詳しく知ろうと周囲に目を…


 「ゲキ…」


 なんかいた。


 すぐ近くに。


 それは、ひどく小さな…え?


 その手を見れば棍棒らしきもの……え?


 振り上げて……え?


 振り上げたそれ……ええ?


 どうするつもりだこの人は。


「……はあ?ちょっ…」


 そんな俺の間抜けな声に拍子を合わすように



 ──ゴッッッッ、!



 視界とッ意識ッッ!?──白─赤─黒─(あ…ヤバ…)────明、、滅、、かつて感じた事のない痛みっ。それにこの…重い衝撃っっ。


(…攻撃?された…っ!?)


 あの棍棒で──打たれ…えぇっ?意味不明な衝撃は電流に似た感覚を伴い、頭蓋を介し、伝播し──こめかみ─眉間─鼻先─経由して────ガチン!歯と歯。噛み合わせた。強制的に。

 だがその不完全な咬合では衝撃を殺せず。頚椎にまで歪に作用して……その時やっと脳裏に浮かんだ言葉。それは…


(なんだこれ……)


 ……タ…タ…「……お…」


 …タパ、タパパパパ……眼下、地に大小の赤い水玉模様が描かれていく。いや、垂れていく…いやこれは…濡らしていく?


(──あ…これ、俺の血か?──)


 あまりに突飛な状況。あまりに突飛過ぎてもはや不思議でしかない。呑気な速度で首を旋回。もう一度見る。その小さな──いや、


 顔はデカイ。ブヨブヨに膿んで膨らんだようなデカ鼻。やたら離れて在る小さな眼。口はやたらデカくその口に不相応なほど下顎は引っ込んで、皮膚は濡れたように脂ぎっていて吹き出物がちらほら…


(なんて…醜い…いやこれは失礼か…)初対面の相手に『醜い』とか何様。(でも…)


 変な表現だが円形脱毛症が逆転した感じ。感覚を大きく空けて不規則に纏めて生えた毛の束が逆立ち耳も後方に向け尖り、後頭部がやたら出っ張っていて…どこを見ても人間離れしている。


(つか頭、デカすぎないか)


 なのに身長がやたらと低い。120cmくらいか…3頭身。幼児みたくポッコリと出た下腹。それ以外の部位は妙に引き締まって脚はやたらと太く、短かった。なんで筋肉の有り様まで見えたかと言うと、裸だったから。この人物が着てる服が腰蓑一枚だけだったから。


(……腰蓑?…棍棒?…)


 …なんか向こうも不思議そうにこちらを見ている。いやいや…「あんたこそ正気か?」と言いたい。掴み持ったその棍棒の先なんかを見たら本当にヤバいヤツだと知れる。赤く濡れてて……


(そう赤く…って……あ…俺の血?つーか!なんでまた棍棒振り上げてんだこのおっさ……!「っ 、う、おおぉ!」


 振り落ちてくる ブ ンっ! 咄嗟に首を捻る!迫る棍棒から頭だけはと逸らす!首がビキと音を鳴らした!ああでもなんとか間に合わす!致命傷はまぬが─いや鎖骨っっ。


  強打!…された…っまたも経験ない痛み!転がって立つ。その拍子に「ぐう…」利き腕が上がらないほど痛んだ。これ。鎖骨。 折れた?


「何だ…何だ何だコレ!」


 なんて言ってる間も狂気は迫る。今度は膝を砕きに…慌てて膝を後ろに下げる。が、それでは不足。空振った棍棒はもう片方の膝を… ガつ…っ 掠めていった。


(ぐうう。これまた痛いっっ!)


 掠めただけでこの痛さ。そこでようやく危険信号。我ながら色々遅すぎるっ。ともかくもっと動け!動けっ!ああ、しかし膝に力が…クソ。ん?さっき下げた足がいつの間にか前にっ!? 振り上げていた無意識に。本能のサッカーボールキック。これが精一杯か。ともかく振り抜く!あら。後ろに傾いて…


 転倒してしまう俺っ。

 尻もちをつく俺っ。

 不発に終わった?

 早々に諦めた俺っ。


 …だったのが… …メリッ。…革靴越しに嫌な感触。


 伝わった気がする。爪先がヒットしていた?見れば片手で片目を押さえて…?おお、痛がっている。


(え。俺、潰しちゃった…のか?他人の眼球を…)「ゲキーーーー!!!」(うわあ)…どうやら潰していたらしい。


 とてもイタがっている。ボタタと臭っさい唾液を撒き散らし…しかしそうやって怯んでおきながら棍棒を振り回すその勢い…凄い。動きは大きく拙いが起こりが異常に速い。肩から先の像がブレて見える。


(…あんな力で、しかもあんな硬そうな棍棒で殴られたっていうのか。俺は…)


 頭部のキズが改めて心配になった。気になるとぶり返す。それか痛み。鈍く大袈裟に脈打って──だけど──まずはこの…何でか躍起になって俺を殺しに来てるコイツ…(そうだっ!コイツをなんとか…やいやなんとも出来るかよっ!こんな狂人相手に…!……ここは……そうだ!逃げるっ!)


 ここがどこだかどこに向かえばいいのか分からない。ともかくこの危険人物から──(逃げるっ!)そう判断した俺は安易に背を向け一目散!とはやはりいかなかった。


  ドこぉっっ!(…っうッ!)


 息が詰まる。硬い衝撃。背中を殴られた?傷めた膝が祟ってつんのめるっ 腹ばいに倒れ伏す。その背中に…


 ド…ッ。


 生暖かい重み。悪寒。何かが俺の背中にのしかかった。慌て身をねじる。見上げれば案の定だった。馬乗りだ。


(……おいおいおいおい……)

 

 マウントからの打撃?今まで受けた事?ない。これからの人生?予定なんてない!しかも、(あ…………)ほらまた。馬鹿の一つ覚えみたく振り上げられる棍棒(きたあっ!)


「う、ワワワっ!」


 振り落ちる過程の棍棒…それを握る拳を慌てて下からっ!掴み取れた。堰き止めた。(なのに……っ)相手は片腕で振ってきたのだ。それをこっちは負傷しているとはいえ、両手で掴んだ。しかもこれほどに身長差がある。という事は体重差だってかなりある…っ(…はず……だってのに!なん、て…力、だよ…コイツっ)


 だがそこは棍棒。刺突武器ではない鈍器。振り下ろす速度が殺されれば脅威なんてなくなったも同然。敵はそれに早々に気付いた。棍棒を諦めた。


 だが…

 カパぁ…「ひぃ…っ!」

 大きく開かれた、大きな口。


 防御に手一杯な俺の腕に、敵は、躊躇なく噛み付いた。背広とカッターシャツの袖越しに激痛。次の瞬間には本能的な動きでブンブンと振られ…痛いイタ痛いっ!(コイツは…ホントに、狂ってる…)再認識。その時だった。


《──生命の危機を察知──》




 何かが、何かを言ったようだった。




《──『迷宮スキル』【戦録】。強制的に覚醒──》




 が、俺はそれを聞き逃す。文字通りそれどころではなかったからだ。駄目なのだ。もはや。(コイツは、人間だと思って相対しては駄目だっっ!)


 ──プっつ──


 何かがどこかで切れた。怖ぞ気。それを何故か俺は力とした。俺は腕に噛み付かれたまま、焼け糞になったかのように、強引に、 


 ばルンッッ!


 全身のバネを鞭打つ!歯間から血が滲むほど力むっ!身体中の筋肉巻き込んでひねるっ!今までずっと使われないでいた部位!それらが聞いた事のない悲鳴を上げる!するどどうだ俺の股下に……いたのだ敵が。


 マウント、逆転?(立場、逆転?)


 俺が馬乗りに。敵は何故かの股下に。しかも棍棒まで奪い取って…はあ…?いつの間に…


(俺こんな動きを…?やれば出来るってか?…にしたって…)

 

 色々と不審に思う。

 不思議にも思う。

 だがそう思う以上に思うのは、


(でもここから俺…どうすりゃいい?)


 ソレ(・・)を掴む手には微かなぬめり。持ち馴れない感触。血塗れの棍棒。なんだ?やたらと重い。これを使って俺は今…何をしようとしていた?


(振り下ろ  す……?)


 どうなる……振り下ろしたら?俺の股下には、ジタバタ足掻く小さな敵。そのやたら小さい身体に見合わぬ大きさの頭を、見つめる…見つめる…それでも。どう見直しても。


 攻撃する(まと)には思えない。


(こいつを今から殺す?なんだ…現実味のない…)


 だが、そんな躊躇に使っていい時間は許されてなかった。確かマウントポジションとは絶対的に優位な態勢…と聞いていたのだが。実際にやってみたそれは思いの外不安定。動きを制してやろうとするが上手く出来ない。

 身長120くらいしかないその上は思ったより座りが悪かった。危うく逃げられそうに。焦った俺の身体は棍棒を振り上げ直した。そしてそのまま、


 ゴ…「がギャッ!」


 振り、下ろしていた。きっとこれは人生初の…

 …純粋な殺意が乗ったアドリブ。


 ガ…「ギィ…ッ!」


 また… これは…無意識が呼び起こしたこれは…

 …むき出しの本能がさせた追撃。


 それでも浅い。届いてない。命までは。


(そりゃそうだ。いくら凶暴な相手だからって……正当防衛が成立するかもしれないからって……人の命を奪うなんて事…)


 …こんな俺に出来るはずもない。そうやって俺の生存本能が魂レベルの拒絶に負けそうになっていた───その時。


 

 ゾぶ



「、あ、…、?、え…」



 ──胸に痛み。


 それは、初めて経験する痛みだった。

 それはそうだ。それは…


 ───正真正銘の致命傷。


 その痛みだったのだから。


 

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