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【1】プロローグ編 終話 異端児。




 ──この世界は食い尽くされた。



 侵食と増殖を繰り返す『空間生命体』



 ──ダンジョンによって。



 世界各地、無数に発生したそれは最初、

 『穴』だった。

 どれもが似たような穴だった。

 黒く渦巻く異質さも同じ。

 

 だが各国の調査団がその穴の中から持ち帰った調査報告は様々だった。


 そこには、攻撃的な怪物が闊歩する迷宮があった。


 そこには、精神生命体が隠れ住む秘境然とした大自然があった。


 そこには、剣と魔法が実在する、ファンタジーじみた世界があった。


 そこには、科学が異常発達したSFのような世界があった。



 ──それら全てが、今にも地上に溢れかえろうとしている。





 ……………………どの内容も奇天烈過ぎる。





 なので最初はどの報告も信じてはもらえなかった。多くの犠牲を出しながら命懸けで貴重な情報をもちかえったそれぞれの調査団は半狂乱となって事の重大さを訴えたが…ようやく信じてもらえた時点ではもう、全てが手遅れとなっていた。


 バラバラの内容で報告されたそれら『ダンジョン』に共通して言えるのは、発生した地点から侵略し、侵食し、吸収した分だけ形を変え、拡張されていくという事。


 その対象は人も建物も動物も植物も無機物有機物問わずあらゆるものに及んだ。

 当然、多くの命が失われることとなった。ダンジョンに飲み込まれ、ダンジョンの糧となったのだ。


 しかもこのダンジョンなるものは、地球上全ての土地を食い潰すに飽き足らず、さらなる変異をもたらした。

 

 なんと『共食い』を始めたのだ。


 その結果、ダンジョン群は複雑怪奇に捻じれ、絡み合って世界の形を更にと大きく変えてしまった。


『かつて東京メトロと呼ばれていた場所に迷い込み彷徨っているうちに、いつの間にかかつてのニューヨークメトロを歩いていた』…なんて話はザラだ。珍しくもない。


 こうして数少なくなっていた人口はさらにシャッフルされ、地球のすべてが人種の坩堝と化してしまった。その坩堝には異世界の人間までが含まれる。しかも複数種の。これで混乱しない訳がない。


 その混乱への救済措置であるかのように『統一言語』なるものまで自然発生。


 全ての人類が、全ての人類にとって身に覚えのない言語を世界同時に話し出し、書き始め、読み始めた。


 互いに意志の疎通が可能となってからの方が混乱が増した事は余談ではあるが、これ以上なく皮肉な話だ。


 ──かつて天を衝くほどの巨大都市『バベル』を建造し神の恐れと怒りを買い言語の統一を解かれ、意志の疎通が困難となった人々は各地に散るしかなかった──


 まるでこの伝説を逆行するかのようなこの現象を境に、誰が言い出したのか…自然な流れとして、西暦は『BABEL暦』と改められた。

 これはもはや人類のみならず神をも巻き込んだ壮大な皮肉だろう。


 いちいち挙げては切りがないこれらデタラメな現象を食い止めるには、ダンジョンというこの『空間生命体』を一つ一つ地道に…しかも根絶やしにする以外手立てなどなく、しかも討伐する方法は各ダンジョンの最深部に在る『コア』を破壊する事、これ以外にない。


 無数のダンジョンを相手にそんな事を?

 ──不可能だ。実際不可能だった。


 かくして地球は無数のダンジョン群によって侵略され尽くした。地も海も…空までもだ。つまり、完全にダンジョン化してしまった。


 ……当時を知る生存者達。

 その誰もが言う。

 「あっという間の出来事だった」と。


 そんな過程に晒されては、政府というものを維持する事など不可能。今や国という概念は滅んで失くなった。


 とってかわったのはダンジョンが支配する『エリア』という概念。そしてもう一つ。『トライブ(部族』だ。


 人類も黙ってはいなかったのだ。この理不尽に最後まで抵抗する者達も中にはいた。


 ダンジョンが発生してから新たに導入された世界基準は『統一言語』だけではなかったのだ。


 『レベル』だの『経験値』だの『スキル』だの『魔力』だの『魔法』だの『魔物素材』だの『魔道具』だの。


 それらファンタジーな『力』を幸か不幸か手にし、『人外』となった者達はダンジョン攻略を最後まで諦めなかった。

 中には悲願叶ってダンジョンコアまで辿り着いた者達もごく僅かだったが、いた。


 だがしかし、その強者たちの中でダンジョンを討滅する事を選んだ者は、一人としていなかった。彼らが選んだのは、ダンジョンを支配する事だったのだ。


 『ダンジョンマスター』の台頭である。


 ダンジョンマスター達はダンジョンの力を足掛かりに世界に覇を唱えた。従う者は『眷族』とし、彼らには力を授けるその代償として絶対服従の呪いをかけた。そうして形成されていった異能集団と、彼らの力を頼り集まって集団の礎とならざるをえなかった弱者達。このような流れで『トライブ』は乱立していった。

 トライブとそれを統べるダンジョンマスターはその軍事力をもって他のダンジョンと、そのダンジョンが支配する『エリア』、時には他のトライブまでもを侵略、支配するを繰り返し始めた。


 


 …人類史上、こんな世はかつてなかった。


   ダンジョン。


 この異形なる存在がほんの一握りを除く全ての人類にとって最悪の災厄であったのは間違いのない事だった。しかも最悪はまだ終わっていない。


 完全にダンジョン化した地球。その『内部』ではいまだ…ダンジョンは発生し続けている。人知れずに。



 時には異例中の異例として、



 『人体』



 その、内部にまで。



 これは、世界を侵すダンジョンという異形に食いつぶされた末期の地球を、その異形からすら『異端』とされた者達が救おうとする…そんな皮肉に溢れた物語。


 果てしなく彷徨う独りの男と一つのダンジョン、それに付き従う眷族と仲間達。いやがおうにも風雲を呼んでしまう彼ら異端児達が藻掻き、足掻いて、それでもと確かな軌跡を描いたこれは、反撃の物語。




 よろしければ。

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